アニメ様365日[小黒祐一郎]

第442回 『聖闘士星矢』劇場版第1作

 『聖闘士星矢』劇場版第1作は、昨日も触れたように「東映まんが祭り」の1本として公開された。現在リリースされているDVD BOXでは『邪神エリス』という副題がつけられているが、公開時のタイトルはシンプルに『聖闘士星矢』だった。今回の敵は、争いの女神エリス。黄金のリンゴに封印されていた彼女は、完全復活を遂げるため、アテナの精気を自分のものにしようとする。5人の青銅聖闘士はアテナを助け出し、世界の平和を守るため、エリス(声/藤田淑子)によって蘇った亡霊聖闘士(ゴーストセイント)と戦う事になる。
 ペガサス流星拳を使う星矢に対して、無数の矢のごとき拳を放つ矢座の魔矢(小林通孝)が立ちふさがり、最強の盾を持つ紫龍は、やはり強力な盾を持つ楯座のヤン(難波圭一)と戦う。瞬の相手は、美しき吟遊詩人である琴座のオルフェウス(声/三ツ矢雄二)であり、主人公達が自分と似たタイプの戦士と戦うという構成。ちなみに氷河と戦ったのが南十字星座のクライスト(中尾隆聖)、終盤に一輝の相手となったのが、オリオン星座のジャガー(水島裕)だ。TVシリーズでもそうだったが、敵キャラクターをどんな声優が演じるのかも、劇場版『聖闘士星矢』シリーズのお楽しみのひとつだった。この第1作に関しては、オルフェウス役の三ツ矢雄二が、観ていて笑ってしまうくらいのハマリ役だった。

 展開については、原作やTVシリーズの名場面を再構成したようなところがあった。紫龍は自ら聖衣を脱ぎ捨てて、廬山昇龍覇を放つし、瞬のピンチには一輝が助けにくる。一輝が助けにくるパターンは、この後の劇場版でも繰り返され、第3作『真紅の少年伝説』では、そのパターンを逆手にとったギャグがある。また、この映画の冒頭で、絵梨衣(荘真由美)という少女が登場。彼女は、星矢が育った孤児院で働いており、そこで氷河と出逢って、互いに惹かれ合う。エリスは、その絵梨衣の身体に憑依して復活するのだった。そういった筋立てであるので、氷河、絵梨衣、エリスのドラマにも期待していたのだが、そのあたりは随分と淡泊であり、意外だった。
 クラマックスでは、傷ついた星矢の脳裏に、アテナと仲間達の声が響き、それに励まされて彼は立ち上がる。目新しい展開ではないかもしれないが、後述する荒木伸吾作画の力もあり、いい場面に仕上がっていた。その後、射手座の黄金聖衣を装着した星矢が、エリスの力の源である黄金のリンゴを黄金聖衣の弓矢で射る。射手座の黄金聖衣というのが何なのかという事の説明は、長くなるので割愛するが、それは劇中での使い方として、非常に納得できるものだった。ひょっとしたら、クライマックスで射手座の黄金聖衣を身にまとうアイデアが先にあり、それを活かすために黄金のリンゴの逸話で知られるエリスを、敵キャラクターに据えたのかもしれない。

 素晴らしかったのが、荒木伸吾の作画だった。美麗であり、しなやかであり、力強い。聖闘士達はそれぞれ魅力的だし、アクションもメリハリが効いている。ここ一番の場面で、作画でキャラクターの心情を深く表現するのだが、それが堪らない。エリスに捕らえられ、苦しむ沙織の美しさも印象的だ。荒木伸吾の仕事の中でも充実したものであり、劇場の長尺作品で、彼が単独で作監を務めたのもこれが初めてだったはずだ。彼の作画を劇場スクリーンで、たっぷりを観る事ができた。昔からのファンとしては大満足だった。
 僕は、冒頭の孤児院のシークエンスが好きだった。車に轢かれそうになった子供を、氷河が助ける。それをきっかけにして、氷河は子供達と仲良くなる。星矢、瞬達も一緒に子供達と楽しい時間を過ごす。『聖闘士星矢』としては珍しく、コミカルさもあり、ホッとする場面だった。このシークエンスは、荒木伸吾が自ら原画を描いているのだろう。彼の個性が非常に色濃く出ていた(氷河が自動車を止めたカットのやり過ぎ感もイカしていた)。公開時に友達と「孤児院の場面がよかった」と話したのを覚えている。

 公開時にはそんな事は思わなかったけれど、後の山内重保監督の作品を観てから、劇場版第1作を観直すと、随分と男らしい仕上がりに思える。話の運び方も、アクションも力強い。荒木伸吾も、森下孝三監督の演出に応えて、男っぽい作画をしている印象だ。

第443回へつづく

聖闘士星矢 THE MOVIE BOX [DVD]

カラー/212分(本編)/ニュープリント・コンポーネントマスター/主音声:モノラル/片面1層(一部片面2層)4枚組/16:9
価格/20790円(税込)
発売・販売元/東映ビデオ
[Amazon]

(10.09.01)