アニメ様365日[小黒祐一郎]

第491回 『「たんすわらし。」』

 前回に続いて「若手アニメーター育成プロジェクト PROJECT A」の作品について書く。

 4本立てのトリをつとめたのが『「たんすわらし。」』。1人暮らしをしているOLののえるのところに、実家の母親から古いタンスが送られてくる。そのタンスから、不思議な子どもたちが出現。彼らはたんすわらしと呼ばれる存在で、だらしない生活をしていたのえるをサポートし始める。監督・原案が黄瀬和哉、キャラクター原案がヒラタリョウ、作画監督が海谷敏久。アニメーション制作はProduction I.Gだ。
 先に声優について書いておくと、ちょっとのんびりしたのえるを演じたのが、能登麻美子。バッチリ過ぎるくらいのキャスティングだった。

 30分という長さで、過不足なく物語を構成。キャラクターも魅力的だし、雰囲気もいい。作画を含めて画作りもしっかりしている。何よりも感心したのが演出力の高さだ。黄瀬和哉は、ゲームのアニメパート担当をのぞけば、これが初監督。僕が知る限りでは、ほとんど演出経験はないはずだが、見事なものだった。内容をスムーズに観客に伝えて、きちんと面白く作っている。1度観ただけなので、そのよさを言葉にするのが難しいのだが、脂ののったベテラン演出家のような仕事ぶりだと感じた。

 作品の背後に「女性は家事ができた方がいい。きちんとした生活を送っていたほうがいい」といった考えがあり、それも含めてオジサン目線のところがあるけれど、あまり押しつけがましくはなっていないと思う。むしろ、そういった価値観を上手に伝えていると感じた。
 憶測ではあるが、黄瀬監督はのえるに思い入れして演出したのだろう。華のあるキャラクターになっていた。彼が監督したOLラブコメディをシリーズで観てみたい。なんとなくだが、主人公はOLがいいような気がする。

 前回も書いたように、この4本は、それぞれ監督や制作会社のカラーが色濃く出ていた。そして、それぞれが違ったことをやっているのも面白い。本来の計画からすると、トンチンカンな感想になってしまうが、僕とっては『ロボットカーニバル』や『Genius Party』に近しいブログラムだった。

 「若手アニメーター育成プロジェクト PROJECT A」が劇場公開されたのは、3月5日から3月11日の1週間のみ。東京地方では新宿と大泉の2館で、1日2回の上映のみだった。元々が興行用に作られたものでないから、こぢんまりとした公開になるのは仕方がないけれど、こんなに立派な出来なのだから、もっと多く人の目に触れてもいいと思う。

 僕が言わなくてもそうなるかもしれないけれど、とりあえず言っておこう。ソフト化を希望したい。

第492回へつづく

(11.03.18)