アニメ様365日[小黒祐一郎]

第448回 『神々の熱き戦い』コーラス曲と神話的世界

 ここまで『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』についての話が5回続いている。一連の原稿を読んでこの作品に興味をもたれた方は、このあたりで読むのを休んで、先に本編を観てみるのがいいかもしれない。ただ、残念な事に、この作品は現在、視聴しやすいものではないようだ。本作のDVDソフトは、劇場版をまとめたDVDBOXのみがリリースされている。DVDレンタルもないようだ。ただ、大きなレンタルショップに行けば、かつてリリースされたVHSのソフトがあるかもしれない。もし観る機会があったら、できるだけ大きな画面で、大きめの音で鑑賞するのをお勧めする。
 さて、聖闘士と神闘士の闘いが終わったところで、クライマックスに突入するわけだが、その前に神闘士との闘いの合間にあった、あるシークエンスについて触れる事にしたい。

 一輝は巨漢の神闘士ルングを、一度は鳳凰幻魔拳で倒した。しかし、タフなルングはすぐに復活し、崖に落ちた瞬を助けようとしていた一輝の身体を、片手で持ち上げる。そこでルングの足下が崩れ、一輝、瞬、ルングは崖下へと落ちていく。次のシーンは翌日の朝。今日話題にしたいのは、ここから始まるシークエンスだ。
 ゆっくりと夜が明けていく。星矢はまだ薄暗い森を走る。彼は氷河が敵に回った事を知らず、探し続けているのだ。力尽きて水に浮かぶ紫龍の身体。草木も生ない大地を彷徨う氷河。彼の目は虚ろだ。そして、壮麗なアスガルドの景観。星雲鎖(ネビュラチェーン)によって命拾いをした一輝、瞬。しかし2人とも意識を失っており、崖に宙づりになっている。石段を上っていった星矢は、船首像のようになった沙織を発見する。その姿は、まるでオーディン神の生け贄にされたかのようだ。この直後にロキが登場し、星矢は彼と闘う事になる。
 映像的には、星矢がまだ氷河を探している事を描写し、神闘士との闘いの後で聖闘士がどうなったかを見せ、アスガルドのあちこちを点描しているだけだ。しかし、このシークエンスは非常に心に染みるものとなっている。僕が久しぶりに『神々の熱き戦い』を観返して、思わず泣きそうになってしまったのがここだ。
 このシークエンスでは、重々しい男声コーラスのBGMが使われている。前にも触れたが、『神々の熱き戦い』ではコーラス曲が多用されている。それは本作とって非常に重要なものだ。厳かなコーラスが、神話的世界観の構築に多大な貢献をしているのだ。このシークエンスはセリフがない。物語もほとんど進行しない。それゆえに、曲を“聴かせる”構成になっている。曲で表現する個所となっている。遙かな昔から神々の国として歴史を刻んできたアスガルド、傷ついた戦士達の姿、そして、これから激しい戦いに身を投じる星矢。それらが、コーラス曲が描き出す壮大な神話的世界とシンクロし、深いロマンを生み出している。

 例外はあるのかもしれないが、『聖闘士星矢』に限らず、東映アニメーション(本作当時は東映動画)の劇場作品は、本編の尺が出てから、映像に合わせて作曲をするのだそうだ。中でも山内重保監督の作品は映像と曲がマッチしており、特に『神々の熱き戦い』における映像と曲のマッチングは素晴らしい。
 これも山内監督に聞いた話だ。本作の制作中に、音楽の横山菁児から、あるシーンの「星矢の歩くテンポ」を教えてほしいと言われたのだそうだ。曲の緩急をドラマに合わせるだけでなく、曲のリズムをキャラクターの歩くテンポに合わせようとまでしたのだ。裏をとってはいないが、歩くテンポと合わせようとしたのは、今回取り上げたシークエンスではないかと思っている。完成した画面では、星矢は走ったり、石段を跳んだりしており、さすがにコーラス曲には合ってないが、そこまでやろうとしたのが凄まじい。

第449回へつづく

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(10.09.09)