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期待のミュージカルアニメ『練馬大根ブラザーズ』
おろしたてインタビュー(前編) 浦沢義雄の巻


 2006年1月9日より放映が始まる『おろしたてミュージカル 練馬大根ブラザーズ』は愉快なミュージカルアニメという事だけでなく、個性派スタッフの作品という事でも期待が高まるタイトルだ。編集部では放送開始を前に、シリーズ構成の浦沢義雄、監督のワタナベシンイチに取材を敢行した。どちらの取材も「練馬大根日記」に登場している藤本昌俊プロデューサーが立ち会っている。まずは浦沢さんから登場していただこう。

●2005年12月14日
取材場所/東京・アニプレックス
取材・構成/小黒祐一郎



小黒 「練馬大根日記」の原稿、毎週ご苦労様です。
浦沢 苦労してますよ。引き受けなきゃよかった(苦笑)。
小黒 いやいや、パンチの効いた原稿にいつも感心しています。
浦沢 もうネタがないからなあ(笑)。
小黒 ナチュラルな感じで書いていただいても、いいんですけどね。
浦沢 俺ね、ナチュラルに書けないみたい。それは職業病というか、普通の事が書けないの。
小黒 「感動は、目の濁った人のするもの」と書かれていましたね。確か小説「たまご和尚」でも同じ事を書かれていたと思いますけど、そういうものなんですか。
浦沢 それは持論です。……嫌いなんです。
小黒 (笑)嫌いなんですね、感動が。
浦沢 感動しない事が美しい。
小黒 でも、アニメの脚本を書いていて、感動させなくてはいけない事もあるでしょう。
浦沢 それは比較的、避けてるよ。
小黒 (笑)。
浦沢 なぜ感動が嫌なのかというと……俺、子供の頃って、感動なんかしなかったと思うんだよね。感動なんて、物心ついた頃からしだすんじゃないの。子供の頃は、自分の気持ちの方がきれいだから、何を見ても感動なんかしなかったような気がする。山を見てもきれいだなんて思わないのは、自分の気持ちの方がきれいだから。
小黒 ああ、そういう事なんですね。
浦沢 そういう事なんですよ。感動は、心の美しさのなくなった人がするものだ。「目が濁っている人=大人」という事なんです。
小黒 子供は感動しませんか。
浦沢 本当に心が美しい少年と少女はしないと思う。俺は子供っぽかったから、中学ぐらいまで感動した事がなかったような気がする。高校になってもあんまりしなかったかな? まあ、そんなに大した話じゃないけど(苦笑)。
小黒 いえいえ。で、そんな浦沢さんの最新作のお話をうかがいたいんですが。この『練馬大根ブラザーズ』はどういったかたちで始まった企画なんでしょうか。
浦沢 これはね、勝股(英夫プロデューサー)さんから話がきたんだけど。勝股さんが「この会社(アニプレックス)がちょっと儲かったから」って(笑)。
小黒 いいんですか? 今の話を活字にして。
藤本プロデューサー(藤本P) ああ、いいですよ。
小黒 大らかだなあ。「好きな企画でもやろうか」という話だったんですね。
浦沢 という事なんじゃないの? だと思うんだけど。
小黒 元々「ミュージカルをやりましょう」という話だったんですか。
浦沢 そうです。勝股さんがやりたがってたの。俺はそんなに乗り気じゃなかったけど。
小黒 えー!?(笑) 身も蓋もない!
浦沢 俺はミュージカルはどうでもよかった。だって、ミュージカルなんて、分かんないんだもん。
小黒 今まで、いっぱいやってるじゃないですか!
浦沢 やってるけど。本人はそんなに分かってないから(笑)。
小黒 例えば「うたう!大竜宮城」とか「なんちゃってミュージカル」なんですか。
浦沢 そうですよ。
小黒 (苦笑)。
