第463回 ギュネイ・ガス
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、複数の三角関係をリンクさせていくかたちでドラマを構築している。中心にあるのが「シャア・ララァ・アムロ」の三角関係で、シャアの周りに「シャア・ナナイ・ララァ」「シャア・ナナイ・クェス」「シャア・クェス・ギュネイ」の三角関係があり、アムロの周りに「アムロ・ララァ・チェーン」「アムロ・チェーン・クェス」の三角関係がある。若い登場人物による三角関係が「クェス・ギュネイ・ハサウェイ」だ。ギュネイとハサウェイは互いの存在も知らないわけだが、2人でクェスを取り合うかたちとなっている。そうやって三角関係を重ねる事で、物語を濃密なものにしている。余談だが、庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』も同じように、複数の三角関係を重ねている。中心にあるのが「ゲンドウ・ユイ・冬月」の三角関係である。ララァもユイも「すでに失われている女性」だ。
ギュネイはクェスに好意を抱いているが、彼女はシャアに惹かれており、振り向いてもらえない。シャアを貶めようとしてゴシップ話をすると「そんな事を言うから、若い男は嫌いなんだ!」等と言われてしまう。「若い男」と言い方も、何やら生々しい。そんなギュネイは、僕にとって『逆襲のシャア』の登場人物の中で、比較的感情移入できるキャラクターだ。クェスは彼にとって華のある少女である。僕にクェスの魅力はよく分からないが、華のある彼女ために懸命になる気持ちはよく分かる。
彼はロンド・ベルが放ったミサイル群の中から、核が仕込まれたものを強化人間の力で見つけ出し、ファンネルで撃破する。素晴らしい活躍だ。クェスもそれに感心してくれるのだが、それに対してシャアは「ギュネイが、敵の核ミサイル群を阻止してくれた。あれが強化人間の仕事だ」とコメント。褒めているようで褒めていない。ギュネイは金と時間をかけて強化したのだ、あれくらいはやって当然だ、と言っているわけだ。しかも、彼を強化させたのは、シャア自身であるはずで、要するに「ギュネイにあれができたのも、俺が凄いからだよ」と言っているわけだ。
シャアの立場からすれば、クェスが自分に惹かれている方が、彼女を使うのには都合がいいわけで、その一言でギュネイの活躍の価値を下げた。事実、ギュネイについての話題はそこで断ち切られてしまう。それから、シャアは男性の本能で、若い女性が他の男に惹かれるのに妬いて、それにブレーキをかけさせたのかもしれない。とにかく、せっかく頑張って成果をあげたのに「あれが強化人間の仕事だ」と一刀両断にされてしまうのが切ない。大人の前では、若者の立場なんてこんなものだ、という感じだ。また、シャアが言っているから様になるが、同じ事を普通の中年男がいったらみっともない。それこそクェスみたいな女の子に「あんた、ちょっとセコイよ」と思われてしまう。
ギュネイは、死に方もまた切ない。映画後半、敵味方が入れ乱れているところで、νガンダムの一撃をくらって、彼が搭乗していたヤクト・ドーガは爆発。主要登場人物の1人であるにも関わらず、断末魔の描写もなければ、最後の一言もない。カット割りの話でいくと、ヤクト・ドーガの爆発ですらも、たっぷりとは見せていない。「え、今のカットで死んじゃったの?」と思うような、あっさりした描写だ。尺の問題もあったのだろうが、富野監督やアムロにとって、ギュネイの存在などはザコでしかなかったという事だ。「こいつの最期なんかに、時間を割いている場合じゃないのよね」という監督の声が聞こえてくるようだ。少し前の場面で、ギュネイがクェスに「いつまでザコを相手にしているんだ」と言っているが、彼自身がザコだった。切ないけれど、そういった語り口のドライさが、またたまらない。
ギュネイが宇宙に散ったその頃、チェーンとハサウェイが、ラー・カイラムから飛び出していた。宇宙が悲しみに包まれていく。人間とは救われない存在なのだろうか、という疑問が提示される。
第464回へつづく
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(10.10.04)