第182回 『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』
昨日、自分が『風の谷のナウシカ』を『宇宙戦艦ヤマト』のようだと思い、それについて同じ意見を目にした事がないと書いた。すると、更新して間もなく、2人の方からメールをいただいた。押井守が「『ナウシカ』は『ヤマト』に似ている」と発言しているのだそうだ。2人の方が教えてくれたのは別の媒体で、片方が書籍で、片方がラジオだ。押井守は『うる星やつら オンリー・ユー』でも、『★ビューティフル・ドリーマー★』でも、劇中で『宇宙戦艦ヤマト』を茶化している。そんな彼なら『風の谷のナウシカ』を観て、古くさい事をやっているな、くらいの事は思ったかもしれない。押井守がどんな文脈でそう言ったのかは分からないが、少なくとも『ヤマト』に似ていると思ったのは僕だけではなかった。よかったよかった。
さて、以下が今日の本題。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』だ。これはTVシリーズ『超時空要塞マクロス』の設定やドラマを再構成し、全編新作画で制作した劇場アニメーション。公開日は1984年7月21日。TVシリーズでも、メカニックデザインや演出等の役職で活躍していた河森正治が、石黒昇と共同で監督を務めており、当時の河森はなんと24歳。キャラクターデザイン・作画監督の美樹本晴彦も、作画監督の板野一郎も、平野俊弘(現・俊貴)も20代半ば。他のデザイン、作画関連のスタッフも若手が中心だった。
劇場で初めて観た印象を一言で言えば「あの『マクロス』が、なんてまあ、立派になって」だった。なんだか、おばあちゃんが、あまり出来がよくなかった親戚の子どもの成長を喜んでいるみたいだが、本当にそんな気分だった。作画やメカアニメとしての魅力については、次回触れるが、ビジュアルはとにかくゴージャス。メカの物量も凄まじいほどのものだった。ストーリーはTVシリーズ序盤から、事実上のクライマッスだった27話「愛は流れる」に相当。設定の説明について端折り気味なところはあるが、ストーリーに破綻はなく、ミンメイの歌に乗せての大決戦は、盛大に盛り上がる。劇中で宇宙戦争と、個人の恋愛を同じ比重で描き、終盤ではアイドルの歌が戦いの決着をつける鍵になる。しかも、その歌が、当たり前のラブソングだったというオチも重要だ。TVシリーズのエッセンスを綺麗にすくい上げていたし、コンセプトはより明快になった。そのために『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』に対するカウンターになっていた(TVシリーズ『マクロス』は、パロディとしてやっている印象で、カウンターとしては弱かった)。そして、それと同時に『ヤマト』『ガンダム』に連なる宇宙戦争ものとして楽しむ事ができる映画でもあった。
第109回「TV『マクロス』と近親憎悪」で触れた、TVシリーズにあった主人公の未熟さ、人間関係の幼さは目立たなくなっている。観返しても、身悶えするほど恥ずかしくなったりはしない。勿論、そういった幼さが完全になくなったわけではない。例えば、三角関係の決着のつけ方はスマートではなく、輝が、自分が振ったミンメイに対して「君はまだ、歌がうたえるじゃないか」と言うのは、当時でも「おいおい、それはないだろう」と思った。それから、僕が劇場で観た時、映画後半で輝の部屋をミンメイが訪れ、彼女が輝に抱きついたところに未沙がやってきて……という場面で、客席のあちこちでクスクスと笑いがおきた。笑っていたのは女性が多かったようだ。笑った理由が、宇宙戦争もので三角関係をやっているのが可笑しかったからなのか、描かれている人間関係が幼いものであったからなのかは分からない。多分、両方だったのだろう。
ただ、そういったところを肯定していいのだと、今は思っている。宇宙戦争とごく当たり前の恋愛がイーブンに扱われるのが『マクロス』の面白さであるなら、そこで描かれる恋愛模様が大人びたものである必要はない。むしろ、ちょっと垢抜けないくらいの方が、宇宙戦争と恋愛との取り合わせが際立つのではないか。それに、そういった拙さは『マクロス』という作品の味のようなものだ。完全になくなってしまったら、それはそれでつまらないはずだ。
以下は、やや余談。映画の中盤で、2人だけで地球にいた輝と未沙が、マクロスに助けられる場面。先に輝が外を見ていて、奥から未沙が服を整えながら出てくるのだが、未沙の芝居は、2人が寝た事を示すものであり、初見時にはそれを「大人っぽい演出だなあ」と思った。今観ると、作り手が頑張って大人っぽい描写をしようとしているように見える。だけど、それも悪くない。頑張っている感じがいいと思う。
第183回へつづく
超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
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(09.08.05)