アニメ様365日[小黒祐一郎]

第271回 『メガゾーン23』とセックス

 前回も少し触れたが、『メガゾーン23』には主人公とヒロインのベッドシーンがある。ベッドシーンを目当てに、この作品を観たアニメファンもいたようだ。SFメカアニメで、主人公とヒロインのセックスが描かれたのは、ちょっとした事件だった。
 アダルト向け作品を別にすれば、アニメファン向けの作品で、主人公のベッドシーンが描かれた事は、ここまでにほとんどなかった。『機動戦士ガンダム』には性的な描写はなかったし(『機動戦士ガンダム』の小説版では、アムロとセイラの性交が描かれており、それは衝撃的だった)、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』のラストには、イメージ的な古代と雪の“愛のシーン”があったが、神話の世界の出来事のようなおごそかなものとして描かれており、エロチックではなかった。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』では、輝と未沙が関係をもったのをほのめかす描写はあったけれど、その程度だ。『銀河旋風ブライガー』と『超時空世紀オーガス』にはベッドシーンがあり、話題となったが、描写としてはあっさりしたものだった。
 『メガゾーン23』の前に『くりぃむレモン』シリーズがあるので、いわゆるアニメ絵で、ポルノ的なフィルムが作れる事は分かっていた。だから、メカアニメにセックスを取り入れたタイトルは、出るべくして出てきたという感覚だった。『メガゾーン23』は、『マクロス』路線の作品であるのと同時に、『くりぃむレモン』のヒットを受けて世に出た作品だった。少なくとも受け手にとっては、そういう文脈だった。
 『メガゾーン23』で描かれたベッドシーンは1ヶ所のみ。実はその場面は、あまりエロチックではなかった。いや、映像だけ観ていれば、エロチックなカットはちゃんとあるのだが、その場面は作品世界の秘密について、省吾と由唯が話している会話が重ねられていた。ベッドシーンを見せながら、省吾達の暮らしている世界が作られたものである事についての説明をやっていたわけだ。物語を追って観ると、どうしても謎解きに気を取られてしまう。そういう作りになっているので、ベッドシーンに集中する事ができなかった。雑誌に載った同場面のスチルの方が、ずっといやらしいと感じたくらいだ。まあ、こういったものの感じ方は年齢によって違う。中学生や高校生のアニメファンは、その場面でギンギンに興奮していたかもしれない。
 物語構成上のベッドシーンの入れ方はよかった。これは当時思ったのではなくて、観直してそう思った。省吾と由唯のベッドシーンの途中に、B・Dによるクーデターや、敵宇宙船の戦闘機との戦闘シーンが挿入されている。文字どおりのセックス&バイオレンスだ。主人公達が結ばれた時に、世の中では大変な事が起きているという構成でもある。『メガゾーン23』はSF、メカアクション、青春、セックスといった要素をバランスよくまとめた作品だった。こういったバランスの作品は、その後、登場してない気がする。
 ところで『メガゾーン23』にはセックス絡みで、とんでもない場面がある。作品前半で、省吾と由唯が公園に行く。由唯が池の水を手ですくって「いい気持ち」と言うと、それに対して省吾が「セックスより?」と訊くのだ。説明しておくと、この段階で2人はまだ恋人にはなっていない。由唯が、それに少し驚いて(嫌そうな感じでもなく「いや」と言ってから)省吾の顔を見ると、彼はニコッと笑う——と書いてて恥ずかしくなってきた。この主人公は、昼間っからいきなり何を言い出すんだ! それから、その後のニコッはないだろう! 由唯の方も、彼の唐突な発言に呆れる事もなく、血液型を訊いたりする。君達、一体何なの? 今回観返して、一番インパクトがあったのがここのやりとりだった。
 いや、意図は分かる。省吾は由唯に対して婉曲に「やりたいぞ」と言っているだけだし、由唯も彼のアプローチがそんなに嫌ではなかった。作り手の立場としては、後で2人が関係を持つ事の布石を打っておきたかったのだろう。それにしたって、いきなり主人公が口にした「セックス」という言葉が生々しい。
 この場面について、友人に意見を聞いたところ、「1980年代は『セックス』という言葉をはっきりと口にするのがかっこよかったんですよ」と言われてしまった。えー、そうかあ。俺はそんなのをかっこいいと思った記憶はないなあ。ひょっとしたら、作り手は、当時の若者らしい不器用さを表現するために、そういったセリフを言わせたのかもしれない。確かに、今観返すと違和感があるセリフだけど、初見時には別に変だとは思わなかった。あるいは作り手は「セックス」というストレートな表現で、まだ純情だった当時のアニメファンに刺激を与えたかったのかもしれない。

第272回へつづく

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(09.12.16)