アニメ様365日[小黒祐一郎]

第107回 『超時空要塞マクロス』(TV版)

 前回(第106回 美樹本晴彦と大阪のメカキチ)書いたような理由で、僕は放映開始前から『超時空要塞マクロス』に期待していた。そして、いよいよ始まった『マクロス』は期待以上のものであり、同時に、思いっきり期待を下回ったトホホなものでもあった。物語も、シリアスとジョークが表裏一体になったようなところがあり、混沌としていた。そういった混沌ぶりを、僕らは楽しんでいた。
 『超時空要塞マクロス』が放映されたのは1982年10月3日から1983年6月23日。なんと、毎週日曜の14時に放送されていた。もしも、ビデオデッキがなければ、いい若い者が、毎週日曜の昼間にTVの前に座っていなければならなかったわけだ。ちなみに、その前の13時30分からは、アニメ版『レインボーマン』をやっていた。『マクロス』の原作は、SFのエキスパートチームとして知られるスタジオぬえ。チーフ・ディレクターは『宇宙戦艦ヤマト』にも参加した石黒昇。現在も『マクロス』シリーズを手がけている河森正治はメカデザイン、脚本、絵コンテ、設定監修等の役職で大活躍。河森も、キャラクターデザインの美樹本晴彦、メカ作監の板野一郎も、当時20代前半の若手だった。SF色の強さと、若手スタッフが多い事が、本作のカラーを決定していたのだろうと思う。
 タイトルになっているマクロスは、可変巨大宇宙戦艦の名前だ。その中に多くの人が住んでおり、病院やゲームセンターまである。主人公の一条輝は、可変戦闘機であるバルキリーのパイロットだ。ヒロインはラーメン屋の娘で、シリーズ中にアイドルデビューするリン・ミンメイと、輝の上官である未沙。巨大な異星人であるゼントラーディ軍との戦いが続く中、輝、ミンメイ、未沙の三角関係が描かれる。ゼントラーディ人は文化を持っておらず、また男女が別々に暮らしていた。そのため、地球人の男女がキスをしているのを目撃したり、ミンメイの歌を耳にする事によって、ゼントラーディ人はカルチャーショックを受け、戦闘不能に陥る。彼らがそういったショックを感じた時に、口にする言葉が「デ・カルチャー」だった。
 最終的に、アイドルであるミンメイと男女のキスが、宇宙戦争の勝敗を分ける鍵になる。ラブコメ、アイドル、メカ(あるいはSF)がこの作品の三大要素だった。また、宇宙戦争とラブコメが同等のものとして扱われるのが『マクロス』の新しさだった。異星人と戦闘した直後に、女の子と喫茶店に行くのが『マクロス』だった。そういった感覚は、当時の僕達の価値観にフィットしていた。その点で、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』とは明らかに違った作品だった。ゼントラーディ人が驚いて「デ・カルチャー」と叫ぶのを観て、僕らはゲラゲラと笑った。マクロスに潜入したゼントラーディ人の名前がワレラ、ロリー、コンダ(3人揃うと「我らロリコンだ」)だったりするのが楽しかった。少なくとも僕にとっては、そういったところが『マクロス』の最大の魅力だった。
 だから、『マクロス』はパロディチックな作品だと思っていた。特に何かの作品を茶化したり、なぞったりしているからパロディチックなのではなく、戦争中にアイドルと恋愛する感覚が、先行して作られたシリアスな宇宙SFアニメや、リアルロボットアニメのパロディになっていた。『戦国魔神ゴーショーグン』や『Dr.SLUMP』がパロディチックだったのと、同様の意味で、パロディチックだった。例えば、マクロスの艦長であるグローバルが、ブリッジでパイプをふかして、オペレーターのシャミーに「禁煙ですよ」と叱られる場面が何度かあった。今観るとパロディでもなんでもないのだが、当時の僕達の「宇宙戦艦の艦長に関する常識」からすると、女の子に艦長が叱られるのは、かなり笑える描写だった。
 メカに関しては、バルキリーの見事な変形、ゲーム感覚でマクロスを守るピンポイントバリア、それを利用したマクロスの必殺技ダイダロスアタックの豪快さ。そういったものが印象的だ。マクロスが主砲を撃つために初めて変形した時、ミンメイが遥か下に落ちそうになったり、建物が潰されたりと、艦内が大混乱になる。確かにメカが変形なんかしたら、内部はそうなるよなあ、と思って感心した。そういった凝ったメカ設定、あるいは、メカ設定からストーリーが生まれていく感覚が、マニアックで楽しかった。
 第66回「ぼくらの時代」でも書いたが、TVシリーズ『超時空要塞マクロス』は「ぼくらの時代」を代表するタイトルだ。それまでにない楽しさが、たっぷり詰まった作品だった。では、どんなところがトホホだったのか。それについては、次回以降で触れる事にしたい。

第108回へつづく

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(09.04.15)