浦沢 あれは、どっちかっていうと昔の歌謡曲映画とか、歌謡ドラマだと思っていますよ(笑)。きっと日本はさ、それしかできないと思ってるんだけどね。向こうのミュージカルと同じものをやるのは無理なんじゃないかな。
小黒 浦沢さんが、最初にやったミュージカルはなんなんですか。
浦沢 ない。
小黒 ないんですか(笑)。じゃあ、歌を入れたドラマは。
浦沢 東映のやつ(不思議コメディシリーズ)でも、よく歌は入れてたよ。
小黒 「大竜宮城」とかですね。
浦沢 その前のやつでも。やたら歌を書いて入れてた。
小黒 それはシナリオの段階で書くんですね。
浦沢 そうそう、昔っから詞を書くのが好きなんです。「カリキュラマシーン」でも「詞書くの、俺がいちばん巧いな」と思ったんですよ。結構、詞に自信あったんですよ。誰も認めてくれないけど(笑)。
小黒 確か『はれぶた』でも、ミュージカルの話をやられてますよね。
浦沢 それが(今回の作品を)やるきっかけなんだけどさ。こっちがホン(脚本)書いていくじゃない。それを(ワタナベ)監督が勝手にミュージカルにしちゃっただけだから。ホンの段階では、全然ミュージカルにはなってないから。
小黒 あ、そうなんですか!? 普通の話だったんですか。
浦沢 それを監督が全編ミュージカル風にした。だから、今回も基本的にそういう事なんですよ。俺は普通の話を書いておいて、それが演出でミュージカル仕立てになっていく、という事なのよ。
小黒 シナリオ段階で歌詞がいっぱい書いてある、という事ではないんですか。
浦沢 いや、ないない。だって曲とかないもの。そんなのできないでしょ、毎回曲を作るなんて。
藤本P いや、作ってるんですよ。
浦沢 え、作ってるの?
藤本P 毎回シナリオを読んで「ここら辺で曲がほしいな」という事になったら、曲を依頼してます。
小黒 作ってるそうですよ。
藤本P 浦沢さんって、脚本を書いた後の作業には関心ないんですよね。だから、私達がどんなに苦労してこの作品を作っているか理解してないでしょ。
浦沢 興味ないもん。
一同 (笑)。
浦沢 人が苦労してるところなんか(笑)。みんな、興味あるんですか? ホンが上がっちゃえば、その後は何も言う事はないと思っているもの。
小黒 浦沢さんは完成した作品は観るんですか。
浦沢 比較的、観ない方。アニメーションってほとんど観ないから。
小黒 それはポリシーとして観ないわけではないんですよね。
浦沢 それ以前に、TVを観る習慣がないんですよ。
小黒 でも、サンプルでDVDとかビデオとか、送られてくるでしょう?
浦沢 うちはビデオもDVDもないから(笑)。
小黒 ビデオもないんですか。
浦沢 ビデオは壊れたままになっちゃってる(笑)。DVDは、たまーに子供のプレステで観るぐらい(笑)。それもTSUTAYAで映画を借りてきて、ちょっと観るぐらいだね。サンプルなんかはほとんど観ないよね。
小黒 なるほど……ああっ、ツッコミづらい取材だ!
浦沢 だって、サンプルを送ってくるのは、オンエアが終わってからだから。
小黒 仕事の役には立たないわけですね。
浦沢 そうだよ。そのサンプルも人にあげちゃうもん(笑)。子供とかさ、欲しがる人がいるじゃない。
小黒 えーと『練馬大根』の話に戻しましょう。ストーリーは、監督と一緒に作ったんですか。
浦沢 いや、ストーリーは俺が1人で作るんだけど、それを監督がチェックしている。1稿を書いてきたら、プロデューサーと監督が読んで「ここを直してください」と言うんだよ。で、それを直す。
小黒 (笑)。もっと込み入ったやりとりはないんですか。キャラクターについて議論したり。
浦沢 うーん、監督もそんなにキャラクターとかについて深く考えたりしてないよね。
藤本P いや、そんな事はないですよ。絵コンテ描く時とか、後の行程で色々と考えていると思いますよ。
