第388回 『ミスター味っ子』を振り返る・その8
第2部クライマックス=49話、50話では、丸井にスポットがあてられた。身近な存在となっていた丸井が日本を離れる。それをきっかけにして、陽一は、彼の存在について考える事になる。49話、50話の前後編では、丸井がダンディに描かれている。人格面だけでなく、ビジュアル的にも二枚目になっている。オジサンキャラをかっこよく描くのを得意とする、今川監督ならではのクライマックスだった。
49話は、丸井と法子の話でもあった。丸井は法子に惚れていた。そして、49話を観る限り、法子も丸井を憎からず思っていたようだ。49話後半、料理対決を前にして、丸井は、法子を高台に誘う。夕陽に染まった街を見下ろして、法子に語る。2人はいつになくムーディだ。イタリアに行くにあたって、法子にプロポーズをするのか——と思わせるが、プロポーズはしない。独り身の自分にとって、陽一や法子が家族のような存在だった事を告げ、礼を言って、握手をするだけだ。丸井のプロポーズは、第4部終盤までおあずけになる。丸井が第2部でプロポーズしなかった理由は分からない。まだ時期が早いと思っていたのかもしれないし、気持ちの整理がついていためだったのかもしれない。
法子の方は、プロポーズをされたらOKしそうな様子だった。彼女は、カレンダーの丸井の誕生日に印をしていた。それを陽一に指摘されて、照れてゴマかす。丸井にとって自分達はなんだったのだろうかと独りごちる陽一に対して、「じゃあ、陽一にとって、丸井さんってなんだったの? ライバル? 友達? それとも、お父さん代わり?」と問う。「お父さん代わり?」と言う直前に、カメラがポンと寄ってアップになる。その時、法子の目がウルんで、キラキラしている。丸井さんがあなたのお父さんになってもいいかしら、と訊いているようにしか見えない。これも『ミスター味っ子』らしい、こってりした描写だ。
前述の高台の場面で、丸井がプロポーズをせずに「ありがとう」と言った時に、法子は驚く。愛の告白がくると思っていたのだろう。ガッカリしたような表情もみせる。だが、法子はニッコリと笑って握手をする。そして、2人は再会を誓う。
49話における丸井と法子の関係については、間接的な表現ばかりだ。「プロボーズ」という言葉も「告白」という言葉も使われていない。丸井が告白しなかった理由も分からない。ではあるが、2人の気持ちは、充分に表現されている。充分に表現されているのは、演出の力によるものであり、雰囲気作りの巧さのためだろう。丸井については、法子に対する未練をまるで見せないところが、法子については、瞬時に丸井の気持ちを察して、ニッコリと笑ったところがポイントだ。若い監督が「こうありたい」という理想を込めて、大人の男女関係を描いた。それが背伸びした感じになっていないところがよい。
50話では、丸井と陽一の疑似父子関係、その関係の結びつきの深さを見せ、それと共に陽一の成長を描いている。そちらが第2部クライマックスのメインではあるのだが、それに匹敵するくらい、丸井と法子の描写にも力が入っていた。49話の丸井と法子のドラマがあったから、50話の丸井と陽一のドラマが厚みのあるものになったのも間違いない。
第389回へつづく
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(10.06.16)