アニメ様365日[小黒祐一郎]

第446回 『神々の熱き戦い』驚異のオーディーン・シールド

 オーディーン・シールドがどういった技であるのか、この映画を何度観てもよく分からない。ドルバルの言葉によれば、小宇宙(コスモ)を放つ事も、意志を伝える事もできない、苦しみだけの世界に封じ込める技だ。圧倒的なパワーと共に、ドルバルは自分の身体に創り出した異次元空間に沙織を吸い込む。しかし、吸い込まれた次の瞬間、彼女は人形にように固まった状態で、ワルハラ宮から遠く離れたオーディン像の付近に出現する。
 詳しく説明すると、封印された沙織は、巨大な船に船首像のように飾られている。船と沙織がオーディン像の足下に出現し、オーディン像が船に乗るようなかたちとなった。出現する際には、海の中から船が浮上する描写がある。ただし、そのカットで船に飾られているのは沙織ではなくて、本物の船首像だ。カットの繋ぎから察すると、その船首像が沙織に変化したという事であるようだ。これもよく分からない。オーディン像があるのは山の上だ。だから、海の中から船が出現する描写は、普通に考えればイメージカットだが、そもそもいきなり船が出現するというシチュエーションからして尋常ではない。いきなり船が出現するくらいなら、海が一緒にオーディンの足下に出現していてもおかしくない。そして、イメージカットにしては、その描写はあまりにダイナミックであり、力強いものだった。
 インパクトのある描写だった。沙織と船の出現を観て、劇場で息を飲んだ。何が起きているのかは理解できなかったが、それが神秘的な事であるのは間違いなかった。この数カットの映像が、ドルバルの力が神がかったものである事を観客に見せつけるのと同時に、物語が神話的世界で展開している事を示していた。

 そして、沙織と船の出現よりも、そこに至るまでのビジュアルの方が凄まじかった。オーディーン・シールドが発動する前、ドルバルが沙織の首を掴もうとしたあたりから、それが始まる。光の洪水だ。ドルバルのオーディーン・シールドを、あるいは沙織の力を、圧倒的な物量の撮影処理で表現している。広い室内を光の奔流が渦巻き、室内の色がノーマルカラーから、赤トーン、青トーン、黄トーンに、目まぐるしく変貌していく。まるでオーディーン・シールドの力によって、世界が異次元の世界に塗り替えられていくかのようなイメージだ。
 ドルバルがオーディーン・シールドを放った後、すぐに沙織が異次元に吸い込まれるわけではない。沙織はその場に毅然と立ち続け、しばらくオーディーン・シールドの力に耐える。それが演出的なタメになっているわけだ。耐えている間に、上で述べた撮影処理の乱舞が続く。耐えている沙織の顔は、オーディーン・シールドの圧力を受けて歪む。歪むと言っても、顔が醜く崩れているわけではないが、沙織が感じている痛みが、観ているこちらに伝わってくるような表現になっている。撮影だけでなく、山内監督によるカットの構築も、作画も、美術も素晴らしい。
 この場面もTVモニターだと、その魅力が半分も伝わらない。劇場のスクリーンでこそ真価を発揮する映像だ。映画冒頭のオプチカルカットを観た時に、この映画はとてつもない出来なのではないかという予感があったが、その予感がオーディーン・シールドで確信に変わった。

 沙織が封印された後、いよいよ青銅聖闘士と神闘士の戦いが始まる。そして、人形のように固まった沙織は、この後の展開で、シンボリックなものとして扱われる。オーディン像は高所に立っているのだが、そこにいる沙織は、地上で闘う青銅聖闘士を見下ろしもせず、ただ、宙を見つめている。その姿は美しく、まるで女神像だ。星矢達と視線が交わる事はない。宙を見つめる沙織の冷たい表情が、神々の闘いの厳しさを表現する。

第447回へつづく

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(10.09.07)