アニメ様365日[小黒祐一郎]

第443回 『神々の熱き戦い』について書く前に

 『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』が好きだ。劇場版『聖闘士星矢』シリーズの中で、これが好きだというだけでなく、1本の映画として非常に優れていると思う。僕にとっては、同じ年に公開された『となりのトトロ』や『火垂るの墓』に匹敵するくらいの作品だ。
 10年ほど前、とある業界の方と話をしていて、山内重保監督の話になった。その方が「山内監督の作品はいいですよね。『真紅の少年伝説』は最高でしたよね」とおっしゃった。僕は「何言っているんだ! 違う! 違うぞ!! いいのは『真紅の少年伝説』じゃなくて『神々の熱き戦い』だ!! 分かってないな!」と思ったけれど、他人の好みに文句をつけても仕方がないので、力なく笑いながら「いやいや『神々の熱き戦い』もいいですよ」と言葉を返した。他人の好き嫌いに文句をつけたくなるくらい、『神々の熱き戦い』が好きだ。

 それから『聖闘士星矢』シリーズが終了した頃、コラムで『神々の熱き戦い』について書く事になり、取材記事のわけでもないのに、東映動画(現・東映アニメーション)に電話して、山内監督に話を聞きにいってしまった。それくらい『神々の熱き戦い』が好きだ。ちなみに、山内監督とはその時が初対面だった。随分経ってから、山内監督に取材した時に、彼が『神々の熱き戦い』よりも、『真紅の少年伝説』の方に思い入れがあるらしい事を知って「何言ってるの! 山内さん!! 『神々の熱き戦い』の方がいいよ!」と頭の中で叫んでしまったが、作った本人に『神々の熱き戦い』の方が優れていると熱弁を振るってしまうのは、どう考えても変な奴なので、ぐっと我慢した(実際には我慢できずに、少しだけ熱く語ってしまったような気もするが、ここでは我慢した事にしておく)。監督に文句を言いそうになるくらい、『神々の熱き戦い』が好きだ。勿論、LDソフトも、サントラCDも購入した。

 先日、DVDで第1作から第4作までの劇場版『聖闘士星矢』を観返したのだけれど、自分が心底『神々の熱き戦い』が好きであるのを確認した。中盤で彷徨う氷河、傷ついた紫龍、アテナのもとに向かう星矢などを描写するシークエンスがある。『神々の熱き戦い』は全編に渡って音楽がいいが、ここも聴かせる場面だ。BGMが身に染みて、涙が出そうになった。46歳にもなって『聖闘士星矢』で泣きそうになってんじゃねーよ、と自分に突っ込まないわけにはいかないが、本当なので仕方がない。
 そこまで『神々の熱き戦い』に思い入れするのには理由がある。僕にとって、この作品は『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』劇場版『銀河鉄道999』の進化形なのだ。1970年代末のアニメブームでは、そういった高らかにロマンを謳いあげる作品が、人気を集めていた。当時僕は、そういったロマンの世界を描いた作品が次々と出てくるだろうと思っていたのだけれど、ブームの終焉と共に、いや終焉を俟たずにロマンの世界は古くさいものとなり、途絶えてしまった。
 そして、少なくとも僕にとって『神々の熱き戦い』は、『さらば宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』の系譜にあるもので、より洗練したかたちでロマンを謳いあげる作品だった。ああ、これだ。僕が求めていたものはこれなんだ。そう思った。新しいけれど、同時に懐かしいと思える映画だった。

第444回へつづく

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(10.09.02)