第387回 『ミスター味っ子』を振り返る・その7
『ミスター味っ子』第2部の終盤は、派手さを抑えた、しっとりとした仕上がりだった。「味仙人トーナメント編」の最後の勝負が描かれたのは、47話「宿命の大決戦! 陽一・一馬のサンマ勝負」(脚本/坂田義和、絵コンテ/うえだひでひと、演出/中村憲由、作画監督/宮島堅)だった。この話の味勝負では、凝った料理を作った一馬に対して、食べる人の事を考えて料理をした陽一が勝利する。トリップシーンは『まんが日本昔ばなし』風のアニメで落語「目黒のさんま」を見せるというもの。凝ってはいるが、のんびりしたシーンだった。クライマックスは、料理勝負そのものやトリップシーンではなく、その後の夕焼けを背景にした船上の場面だ。
一馬が自分に欠けていたものが何かを悟り、弟子のコオロギ(声/神代智恵[現・知衣])と共に、新しい夢に向かって再出発する事を誓う。一匹狼を気どっていた彼だが、今後は違った生き方をしていくのだろう。そして、舟で去っていく一馬達に、走ってきた陽一が声をかけ、2人は友情を確認しあう。この場面は、作画による大胆な回り込みも効果的だし、回り込みの最後で、2本の指を立てて陽一に挨拶する一馬もかっこいい。『ミスター味っ子』屈指の名場面だ。少年キャラクターに執着のない僕でも、グッときた。一馬のキャラクターについては、シリーズ終盤で過去が明らかになるなど、この後にも色々あるのだが、僕としては、この47話で彼のドラマが完結している印象だ。
一馬に勝利して4枚の札を手にした陽一は、48話「味仙人への挑戦! 勝利への切り札はこれだ」(脚本/坂田義和、絵コンテ/坂田純一、演出/川瀬敏文、作画監督/中村旭良)で、味仙人に挑戦する。そこにいたるまでにも色々あるのだが、ともかく陽一は味仙人に料理を食べさせて、彼を満足させる。この話で、かつて味仙人に認められた料理人は、味皇と丸井の2人だけだった事が分かる。
味仙人に認められて、陽一は日本の料理人の頂点を極めた事になった。それを受けた49話と50話で、第2部が完結する。この前後編で陽一が対決するのは、最初に料理勝負をした相手であり、今まで陽一の相談相手であり、丸井のおっちゃんの愛称で親しまれてきた丸井善男だった。料理の指導をするためにイタリアへ渡る事になった丸井は、49話「味探し! 丸井対ミスター味っ子」(脚本/城山昇、絵コンテ/片山一良、演出/西山明樹彦、作画監督/和泉絹子)で、陽一に対決を申し込む。どちらかが優れていたかを競うための「味勝負」ではなく、今まで自分達が過ごした日々が何であったかを、自分達の成長を確かるための「味探し」だった。
そして、50話「さらば丸井!料理の 道は果てしなき挑戦」(脚本/城山昇、絵コンテ/うえだひでひと、演出/新林実、作画監督/毛利和昭・加瀬政広)の味探し。陽一が作ったのは、丸井の誕生日のためのバースデーケーキであり、丸井が作ったのは、陽一の今までの成長を祝うための赤飯だった。彼は父親の代わりにそれを作ったのだ。多くの観客を集めて披露した料理が、バースデーケーキと赤飯だったのだ。
途中で、味将軍グルーブのロボコック(ロボコップのような外見の機械化された料理人である)が登場した事で、なんとか「アクション料理アニメ」の面目は保っているが、本筋は非常にウェットなドラマだ。2人が作ったものが、バースデーケーキと赤飯だったのが分かったところで、勝ち負けなぞは問題でなくなってしまった。全ての決着がついた後に、お馴染みの味皇の「うまいぞー!」があるが、これもオマケのようなものだ。基本的にトリップシーンはない。
49話、50話が力作ではあるのは間違いなく、決してつまらなかったわけではない。むしろ本放映時には感銘を受けた。ではあるが、あの『ミスター味っ子』が、こんなかたちでクライマックスを迎えた事が意外だった。この話はもう少しだけ続ける。
第388回へつづく
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(10.06.15)