アニメ様365日[小黒祐一郎]

第401回 『ロボットカーニバル』の各作品(5) マオラムドの「CLOUD」

 6本目の作品が、マオラムド監督の「CLOUD」だ。画面の中に横長のフレームが設定されており、主にその中で、物語が進む。ロボットの少年がうつむいたまま、画面左に向かって歩く。ひたすら歩き続ける(歩くと言っても、映像的には足踏みしているかたちで、位置としては画面左に固定されている)。少年の背後では雲が流れ、天使が現れ、嵐が来る。やがて、爆発が起きて、キノコ雲が発生する。原子爆弾だろう。少年は、キノコ雲の時には歩みをとめるが、また歩き始める。背後には、少年を雲、ウサギ、帽子、空飛ぶ円盤などが過ぎ去っていく。それらは雲がメタモルフォーゼしたものなのだろう。最後に少年が振り向く。振り向いた少年が見るものは……。
 物語よりも、次から次への展開されるビジュアルを楽しむ作品。今の言葉で言えば、アートアニメーションである。緻密に描かれた雲や天使は絵画のようだったし、雲のメタモルフォーゼはアニメーションとして優れたものだった。細かいところだが、少年の脚などの描き方が、なかなかかっこよく、それも楽しめた。
 僕としては『ロボットカーニバル』にアート寄りの作品があるのが意外であり、商業作品として、こういったものが作られたのに感心した。分かりやすい作品とはいえないが、表現されている事は概ね理解できた。第395回『ロボットカーニバル』でも書いたように、僕は試写室のスクリーンで、『ロボットカーニバル』を観ている。「CLOUD」は、スクリーン映えする作品であり、初見の印象はより鮮烈なものとなった。
 監督は、アニメーターである大橋学。マオラムドは彼の俳号だそうだ。彼は『ロボットカーニバル』に参加する6年前に「雲と少年」というタイトルの絵本を自費出版していた。「CLOUD」は「雲と少年」の少年をロボットに変えて映像化したものだ。以下に「メモリー オブ ロボット・カーニバル」の解説原稿を引用する。


 『金の鳥』『ボビーに首ったけ』等で知られるアニメーターのマオラムドが、かつて自費出版した落書き集「雲と少年」を元にして作り上げたフィルム。絵画のようなビジュアルの、極めて詩的な作品である。後ろを振り返らずに歩き続けるロボットが、クライマックスで初めて振り返る。それは心を閉ざしていた彼が心を開いたことを表している。様々な形で現れる雲も、少年の心の動きを表現したものなのだそうだ。音楽は、マオラムド自身の指名で、当時21歳だった藤田意作が担当している。


 『宝島』のオープニングとエンディングを、出崎統監督に「好きなように表現していいよ」と言われて、彼は自分の感覚と手法でそれを仕上げた(その経緯は「アニメの作画を語ろう」animator interview 大橋学(3)でも触れられている)。『宝島』のオープニングをやって「アニメーションにはああいった自由な表現があるんだ」と思えた事が、「雲と少年」と関連している。つまり、「CLOUD」のルーツに『宝島』のオープニングとエンディングがあるわけだ。
 「CLOUD」は作品の構成自体が、商業アニメの枠から飛び出したものであるし、オムニバス作品としての共通コンセプトである「ロボット」についても、主人公の少年がロボットの姿であるだけで(ラストで、ロボットの姿だった事を活かしているとはいえ)、積極的にロボットで作品を作ろうとしているわけでないのは、誰が観ても明らかだ。作り手がやりたい事をやっているのを、痛快に感じた。8本も短編があるのだから、こんな作品があってもいい。
 ところが「メモリー オブ ロボット・カーニバル」のインタビューで、マオラムド監督は、意外な話を聞かせてくれた。自分が本当に憧れている作品を作れない悔しさが、「CLOUD」になったのかもしれないというのだ。彼が子どもの頃に憧れていたアニメーションとは「ポパイ」や「マイティマウス」のようなハチャメチャに楽しいものだった。そういったものを作りたいし、自分が好きだったものを越えたかったが、今まで作る機会がなかった。
 『ロボットカーニバル』も、「ポパイ」や「マイティマウス」のような、楽しいマンガ的な作品を作る場ではなかった。彼はロボットものや、メカものはあまり好きではなく、自然現象や、メタモルフォーゼを描くのが好きだった。そこで、半ば開き直って作ったのが「CLOUD」だった。『ロボットカーニバル』の企画の枠の中で、自分が納得できるものが、ああいったフィルムであったわけだ。意外な話だった。これも「いまだから話せる!? 『ロボットカーニバル』の裏のうら」だった。

第402回へつづく

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(10.07.05)