アニメ様365日[小黒祐一郎]

第26回 『ルパン三世 カリオストロの城』

 奇跡の年だった1979年。その掉尾を飾ったのが『ルパン三世 カリオストロの城』だ。公開は1979年12月15日。劇場版『ルパン三世』の第2弾であり、宮崎駿初の劇場監督作品。誰しもが名作と認めるタイトルである。快楽原則にのっとって作られた娯楽作であり、とにかく見ていて心地よい。見せ場に次ぐ見せ場。名セリフに次ぐ名セリフ。話の進め方もスピーディ。また『未来少年コナン』同様に、キャラクターが身体をはった軽業的なアクションを披露。まんが映画的であり、ヨーロッパの古城を舞台にし、囚われのお姫様を救い出すという古典的なプロットを含めて、東映長編の香りもする。物語の主軸となっているのは、中年男となったルパンと、清楚な姫君であるクラリスの関係性だ。クラリスは宮崎監督の少女への想いが結晶となったようなヒロインであり、ルパンには明らかに監督自身が乗り移っており、純情な熱血漢となっている。
 勿論、アニメとしてのクオリティも高い。技法的な事で言えば、TV的な演出や作画の延長線上で成果を得た『銀河鉄道999』や『エースをねらえ!』とは、まるで違う方向性の作品だ。東映長編の流れを汲む正統派の演出であり、作画だ。といっても古めかしいわけではなく、より洗練されたものとなっている。デザインも、動きも、色も、美術も簡潔であり、表現になっているのだ。作画に関しては、軽業的なアクション、友永和秀によるカーチェイスも素晴らしいが、ごく普通の芝居でも、キャラクターの一挙一動もテキパキとしており、それがまたいい。
 それほどの作品でありながら、『カリ城』は公開当時は興行的には振るわなかった。以前にもコラムに書いたが(「アニメ様の七転八倒」第67回参照)、古城を舞台にしたまんが映画的な内容も、アニメーションのスタイルも、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』が人気を集めていたこの時期には、『カリ城』は時流から外れていた。公開後、徐々に評価が高まり、やがて名作として認知される事になる(「アニメ様の七転八倒」第68回参照)。
 『ルパン三世』ヒストリー的にも大きな作品だ。劇場第1作『マモー編』と同じく、『旧ルパン』スタッフがメインになった作品だが、ありとあらゆる意味で対照的だ。『マモー編』がアダルトでハードであるのに対して、『カリ城』は明朗でまんが映画的。『マモー編』が世界各地を舞台にして、人類の歴史すらも動かす怪人と戦うというスケールの大きさだったのに対して、『カリ城』はヨーロッパの小国が舞台。キャラクターの解釈もまるで違う。ルパンに青いジャケットを着せて「青ジャケ」「赤ジャケ」という概念を生んだのも『カリ城』だ。つまり、ここから、ルパンのジャケットの色が作品の方向性を判断する目印になったのだ。また、『PARTIII』以降の『ルパン三世』で、不二子がヒロインでなくなっていったのも、『カリ城』の影響だろう。
 『マモー編』と同様に、有料完成披露試写会で観た。その段階で、僕が宮崎駿や大塚康生の名前を、どの程度意識してたのかは覚えていない。だが、アバンタイトルで、ルパンと次元がお馴染みのハードル跳びのような走りをやったところで、『未来少年コナン』と同じ人達が作っている事が分かった。それから、記憶が正しければ、オープニングで宮崎、大塚の名前が出たところで拍手が湧いたはずだ。そういったノリに慣れていないので、ちょっと驚いた。
 びっくりするくらい面白かった。僕は『マモー編』の時も同じ事をしたのだが、上映中に何度も時計を見て残り時間を確認した。この楽しい時間が、あと何十分続くかが気になってしかたなかったのだ。中盤まで来たところで、クライマックスは次元や五右ェ門が大活躍し、カリオストロ城が崩壊していくのだろうと思った。頭の隅に、子供の頃観た『長靴をはいた猫』のイメージがあったのかもしれない。城は崩壊しなかったが、宝についての粋な種明かしには感心したし、ラストシーンの別れは、銭形の「あなたの心です」のセリフを含めてジンときた。非常に満足した。『マモー編』とも、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』とも違う喜びがあった。クラリスのために奮闘したルパンに感化されたのだろう。観た後に「よおし、僕も頑張るぞ」と思った。何を頑張ればいいのかも分からなかったけれど、頑張りたかった。映画館を出た後に、無性に走り出したかった。

第27回へつづく

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(08.12.10)