第178回 『風の谷のナウシカ』
『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』については、以前から宮崎駿の仕事を追いかけてきたファンと、この頃、宮崎作品と出逢ったファンとでは、受け止め方が随分と違ってるのではないかと思う。当時の若いファンは『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』を熱烈に支持していたし、僕はこの2作品について違和感を感じていた。旧来からのファンの皆が、僕と同じ感想を抱いたわけではないだろうけれど、「あれ?」と思った人は少なくなかったのではないか。
今回話題にするのは『風の谷のナウシカ』だ。原作は宮崎自身が月刊「アニメージュ」に連載していた同名マンガであり、この映画で彼は、原作・脚本・監督でクレジットされている。制作現場はそれまで彼が所属していたテレコム・アニメーションフィルムではなく、海外との合作が多かったトップクラフト。スタジオジブリが設立されるのは、次回作の『天空の城ラピュタ』においてだ。メインスタッフも宮崎作品としては異色で、作画監督を劇場版『銀河鉄道999』の小松原一男、美術監督を『機動戦士ガンダム』の中村光毅と、なにやらアニメブーム的な顔ぶれ。作画についても金田伊功、鍋島修、なかむらたかし、庵野秀明といった異色のメンバーが参加していた(金田伊功は、その後、宮崎作品の常連となるが、この時点では彼の参加は、間違いなく意外だった)。
宮崎駿にとっては『ルパン三世 カリオストロの城』に続き、監督を務めた2本目の劇場作品である。徳間書店とタッグを組んだ作品も、音楽に久石譲を使ったのもここから。同時上映は、イタリアとの合作だったが、途中で制作が頓挫してしまったTVシリーズ『名探偵ホームズ』。これも宮崎の監督作品だ。上映されたのは「青い紅玉の巻」と「海底の財宝の巻」で、これが正式な初お披露目となった。宮崎初のオリジナル劇場作品と、幻になりかかっていたTV作品が一緒に公開されるという、ファンにはたまらいない興行だった。アニメージュはここまで、ずっと宮崎駿を推してきていた。『風の谷のナウシカ』と『名探偵ホームズ』のロードショーは、その一連のプロジェクトの山場となるものだった。僕にとっては、それまで知る人ぞ知る存在であった宮崎駿が、ついに脚光を浴びる日だった。同じように思っていたファンも多かっただろう。
公開されたのは1984年3月11日。すでに僕は大学受験を終えていたはずで、公開が始まってすぐに、劇場に行った。そして「あれ?」と思った。『風の谷のナウシカ』では、文明と自然の対立が物語の主軸になっており、人間が腐海や蟲達に怯えて暮らす作品世界には、終末観に近いものが漂っていた。僕が当惑したのは、まず、その救いのない世界であり、殺伐とした物語だった。『未来少年コナン』や『カリオストロの城』にあった明朗さを宮崎作品の魅力だと思っていたので、初見時にはその違いに戸惑ってしまった。
違和感を感じたのは、それまでの宮崎作品とのギャップだけではなかった。王蟲をはじめとする蟲達、ナウシカが乗るメーヴェに代表される異世界の描写は新鮮だったし、それは面白いと思った(正直言うと、蟲愛でる姫であるナウシカには、あまり感情移入できなかった。人間ができすぎた少女だったからかもしれない)。冒頭で、ユパを王蟲から助け出すあたりはワクワクして観たし、中盤以降も真剣に観はした。だけど、最後に奇跡が起きて、死んだかと思われたナウシカが復活するのには首をひねった。正直に言えば、強引な展開だと思った。「ああ、宮崎さんも『宇宙戦艦ヤマト』みたいな事をやっちゃうんだ」と思った。他にも釈然としないところがあったが、それは当時、どうして釈然としてないのか、自分でも分からなかった。
『風の谷のナウシカ』についての話はもう少しだけ続く。釈然としなかった理由についても、次回で。
第179回へつづく
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(09.07.30)