第473回 「TVアニメ25年史」と「劇場アニメ70年史」(1)
1988年には、僕にとって大きな仕事がふたつある。ひとつが徳間書店が発行した「TVアニメ25年史」と「劇場アニメ70年史」だ。今までこの連載でも、この本を何度か話題にしている。僕にとって非常に思い出深い書籍である。
これはアニメージュ創刊10周年を記念して企画されたものだ。本のサイズはA4で、決して分厚い本ではないが、内容は無闇に充実している。本のタイトルは「~史」となっているが、通史を語るかたちではない。「TVアニメ25年史」巻頭の「この本の見方」には「1作1作をテレビアニメーション史的観点からとらえなおし、その作品的意義と相互間の影響とを体系的に網羅しようとした資料性を重視した『作品辞典』の体裁をとっている」とある。編集のメインとなったのは、データ原口こと原口正宏さんだ。
「TVアニメ25年史」で言えば、各ページを4分割し、その分割された各スペースで、1作品を扱っている。各スペースを、作品のタイトル、放映データ、写真1点、あらすじ、解説、スタッフデータで構成するのが基本フォーマットだった。「劇場アニメ70年史」も同様の構成だ。『鉄腕アトム[第1作]』や『宇宙戦艦ヤマト』のようなアニメ史的にエポックなタイトルも、ほとんど振り返られる機会もないようなマイナーなタイトルも、使うスペースは1ページの4分の1なのだ。全作品を均等に扱う感覚がデータ原口さんらしい。
この2冊に関して特筆すべき点は、1988年時点での全てのTVアニメ、劇場アニメについて調査し、データを整理しようとした点だ。前述の「この本の見方」には「すべてに最新の資料による検証、究明を行い、放映期間、放映枠、キー局、放映総本数、作品のあらすじ、解説、スタッフ及びキャストの詳細なデータを作成、掲載してある。スペースのある限り、放映期間中の再放映分や時間枠移動についても言及し、各種データに諸説がある場合もその旨を附記した」とある。既存の資料を鵜呑みにせず、改めて作品の映像そのものにあたり、新聞縮刷版のような資料をチェックし、場合によってはフィルムを取り寄せて、それで内容やクレジットを確認した。たとえば、編集部の隅で『怪盗プライド』のフィルムを上映して、それを観せてもらった事がある。『怪盗プライド』は1965年に放映されたTVシリーズで、書籍でスチールを観た事はあったが、僕が現物を観たのはそれが初めてだった。
それまでも、アニメの歴史についてまとめた本はあったが、「TVアニメ25年史」と「劇場アニメ70年史」は、より詳細に調査し、膨大なデータと格闘するかたちで作られた。特にTVアニメに関しては、かつてない書籍だった。
などと、偉そうな事を書いてしまったが、僕は資料の検証には参加していない。それは原口さんと、その周囲の人達の仕事だった。僕がやったのはあらすじ、解説原稿の担当だった。あらすじ、解説の原稿をライターに依頼し、回収し、チェックし、入稿するのが僕の仕事だったのだ。それも最初からやっていたわけではない。最初は原口さん達が、あらすじ、解説原稿も担当するはずだったのだが、データ面の作業量があまりに膨大であったために、あらすじ、解説まで手が回らずに、途中から僕が担当する事になった。
もっと話をさかのぼると、最初はライターの1人として参加していた。編集作業が始まった頃は、それぞれのライターが書きたい作品を選べたので、歴代『ルパン三世』『とんがり帽子のメモル』『さすがの猿飛』『GU-GUガンモ』等を選ばせてもらった。ロボットアニメは編集部にオーソリティがいたので、僕はほとんど書いていない。ロボットアニメで書かせてもらえたのは『鉄人28号[新]』『六神合体ゴッドマーズ』くらいだ。歴代出崎統作品も、先に書き手が決まっていたように記憶している。
自分は、他の仕事の合間に楽しく原稿を書いていた。原口さん達の仕事ぶりは、とてつもなくハードなものであり、「すげえなあ」なんて思いながら、どこか他人事のように彼らを見ていた。自分があらすじ、解説原稿の担当になってからは、とてもではないが気楽に仕事をするわけにはいかなくなった。それだけの情報や作業をコントロールするのは初めてだったし、とてつもないプレッシャーと緊張感の中で仕事をする事になった。
第474回へつづく
(10.10.19)