浦沢 あ、そう。自分が求められてるのは、要は話の展開だけだと思ってるから。俺、どっちかっていうと、キャラクターは描けないタイプだから。
小黒 そうなんですか?
浦沢 大体、無視して描いてるよ。ドラマ性がないのが多いから、そんなにキャラクターが大切じゃないんですよ。それより“ちゃんと”思いつきを描いて(笑)。
小黒 思いつきが大事なんですね。
浦沢 そうそう。それしか興味がない。これは是非書いといて。
小黒 ドラマとかキャラクターには興味がない、と。
浦沢 うん。そんなのは適当に演出でやってください、って(笑)。
小黒 これ、活字にして大丈夫ですか?
浦沢 大丈夫だよ。
小黒 相変わらずスカッとしてますねえ。
浦沢 それでずっとやってきたから、もう……。
小黒 それだけやってきているから、今さら問題ないですよね。
藤本P アッハッハッハ(笑)。
小黒 シリーズ全体の着想とか、どうして今回こういうお話にしたかとか、そういう話を聞かせてください。
浦沢 タイトルを『練馬大根ブラザーズ』にしよう、と言ったのは、きっと俺だと思う。勝股さん達の方に「ブルース・ブラザーズ」みたいなのをやりたいというのは先にあったんだよ。それで俺が「練馬大根」をつけて。なんだかよく分かんないけど、ただ言葉が面白いから(笑)。そういう事だったと思いますよ。
小黒 なるほど。僕らはまだ内容をよく知らないんですが、主人公の3人は何をする人たちなんですか?
浦沢 1人はホストでしょ。1人は練馬の大根畑の持ち主で、お百姓さん。で、1人はその親戚の居候の女の子。それでバンドを作るんだよね。いずれここ(自分の大根畑)にドームを建てたいという夢を持ってる。それは監督が継ぎ足したんだ。「そういう設定にしよう」って。
小黒 なるほど。ちゃんと監督のアイデアも入ってるじゃないですか。
浦沢 そうそう。「ドームを作る」とか「バンドを作る」とかは監督が足したんだ。パンダがなんで出てきたのかは知らないけど。
小黒 浦沢さんは、今回どの辺が狙いなんですか。
浦沢 そういうの分かんないんだよね(笑)。いつも、狙いなんかほとんどない。
小黒 制約とかは少ない作品ですよね。
浦沢 そう、なんにもなかったですよ。
小黒 好きなように書けたんですか?
浦沢 書くのは、いつも好きなように書いてますよ。
小黒 あ、そうですか(笑)。1話のコンテをちょっと拝見したんですけど、わりとホモっぽいネタが……。
浦沢 そうですね。1話はそうなってる。
小黒 あれは脚本のとおり?
浦沢 そうです。
小黒 今回はああいったネタもふんだんにあるんでしょうか。
浦沢 いつもよりは多いよね。俺が書くのは、あまりそういうのはないんです。子供向けのしかやってないから。だから、本当の事を言うと、大人向けっていうのは、よく分からないんだよ。
小黒 「この作品は大人向けだから、ちょっとこんな感じに書いてみよう」とか。
浦沢 そういうのはできない。
小黒 あ、できないんですか。
浦沢 そう、大体同じなの(笑)。だから「アイデアがちょっと子供っぽい」と監督に言われて、ボツになったりしてた。
小黒 色恋の話とかもあるんですか。
浦沢 いやあ、大した色恋なんて。この3人でじゃれあってるようなもんだから(笑)。
小黒 ……もうちょっと、記事を読んだ人が「観たい」と思わせるような事を話した方がいいんじゃないですか。
浦沢 あ、そう? いや、じゃあ、凄いよ(笑)。
一同 (笑)。
藤本P 何が凄いんですか!
浦沢 この3人の愛憎が(笑)。
小黒 ありますか、愛憎。
浦沢 ありますよ。最後は仲違いするんです。
一同 (笑)。
浦沢 そうか、記事を読んでるのは真面目な人なんだね。俺はいつもインタビューで損してるんだ。ちゃんと熱っぽく喋った方がいいんだな。原稿にする時に、ちょっと直しといてよ。
