第326回 『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』
『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』は、『メガゾーン23』の続編だ。ビデオリリースが1986年5月30日で、劇場公開が同年3月23日。劇場が先行しているため、本作についてはOVAではなく、劇場作品として考えるべきなのかもしれない(そのため、第325回「1986年のOVA」のリストに入れなかった)。この時期には、このようにOVAなのか、劇場作品なのか判断しづらいタイトルが多いのだ。ただ、この作品は成り立ちも、その方向性も、いかにもOVA的だ。前作『メガゾーン23』と同様に、初期OVAを代表するタイトルとして捉えているファンの方が多いだろう。だから、今回の原稿でもOVAとして扱う事にする。
『PART II』は、物語上は『メガゾーン23』の直接的な続編だ。前作の半年後の物語であり、主人公は前作と同じ省吾、ヒロインは由唯だ。最後には省吾のドラマにも決着が着くし、彼らが住んでいた「作られた1980年代の東京」も崩壊する。大筋としては『メガゾーン23』の完結編になっている。しかし、印象としては『メガゾーン23』と『PART II』はストレートにつながってはいなかった。
『PART II』ではスタッフが入れ替わっている。監督は板野一郎になり、キャラクターデザインと総作画監督が梅津泰臣となった。前作で監督だった石黒昇は、原作と監修の肩書きになっている。前作に続き、時祭イヴのデザインは美樹本晴彦が担当しているが、作画監督としての参加はない。スタッフの交代と共に、ビジュアルが大幅に変わった。キャラクターのビジュアルについては、前作はマンガっぽさがあったが、『PART II』は超リアルかつ美麗なものとなった。主人公の矢作省吾に至っては、声優まで変更になっている。今度の省吾は矢尾一樹。性格も、より男っぼくなった印象だ。とてもじゃないが、前作と同じ人物だとは思えなかった。
作品のテイストも変わった。省吾と由唯の仲間になるのが、ライトニングという男が率いる暴走族だった。派手に髪を染め、トゲがついた服などを着ているファンキーな連中であり、『PART II』は「暴走族対軍部(=社会)」の構図となった。由唯もダンサーを目指している場合ではなくなった。映画監督や歌手を夢みる少女が、メインキャラクターだった前作とは、まるでムードが違う。『PART II』では最初から、省吾は軍に追われる身だ。今回もガーランドを手に入れるが、それに乗って彼が活躍するのは中盤のみ。だから、ロボットアニメらしいロボットアニメでもなかった。前作は、1980年代的なヌルい雰囲気があったが、『PART II』はハードで乾いた手ざわりだった。
ただ、今だから「ハードで乾いた手ざわりだった」なんて言葉にできるが、初見時には、前作との違いに戸惑ってしまい、冷静に作品を分析する事ができなかった。クライマックスからラストに至る展開も分かりづらい。また、ラストシーンで、省吾と仲間達は再生した地球に降り立つ。そこにいるのは、省吾と由唯と暴走族のみ。友達と「地球は、暴走族の惑星になってしまったのか」と冗談を言い合った。
戸惑ったし、よく分からないところや、突っこみたくなるところはあったけれど、それでも、僕は『PART II』が気に入っていた。ビジュアルについては、次回以降で改めて書くけれど、作りきれていない部分がある。ではあるが、いいところは、痺れるくらいにかっこよかった。メカアクションや崩壊シーンなど、作画の見せ場もふんだんにあった。本作には、やたらと缶ビールが登場するのだが、ビールの缶やタバコの箱を銘柄が分かるようにきっちりと描いていた。かつてないデイテールへのこだわりだった。ドラマに関しては、メインストーリー以外に、端役の見せ場を作ったり、色っぽいシーンがあったり。また、ストレートにテーマを伝える部分もあった。中身も詰め込み方も違うのだが、色々なものを詰め込んでいるという意味では、前作『メガゾーン23』と同じだった。ドラマとビジュアルの両方に、ギラギラした感じがあるのもよかった。
ストレートなテーマというのは、例の「大人は汚いぜ」というやつだ。『PART II』に関して、よく話題になるのが、このセリフだ。それについては次回で。
第327回へつづく
(10.03.15)