第108回 「愛は流れる」と脳内補正が効かない作画
前回(第107回 『超時空要塞マクロス』(TV版))の原稿で、『マクロス』と一緒にやっていたアニメ版『レインボーマン』の放映時間を間違って書いてしまい、それについて何通かメールをいただいた。ご指摘感謝。それと、単純ミスをしてしまい、すいません(すでに前回の原稿は修正しました)。普段ならデータ的な事は、マメに確認するようにしているのだけど、昨日は書き上げてすぐに出かけなくてはいけない用事があって、チェックが甘くなっていた。間違えたのは、僕が『マクロス』は、ほぼ全話を録画で観ていたので、放映時間について、きちんと認識していなかったからだ。ちなみに『レインボーマン』は友達が録画していて、作画がいい回だけ、放映後に観せてもらっていた。その友達も全話を録画していたわけではないので、『レインボーマン』の作画のいい回で、チェックできていないエピソードが何本かある。ずっとチェックしたいと思っているのだが、いまだにその機会に恵まれない。
さて、本題に入ろう。アニメーションとしても、『マクロス』には新しいところが沢山あった。新しさという事に関しては、僕はキャラクターよりも、メカの印象が強い。メカファンは、バルキリーのデザインの斬新さに目を奪われたのだろうが、僕は作画の方に興味がいった。何よりもまずオープニングに痺れた。バルキリーが、ガウォークモードからバトロイドモードに変形し、敵を撃破する背動カットが素晴らしかった。スピード感も、空間表現もいい。このカットは、今観ても感動する。以前、インタビューでうかがったのだが、コンテでは数カットに割ってあった(おそらく「変形するバルキリー」「撃つバルキリー」「爆発する敵」といったカット割りだったのだろう)のを、板野一郎が原画段階のアドリブで、1カットにまとめたのだそうだ。その前の、空中でファイターモードからガウォークモードに変形するカットも、非常に綺麗に動いていて、惚れ惚れする。本編でも、そういったスーパーな作画がたびたびあった。メカ作画に関して一番見応えがあったのが、マックスとミリアの戦闘をたっぷり描いた17話「パイン・サラダ」だろう。板野一郎の手によるスピーディなメカ作画は、板野サーカスと呼ばれ、ファンに支持される事になった。
また、美樹本晴彦の手による美麗なキャラクターは、前々回(第106回 美樹本晴彦と大阪のメカキチ)で触れたように、当時、最も進んだデザインだった。多くのアニメファンが、それに惹かれた。彼の仕事に関しては、アニメ雑誌で発表した描き下ろしイラストの印象も強烈だった。
『マクロス』はデザイン的にも作画的にも最先端の作品であったが、フィルムとしては、粗が多かった。海外に発注した回の作画は、実に冴えない出来であり、美樹本作監、平野作監の回とのギャップは凄まじいものだった。これは、海外のアニメーターだから下手だったという事でなく、発注や仕上がりをチェックするシステムの問題だったのだろうと思う。それまでも、例えば『機動戦士ガンダム』で作画のよくない回はあったが、それは、僕らが脳内で「本当はこういう画なんだ」と補正をかけて観られるレベルのものだった。しかし、『マクロス』の作画のバラつきはそんなものではなかった。作画がよくない回の輝やミンメイは、美樹本作監の回と同じ登場人物とは思えなかった。作画にあまり興味がない学校の友達も、『マクロス』に関しては、作画のバラつきを話題にして笑っていた。
国内作画の回にしても、制作が間に合わず、中割のセルを抜いて、原画ナンバーのセルだけを撮影したカットが続出するエピソードがあった。それから、どの話か覚えていないが、未沙のカットで、まるで彼女が瞬間移動したように見えた事があった。友達と「未沙がテレポートした!」と言って笑い合った。原画ナンバーだけのカットが続出する話は、再放送で修正されたのだそうだ。未沙がテレポートする回も、本放送以来、観ていないので、リテイクされたのかもしれない。これは作画ではなく演出の問題なのだが、32話「ブロークン・ハート」のラストカットは、未沙の笑顔だ。そこまでの話の流れからすると、そこで笑うのはおかしいのだが、なぜか幸せそうに微笑む。「なんだこりゃ」と思った。いまだに、どうしてそんなカットが入ったのか分からない。おそらくは現場スタッフの誰かのアドリブだったのだろう。そういった『マクロス』の粗さに関しては、脳内補正をかける事もできなかった。
シリーズを通じての『マクロス』のクライマッスは、27話「愛は流れる」だ。ゼントラーディ軍との最終決戦が描かれた話で、「アイドルと宇宙戦争」のコンセプトもここで完成。輝、ミンメイ、未沙の三角関係も一度、決着がつく。この1本のために今までの26本があったのではないか、と思うくらいの充実ぶりだ。キャラ作画も、メカ作画も大健闘。エピソード全体のイケイケ感が素晴らしい。「愛は流れる」は当初最終回として考えられていたエピソードだったが、放映開始後に延長が決まり、その後も『マクロス』は9話だけ続く事になってしまった。延長分は戦争集結後の話だ。三角関係にも決着が着いたと思ったのに、まだその後の関係を描いていた。延長分は、ほとんど観返した事がないので、よく覚えていないが、大きな戦闘はなく、ドラマもシャキっとしないものだったはずだ。今の言葉で言えば, 、グダグダな展開だった。僕だけでなく、多くのファンが「愛は流れる」で終わらせておけばよかったのに、と思ったはずだ。
『マクロス』は、立派なところはこの上なく立派だが、ダメなところは徹底してダメな作品だった。作り手の熱気は感じられた。若いスタッフが中心になって作っているのは、雑誌の記事を読まなくても、フィルムを観ていれば分かった。その意味では『うる星やつら』に近い感覚で観ていた。終盤のグダグダな展開に関しても「あー、『愛は流れる』で頑張りすぎて、力尽きちゃったんだなあ」と思った。当時の『マクロス』の印象を言葉にすれば、「よくも悪くも、ムチャクチャなアニメ」だった。
第109回へつづく
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(09.04.16)