小黒 ええっ!?
一同 (笑)。
小黒 熱っぽく「いやあ、僕は特にやりたい事はないんですよ!!」と「!!」をつけるとか。
藤本P ハハハハハ(笑)。
浦沢 「やりたい事は全てです!」と。
小黒 「やりたい事は全て作品の中に込めました」と。
浦沢 「今までの脚本家生命を賭けて、全てを出し切ってる!」。
小黒 それをカッコ笑いつきで。
浦沢 (笑)。「おろしたてミュージカル」って、いいタイトルじゃない。
小黒 それは誰がつけたんですか?
浦沢 監督がつけた。俺が最初に言ったのは「ジアスターゼ・ミュージカル」(笑)。
小黒 え?
浦沢 ジアスターゼ。大根だから。監督が「それじゃダメだ」と言って「おろしたて」にしたんだ。
小黒 監督とのコンビネーションは、いかがでしょうか。
浦沢 『はれぶた』の時にずっとやってたから。
小黒 浦沢さんから見て、監督はどんな方ですか。
浦沢 変人だよな(笑)。
藤本P (爆笑)。一言で言い切りましたね。
浦沢 だって、自分の「間」でしか仕事できないもん。他の人と一緒にやっていくのとか、できるのかなあ。できる?
藤本P う〜ん、そうですねえ……。監督は自分のやりたい事を通しますよね。
浦沢 勝股さんは、そういうところを買ってるんでしょ?
藤本P そうですね。
浦沢 仕事に関しては純粋だよね。ただ、自分勝手だからさ(苦笑)。一緒にいるとたまーに「大変だなあ」と思うよね。
藤本P うん、そうですね(笑)。バランスとかは考えられないタイプですね。
小黒 あ、藤本さんがいちばんひどい事言ってる(笑)。
藤本P いやいや!
浦沢 監督は働き者なんでしょ?
藤本P うん、真面目ですよね。純粋ですよ。
浦沢 俺はなるべく、そこには入らないように(笑)。
小黒 (笑)なんですか、「入らないように」って。
浦沢 監督が好きなようにやらせるしかないじゃない。ライターとやりあって作っていく人もいるけど、彼はそうではない。監督がやる気になって作りたいようにやるしかない、という感じでしょ。それは『はれぶた』をやってたから、よく分かる。
小黒 浦沢さんの方で、ある程度は合わせるという事ですか。
浦沢 いや、それも嫌いなんですよ。合わせるとか、そういう事はしないですね。ホンを読んで彼の中でどんどん膨らんでいくだけなんだと思う。大体、ホンと全然違うものになっちゃいますよ。まあ、それはそれでいいんだけど。
小黒 (笑)いいんですか?
浦沢 演出家やアニメーターは、ホンからイメージを広げていくじゃない。俺はホンと全然違う事については平気なんですよ。ホンと同じなのがいちばん嫌だと思ってる。だって、ホンのままだったら、俺がコンテを切っても同じでしょ。
小黒 アニメでも実写でも、同じように考えているんですか。
浦沢 うん。監督がホンを見てやる気になれば、それでいいと思うから。
小黒 じゃあ、今回の『練馬大根ブラザーズ』もそんな感じに。
浦沢 アニメは特にそうだと思うよ。アニメはどんどん演出家の思ったとおりになる、みたいな気がしてます。まあ、大したストーリーがあるわけでもないし。
小黒 大したストーリーはないんですか(笑)。
浦沢 いわゆるドラマはあまりない。勢いでボンボンと進むだけだから。まして歌が入ってるからさ、話は少なく。
小黒 楽しい作品になっていそうですね。
浦沢 うん、なってると思う。いや、分かんない。だって、1話も観てないんだもん。
藤本P まだ、できてないですからね。

●「おろしたてインタビュー(後編) ナベシンの巻」に続く


(05.12.27)

 
 
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