アニメ様365日[小黒祐一郎]

第270回 『メガゾーン23』

 1985年にリリースされたOVAで、最も話題になった作品が『メガゾーン23』だった。ヒット作であり、「メカと美少女」というOVAの定番パターンを確立させた作品と言われている。ビデオのリリースは1985年3月9日。それから少し遅れて、同年3月23日に劇場で公開されている。僕はビデオソフトを買った友達に観せてもらった。
 主人公の矢作省吾は、東京で暮らすバイク好きの青年だ。テストライダーをやっている友人が、ロボットに変形するバイク型兵器ガーランドを持ち出した事から、彼は事件に巻き込まれ、ガーランドとともに軍に追われる事になる。やがて、省吾は自分達が住んでいる世界が1980年代の東京ではなく、巨大な宇宙船の中に作られた都市である事を知る。彼らが暮らす宇宙船は別の宇宙船と敵対しており、内部では軍部によるクーデターが進んでいた。
 ヒロインは、ブロードウェイを目指しているダンサーで、省吾の恋人となる高中由唯。もうひとりのヒロイン格のキャラクターが、アイドルであり、途中でコンピュータが作り出したバーチャルな存在だった事が判明する時祭イヴ(シンボリックなキャラクターではあるが、主人公との絡みは少ないし、登場場面も多くはないので、時祭イヴはヒロインとは呼べないかもしれない)。他には、由唯の同居人で映画監督志望の村下智美、歌手を目指している夢叶舞といったキャラクターが登場。自分達が暮らしている世界が「作られた現実」であったという筋立てのSFであり、同時に自分達を管理している大人や社会に対して、若者が立ち向かっていく青春ドラマでもあった。
 80分ほどの作品だが、以上の内容に加えて、メカアクションもたっぷり。1980年代の若者らしい生活、省吾と唯の恋愛、2人のベッドシーンも盛り込み、終盤では軍事国家に傾いていく事の恐ろしさまで描いていた。智美が、省吾と唯を主人公にしてアマチュア映画を撮るのだが、その内容が本編のドラマとリンクするという仕掛けもあった(省吾達の現実と映画内の中の出来事を重ねる事で、視聴者に、自分達の現実と『メガゾーン23』内で描かれている出来事はイコールかもしれないと思わせたかったのだろう)。とにかく様々な要素が詰め込まれていた。そういった作りだからこそ、繰り返しての視聴に耐えられる作品になっていた。それが『メガゾーン23』がOVAとして優れているところだった。
 原作・監督は『超時空要塞マクロス』を手がけた石黒昇。他にもキャラクターデザインや作画監督として、『マクロス』に参加した平野俊弘(現・俊貴)、美樹本晴彦、板野一郎が参加。美樹本は、時祭イヴのみをデザインしており、他のキャラクターは平野が担当。メカアクションとアイドル歌手の取り合わせも『マクロス』的であり、『マクロス』の路線を受け継いだ作品だった。初期OVAは人気クリエイターをセールスポイントにしたタイトルが多く、『メガゾーン23』はそういったクリエイター主義の権化のような作品だった。
 作画に関しては、シーンごとに凸凹があり、特に人物については、あまりよくないところもあるのだが、リリース当時、僕は『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』に匹敵するクオリティだと思っていた。メカアクションに関しては、それぞれのアニメーターの個性がしっかりと出ており、作画マニア的には大喜びの仕上がりだった。特に、庵野秀明担当パートが素晴らしい出来で、彼のアニメーターとしての代表的な仕事のひとつだ。板野一郎が原画を担当したのは、軍部と敵対する宇宙船との宇宙戦のシーンだったが、そのパートは板野自身が声の出演もしている。そういったお遊びも楽しかった。
 内容で印象的だったのは、クライマックスで省吾が軍に戦いを挑んで、敗北してしまう事だ。軍によって智美が殺害された事をきっかけに、省吾はガーランドで、宇宙船を支配しているコンビュータであるバハムートに突入。しかし、軍の若きリーダーB・Dと対決し、返り討ちにあってしまう。ラストシーンでは傷つきながら、唯の許に戻ろうとする省吾の姿を、時間をかけてたっぷりと見せている。体制に挑んで敗れてしまう青春の挫折。自分には何かができると思って行動するが、それを成し遂げる事ができない無力感を描いている。この作品がリリースされた当時としても、それは、フィクションの中の青春としてはクラシックなタイプのものだった。当時の僕は、そのラストシーンに共感はできなかったけれど、アニメでそういったドラマを描くのが新鮮だったし、面白い終わり方だと思った。
 偉そうな言い方になってしまうが、今回改めて『メガゾーン23』を観直してみて、ちゃんと作品になっていると思った。表現的には作り切れていないところがあるかもしれないが、作り手が伝えたい事を伝えるための作品になっている。それと同時に娯楽作にもなっている。いいバランスだ。若い主人公達を、ちょっと大人の目線を入れて描いているところがいいのかもしれない。

第271回へつづく

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(09.12.15)