アニメ様365日[小黒祐一郎]

第339回 『王立宇宙軍』の天才達

 今回から1987年の話題に入る。僕自身の事で言えば、1987年には、アニメージュの仕事が一気に増えた。最初はTVアニメーションワールドの一部のみをやっていたが、夏には1人で記事を任されるようになった。アニメビジョンもやっていたし、東映動画(現・東映アニメーション)のアルバイトも続けていた。まだ大学に籍はあったが、ほとんど行っていない。
 1987年は劇場アニメの数が少なかった。定番の「東映まんがまつり」と藤子アニメと、劇場公開されたOVAを除けば、数えるほどしかない。そんな中、『オネアミスの翼 王立宇宙軍』が公開された。大作であるし、意欲的な作品だった。GAINAXの第1回作品であり、アニメ史的にも重要なタイトルだ。アニメージュは公開前から、この作品を積極的に取り上げていた。
 制作中から『王立宇宙軍』については、色々と噂を聞いていた。アニメーターの知り合いから「東京造形大学の天才少年達が、凄いアニメを作っている」という話を聞いたのが、僕が『王立宇宙軍』について得た最初の情報だった。東京造形大学の天才少年達とは、本作のメインスタッフである貞本義行と前田真宏の事だ。彼らが描いているイメージボードが凄い、という話だった。ブロジェクトが始まった頃の彼らは20代前半であり、「少年」なんて年齢ではなかったが、制作現場の感覚としては、ついこの前まで学生だった彼らは「少年」みたいなものだったのかもしれない。あるいは若さと突出した才能が眩しく感じられ、「天才少年」という表現になったのかもしれない。事実、『王立宇宙軍』を手がけた彼らは、アニメ界屈指のクリエイター集団となっていく。
 後になって分かる事だが、僕は「天才少年」の噂を聞く以前から、貞本義行と前田真宏の作品に触れていた。東京造形大学の漫画研究会の会誌に掲載された「ウルトラセブン 三百年間の復讐」を読んでいたのだ。これは「ウルトラセブン」の没シナリオをサークルでマンガ化したもので、200ページを越える大作だ。十数人のメンバーがリレー形式で描いており、前田真宏は、もう1人と共同で絵コンテも担当。マンガの終盤を貞本義行と前田真宏が描いている。彼らが描いた部分が篦棒に巧かった。画が巧いだけでなく、コマ割りも、メカやクリーチャーのデザインも秀逸。プロの作品でもなかなかお目にかかけないくらいの、見応えだった。僕が目にした会誌は「三百年間の復讐」の後半が掲載されたもので、刊行は1984年8月。
 「三百年間の復讐」を見せてくれた友達は、それ以前に、貞本義行が「週刊少年チャンピオン」に短期連載した「18R(ヘアピン)の鷹」の切り抜きも持っていた。貞本義行が20歳くらいの時の作品だ。アニメ的な絵柄とパキっとした描き方が魅力的だったと記憶している。
 僕が『王立宇宙軍』を作っているGAINAXが、DAICON FILMのメンバーが設立した制作会社であるのを知るのは、「天才少年」の噂を聞いた後だった。「三百年間の復讐」を描いた人達が『王立宇宙軍』のメインスタッフである事に気づくのは、映画が公開されてからだった。
 「天才少年」の噂と前後して、『王立宇宙軍』のパイロットフィルムを目にした。これもとてつもない仕上がりで、完成作品への期待が膨らんだ。パイロットフィルムについては次回で。

第340回へつづく

王立宇宙軍 オネアミスの翼[BD]

カラー/125分/(本編120分+映像特典5分)/ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ドルビーサラウンド)・ドルビーデジタル(ドルビーサラウンド)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
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(10.04.02)