アニメ様365日[小黒祐一郎]

第336回 『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』と『湘南爆走族II 1/5 LONELY NIGHT』

 シリーズ序盤を振り返ってみよう。第1作『湘南爆走族 —残された走り屋たち—』の前半は、キャラクター紹介編。回想で、江口洋介と他の湘南爆走族メンバーとの出逢いも描かれている。後半では、地獄の軍団のリーダーである権田二毛作(屋良有作)の計略によって、湘爆と横須賀のハッスル・ジェットが対立する。地獄の軍団は、湘爆のライバルチームであり、権田はシリーズを通じての主要キャラクターだ。また、ハッスル・ジェットの真紫準(銀河万丈)は、チームを解散して、夢を求めてアメリカに行こうとしている男だった。
 前半では、江口の湘爆リーダーと手芸部長の二面性、ギャグを交えた権田との対決が楽しかった。ヒロインの津山よし子(鶴ひろみ)は、手芸部の副部長。不良と縁遠そうなマジメ少女だが、江口に好意を持っている。江口と彼女の下校時のデートは、いかにも青春な感じ。後半のハッスル・ジェットとの対立は、暴走族ものらしい展開だが、江口の肝のすわり方と、けじめのつけかたがいいし、自分で江口達をハメておいて、それを後悔し、自分のせいだいと名乗りをあげる権田もいい。
 湘爆とハッスル・ジェットの抗争が起きそうになった時、津山と三好民子(富沢美智恵)、そして、ラーメン屋じぇんとる麺のシゲさん(第1作では嵐ヨシユキ)が、暴走族の存在について議論をする。民子も手芸部の部員。じぇんとる麺は、湘爆の連中がたまり場にしてるラーメン屋で、シゲさんは湘爆OBだ。津山と民子は、暴走や暴力を非難し、シゲさんも暴走族を全肯定はしない。その議論には決着が出ない。議論には決着は出ないが、そのやりとりがあるおかけで、暴走行為はよくないが、それも青春のひとつかたちだという事を、真紫が抱いている夢をからめて、作品の結論としている。津山たちの議論も含めて原作どおりだが、原作のこの話を1巻に持ってきたのが上手い。
 湘爆メンバーのキャストにも触れておこう。『—残された走り屋たち—』では、江口を元横浜銀蠅の翔が演じており、第2作『1/5 LONELY NIGHT』から塩沢兼人に交代。原稿を書くために、久しぶりに『—残された走り屋たち—』を観たが、翔が演じる江口は、普通の男の子っぽいところがいい。それに対して、塩沢兼人の江口は、ナイーブな感じだ。これも江口のキャラクターに合っている。『1/5 LONELY NIGHT』では、他にもキャストの変更がある。『—残された走り屋たち—』では、塩沢兼人は石川晃を演じており、山口健が桜井信二役だった。『1/5 LONELY NIGHT』では、塩沢兼人が江口役になり、山口健が石川晃役と、キャストがズレた。珍しいかたちでの配役変更だった。『1/5 LONELY NIGHT』以降は、江口洋介(塩沢兼人)、石川晃(山口健)、丸川角児(佐藤正治)、桜井信ニ(目黒光祐)、原沢良美(郷里大輔)でフィックスとなる。
 『1/5 LONELY NIGHT』はふたつの話で構成されている。前半では、江口に憧れる他校の女生徒、絵藤都志子(冨永みーな)をきっかけにして、江口と権田が対立する。後半では、湘爆メンバーの原沢と、野々村渚(渡辺菜生子)という少女の淡い恋が描かれる。
 都志子の元カレは、地獄の軍団のメンバーであり、江口と権田が対決する事になったのは、その元カレが嘘をついたためだった。権田は、そいつの言っていることが嘘であるのを知ったが、自分はリーダーとして仲間を信じてやらなくてはいけない。間違っていると知りつつ、江口とタイマンをはる。そんな理由で、好敵手である江口と殴り合いをしなくてはいけない権田の悔しさ。その後、江口にフラれた都志子が、彼に想いをぶつける。その切なさ。ふたつの想いがきっちりと描かれており、胸に残った。
 前半では、さらにその後で、津山の気持ちが描かれる。彼女は、暴走族として雑誌に取り上げられた江口と、自分が知っている江口のギャップに戸惑いを感じていた。しかし、戸惑いをきっかけにして、自分の江口への想いに気づく。その場面は、挿入歌も効いていて、猛烈な照れくささだ。また、同場面には、雑誌の湘爆の記事を見て、暴走族を非難するオバサン達が登場する。『—残された走り屋たち—』と同様に、暴走族に対する客観的な視点を入れているわけだ。
 『1/5 LONELY NIGHT』は、前半でジワジワと感情を揺さぶり、後半で盛り上げる構成だ。原沢は、江口と同じ高校生だが、大柄でおっさんにしか見えない男。恋愛に関してはかなり不器用だ。家の仕事の手伝いで、渚と知り合い、デートをするようになった。渚は素直で、優しい娘だった。しかし、2人が互いの気持ちを口にする前に、家の都合で、渚は引っ越す事になった。原沢に「好きだ」の一言を言わせるために、湘爆メンバーは、嵐の中、バイクで渚が乗った列車を追う。原沢は免許を持っていないので、誰かがバイクに乗せなくてはいけないのだ。
 たまたま通りがかった権田や、いつも湘爆を目の敵にしている交機のモモカンまでが、原沢のために力を貸す。このあたりは原作をかなり膨らませている。権田とモモカンの登場も、列車に追いつく直前の江口の大ジャンプも、アニメのオリジナル展開だ。原沢が渚に想いを伝える場面は、流れは原作どおりだが、原沢と渚の描写をたっぶり増量し、コテコテの演出で盛り上げている。さすがは、西沢監督だ。
 決して目新しいプロットではない。むしろ、ありがちな話なのだが、やたらと面白かった。そして、観ていて、気持ちがよかった。青春ものの色が濃く、登場人物のまっすぐな気持ちを描ききっているのがよかった。僕は、第1作『—残された走り屋たち—』よりも、第2作『1/5 LONELY NIGHT』の方がずっと好きだ。そして、第3作『湘南爆走族III 10オンスの絆』は、それを上回る傑作だった。

第337回へつづく

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(10.03.30)