アニメ様365日[小黒祐一郎]

第341回 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

 改めて、作品の概略についてまとめておこう。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、アニメマニア、特撮マニアから注目を集めていたアマチュアフィルムメーカーのDAICON FILMのメンバーが企画・制作した劇場アニメだ。制作現場となったGAINAXは、彼らがこの映画のために設立したアニメスタジオ。『王立宇宙軍』のために生まれた会社が、作品完成後も存続し、『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』等を手がける事になる。
 企画としてクレジットされているのが、GAINAXの岡田斗司夫、BANDAIの渡辺繁。原案・脚本・監督が山賀博之、キャラクターデザイン・作画監督が貞本義行、作画監督が庵野秀明、飯田史雄、森山雄治、美術監督が小倉宏昌、助監督が赤井孝美、樋口真嗣、増尾昭一、音楽監督が坂本龍一。監督の山賀博之は、公開時に24歳。スタッフの平均年齢も20代半ばであったという。
 舞台となるのは、地球によく似た星にある王国。文明は現在の我々よりも少し遅れており、我々と同じメンタリティを持った人々が、我々と違った文化の中で生活をしていた。主人公のシロツグ・ラーダットは、国のお荷物となっている宇宙軍に所属している。宇宙軍といっても、この世界ではまだ人類は、誰も宇宙に行った事がない。宇宙軍は名前ばかりの存在であり、シロツグをはじめとする若者達は、目標らしい目標を持てずに日々を過ごしていた。宗教活動をしている少女、リイクニ・ノンデライコとの出会いをきっかけに、シロツグは俄然やる気を見せはじめ、世界初の有人宇宙飛行のパイロットに志願してしまう。彼の周囲は慌ただしく動きだし、ロケット打ち上げは現実味を増していく。シロツグはリイクニに対してアプローチし続けるが、彼女はシロツグに対して恋愛感情を持っていないのか、関係は進展しない。やがて、国の上層部がこの計画に価値を認めておらず、わざと敵国にロケットを捕獲させ、後に取り引きの材料に使おうとしている事が判明。シロツグは、敵国の殺し屋に命を狙われる。いよいよ、ロケット打ち上げ当日。打ち上げ直前に、敵国軍が国境を越えて、発射場に迫っている事が分かり、将軍は打ち上げ中止を宣言する。その時、シロツグは……。
 若き才能だけでなく、たっぷりの制作期間、予算をかけた超大作である。上映時間は2時間。1987年3月14日に公開された。物語面においても、設定的な事に関しても、映像に関しても、とにかく情報量の多い映画だった。彼らは見た事のない異世界を構築し、そこを舞台にしてリアルな青春を描こうとした。そして、ある星のある国を、その歴史から丸ごと描こうとしていた。当時のアニメ誌の記事には、イメージボード、美術ボード、キャラクター、メカ、小道具のデザインに1年以上かけたとある。類型的なキャラクターや、ありがちな展開を避け、生真面目にドラマを語り、作り手の主張をストレートに伝え、最後には感動させる。映像的にも立派なもので、とても商業作品への参加経験がほとんどないメンバーが中心になったとは思えない。基本的に表現もリアルであり、それまでアニメで観た事のない処理が山ほどあった。それらは「アニメSFX」と呼ばれ、話題となった。志は高く、やや生硬ではあるが、今となっては、その生硬さすらも作品の傷にはなっていないと感じられる。作品の成り立ちに関しても、表現方法にしても新しかったし、作品としても力があるものだった。映像を作り込んでいく作品の先駆けとしても、アニメ史において重要なタイトルだ。
 今でこそ『王立宇宙軍』は傑作として認知されているが、公開時には、多くのアニメファンが当惑した。勿論、当時から高く評価していた観客もいただろう。年長の観客よりも、ティーンのアニメファンの方が、素直に受け止めていたのかもしれない。ではあるが、少なくとも僕の周囲にいた同年輩の人間には、当惑している者が多かった。どういったところに当惑したのかについては、次回で触れる事にしたい。

第342回へつづく

王立宇宙軍 オネアミスの翼[BD]

カラー/125分/(本編120分+映像特典5分)/ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ドルビーサラウンド)・ドルビーデジタル(ドルビーサラウンド)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
価格/8190円
発売・販売元/バンダイビジュアル
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(10.04.06)