アニメ様365日[小黒祐一郎]

第224回 『くりぃむレモン』

 1983年12月16日に『DALLOS』がリリースされて、OVAの歴史がスタートした。それに続いて、翌1984年には10数本のOVAが発売されたが、その半分以上が18禁のアダルトアニメだった(1984年にリリースされたOVA一般作は『街角のメルヘン』『BIRTH』『魔法の天使クリィミーマミ 永遠のワンスモア』の3本のみのようだ)。タイトルとしては『雪の紅化粧/少女薔薇刑』『仔猫ちゃんのいる店』『美少女アニメ スケバン商会 キューティーレモン』等々。この頃はまだ、レンタルショップでアダルトアニメが並ぶ事が少なかったと記憶している。それもあって、僕は友達が買ったり、レンタルしたものを観せてもらっていた。
 初期のアダルトアニメは、がっかりな出来の作品が多かったが、その中にあって『くりぃむレモン』シリーズはよくできていたし、キャッチーだった。1984年にリリースされた『くりぃむレモン』のタイトルは『美少女アニメ くりぃむレモン パート1 媚・妹・Baby』『美少女アニメ くりぃむレモン パート2 エスカレーション 〜今夜はハードコア』『くりぃむレモン パート3 超次元伝説 RALL』の3本だ)。僕は、それぞのタイトルをリリース時に一度ずつ観ただけで、再見した事はないのだが、絵は美麗だったし、内容も比較的しっかりしていたと記憶している(細かい事を言えば、笑っちゃうような描写もあったのが、まあ、それはまた別の話)。
 前回触れたように、僕達はアダルトアニメなんてものに未来があるとは思っていなかったが、その予想は見事に裏切られた。『くりぃむレモン』シリーズはヒット作となり、次々と新作が作られた。『くりぃむレモン』シリーズの中で、特に人気があったのが『媚・妹・Baby』のヒロインである亜美だった。亜美はちょっとしたアイドルになり、彼女がDJを務めるラジオが放送され、一般作の劇場版まで作られた。僕は『くりぃむレモン』の盛り上がりにはついていけていなかったので、ラジオにしても、劇場版にしても、雑誌で情報を目にした時には随分と驚いた。
 同世代のアニメファンと「自分達にとって『くりぃむレモン』と何だったのか?」というテーマについて語り合った事はないが、僕にとって、このタイトルの登場は大事件だった。『くりぃむレモン』シリーズによって、アニメがヤバい世界とつながってしまったのだ。
 それまでもセックスを描いた作品はあった。例えば、虫プロダクションの『千夜一夜物語』や『クレオパトラ』はセックスをモチーフにした作品だったし、『ルパン三世』にもベッドシーンに近い場面があった。ただ、それは僕の感覚からすれば「大人のための娯楽」だった。その一方で雑誌「レモンピープル」に代表されるロリコンマンガや、アニパロ同人誌のポルノを目にはしていた。それは当然、アニメファンの若者の嗜好にマッチしたもの。つまり、僕達のための作品だったが、アンダーグラウンドなものだった。
 この当時はまだオタクという言葉は、一般には使われていなかったはずだが、ここではこの言葉を使う。例えば『機動戦士ガンダム』の本編に、ヒロインのシャワーシーンがあったが、それはちょっとした作品のオマケだった。ストーリー的な必然があって作られた場面だという言い訳だってあった。少なくとも表向きは、アニメ作品は、ロリコンマンガに代表されるようなオタク的な欲望とは無縁のものという事になっていた。アニメ作品と、アニメチックなロリコンマンガやアニパロ同人誌は別次元のものだった。別次元だったはずなのに『くりぃむレモン』は、誰がどう観ても、オタク的な欲望を満たすために作られた作品だった。そして、きちんと欲望を満たしてしまった。『くりぃむレモン』がアニメ作品と、オタク的な欲望をつなげてしまったのだ。
 そこまで思い込んでいた人は少ないかもしれないが、『宇宙戦艦ヤマト』以降、少なくとも僕にとってアニメとは憧れるべき対象であり、一種の聖域だった。1984年に至るまでに聖域は随分汚れてしまっていたが、それでも本当は神聖なものだと思っていた。それがポルノになってしまった。それは以降の作品、あるいはアニメとファンの関係に対して、少なからず影響を与えているはずだ。僕にとっては『くりぃむレモン』シリーズの個々の作品が面白いかどうかとか、エロいかどうかよりも、そちらの方が大問題だった。

第225回へつづく

 ※以下は補足。前回(第223回 『くりぃむレモン』原画集)の原稿を書いた後で、内輪の人間から「あの同人誌の、あそこのページのネームも小黒さんが書いたんですか?」と聞かれた。お前、あの本を持っているのかよ! というか、よくも個々のネームまで覚えているなあ。それを突っ込まれてから、思い出したのだけど、あの同人誌のネームは、最終的には編集の中心だったサラリーマンの友人がまとめている。足りない部分は彼が書いていたし、僕の原稿も直されたような気もする。だから、僕が全部の原稿を書いたわけではない。99%以上のアニメスタイル読者にとってどうでもいい事だけど、間違った事を書くと、その友人が怒るかもしれないので、一応記しておく。

くりぃむレモン Part.1

カラー/50分/カラー/スタンダード 4:3
価格/4935円(税込)
発売元/フェアリーダスト
販売元/カレス・コミュニケーションズ、販売代理:ビームエンタテインメント
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(09.10.07)