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第16回 オッパイと芸術
今回は『プラスチックリトル』の「オッパイ」について書く。この場合は「乳房」とか「バスト」といった言葉では、だめなのだ。「オッパイ」という、ちょっと口に出すのが恥ずかしい言葉が、適切だと思う。別にエロい話をしたいわけではない。すごくマジメな事を書くつもりなので、我慢して最後まで読んでいただきたい。
OVA『プラスチックリトル』がリリースされた当時、そのシーンにショックを受けた僕は、知人にこの作品を薦めまくった。勿論、薦めるポイントがポイントだったので、相手は同年輩の男性ばかりだった。アニメーターの友人はあまりのインパクトに大笑いし、脚本家の友人は「風呂場のシーン以外は、記憶に残らないよ!」と怒り出した。近年になってとあるカリスマアニメーターが『プラスチックリトル』を観ていないと聞いたので、是非観てほしいと言った。彼の感想が聞きたかったのだ。「いや、観なくても大体は見当がつくよ」と言っていたカリスマも、観た後で「あれ程のものだとは思わなかった」とおっしゃっていた。うむうむ。
『プラスチックリトル』は1994年に発売されたOVAである。うるし原智志、よしもときんじの2人が中心となって作った作品で、うるし原さんの役職は[原作・キャラクターデザイン・作画監督・演出]。よしもとさんの役職は[原作・監督]だ。うるし原さんはマンガ家としても活躍していて、マンガやイラストでも、美麗ヌードを沢山描いている。
18禁作品やアダルト向けの作品ではない。むしろ、物語的には中学生の女の子が観てもおかしくないような、ソフトな内容のSFアクションだ。ティータは、ペットショップハンター船の船長をしている17才の少女。軍に追われていたイリーズという少女と出逢い、友だちとなった彼女を守るために、ペットショップハンターの仲間達と軍と戦う事になる。ペットショップハンターというのがどんな職業なのか、なぜ軍と戦えるほどの力を持っているのか等の疑問はあるが、それは、うるし原&よしもとコンビの原作マンガを読めば分かるのかもしれない。話の主軸は2人の少女の友情だし、仲間との関係も描かれている。キャストもいいし、音楽だってOVAとしては相当に豪華だ。メカアクションも力が入っているし、日常芝居も丁寧だ。下手な劇場作品よりも、よほどよく動いている。少女だけでなく、オッサンのキャラだってコッテコテに描かれている。細かいところに文句をつけようと思えばつけられるが、OVAとしては立派な出来だ。
だけど、前述の脚本家が言うように、お風呂シーンしか記憶に残らないのである。本編は40分。お風呂のシーンは、頭の10分目あたりからの、わずか3分半ほどだ。あまりにそこが凄すぎるのである。
自分の名前も明かさぬイリーズと打ち解けたいと思ったティータは、彼女を風呂場に誘う。彼女の船の風呂場は、動物用倉庫を改造したとかで、とんでもない広さ。ジェットコースターみたいな滑り台があったり、コーヒーカップみたいな浴槽があったり。ここは、おいおい船の中だろう、と突っ込むところだ。で、そこで2人が入浴する。なめるように2人の裸体を追うカメラ。会話シーンでは、顔ではなく、胸に目がいくように巧みに構図をとっている。イリーズが立ち上がる動きを、カメラが追うカットがある。普通なら顔をフレームの中央に収めるようにカメラを動かすところだけど、カメラが胸の動きを追う。滑り台のカットで、イリーズがフレームインする時には、乳首のアップからインする(その後、作画の送りで画面の奥へ行く)。全く惜しげもなく見せる。質的にも量的にも、圧倒的なオッパイの描写だ。
ここまで書いて、照れくさくなってきた。ひょっとしたら、WEBアニメスタイルの更新担当の女の子に「小黒さん、こんな原稿をアップするのは嫌です」と言われるかもしれないが、このまま続ける。2人の裸は造形的にも美しい。いわゆるアニメ的なツルリとした質感で描かれている。セル画表現の行き着いたかたちのひとつかもしれない。しかも、乳首の先の凹みまで作画されている。ひえ〜。顔の方は、鼻の穴すら描いていないのに、だ。アニメのキャラクターというのが何かが、よく分かる例でもある(つまり、アニメのキャラとは、見たいパーツは丹念に描かれ、見たくないパーツは排除されたものなのだ)。
単にエッチだとか、色っぽいとか、そういう問題ではない。一線を越えてしまっている。ここだけ、他シーンとは別の次元に到達しているのだ。そうなっているのは、描き手の情熱や執着心があまりに強いためだろう。アニメだからこそ作る事ができた桃源郷。胸の描写に執念がこもっているのに対して、尻の描写が淡泊なのにも、描き手の興味がはっきりと現れている(ちなみに、風呂場以外にも胸が露出するシーンはある)。
で、以下が本題。風呂場シーンの中でも圧巻だったのが、入浴前にティータがイリーズの服を脱がそうとした時の数カットの、胸の揺れである。柔らかく、ぶるんと揺れる。僕が演出家やアニメーターの友だちと、『プラスチックリトル』を話題にする時に、焦点となるのが、その数カットなのだ。皆が「あの揺れは凄い」と言う。中には呆れ気味に「凄い」と言う人もいるが、それはこの際、忘れておこう。アニメ史上空前にして絶後の「揺れ」である。作画マニアとかでなくても、多くの男性がこの動きを観たら「おおっ」と思わず声が出るに違いない(と思う)。僕のアニメヒストリーの中で「インパクトのあったカット ベスト10」を選べといったら、きっとこのカットも選ぶはずだ。
作画史的に言えば、それまでも女性の胸を揺らした例はいくつかある。かつて「乳ユラシ」はガイナックスの専売特許だった。ちょっと話がそれるが、説明しておく。ガイナックスの前身であるDAICON FILMが制作した「DAICON IV オープニングアニメ」でダイナロボをひっくり返した女の子がガッツポーズをとるカットにおいて、原画で描かれていなかった胸の動きを、動画担当だった貞本義行が動きを足して揺らしたのが、日本のアニメにおける「乳ユラシ」の最初だと言われている。その後、『王立宇宙軍』におけるシロツグのリイクニ強姦未遂シーン(第1原画がマンガ家の江川達也、第2原画が井上俊之、作画監督と動画が貞本義行という異様に豪華なカット)を経て、『トップをねらえ!』『おたくのビデオ』と、ガイナックスは揺らし続けた。だけど、『プラスチックリトル』の「揺れ」には、そういった先例が霞んでしまうほどのインパクトがあった。
単に1コマでよく動いているから凄い、というだけではない。最初に観た時には「うわ、本物そっくりだ!」と思った。多分、友人達もそう思ったのだろう。だけど、よくよく考えると、本物のオッパイは、あそこまで柔らかく動かないはずだ(いや、俺だって、実際の女性の胸の動きを研究した事はないけどさ)。やはりアニメならでは動きなのだろう。
今時、メディアの中には、女性のヌードなんて溢れているわけじゃないですか。ウブなティーンの男の子は別にして、大抵の人は、実写で胸が揺れる映像を観たって、「おおっ」と言って驚いたりはしないはずだ。だけど、僕らは「おおっ」と思った。描き手は(おそらく、うるし原さん本人だろう)は、リアルな動きを描こうとしたのかもしれないが、結果的に「リアル以上のもの」になっている。本物以上に、観た人間が本物らしいと感じる映像になっているのだ。これは凄い事だし、興味深い事でもある。どうして僕達が、人が手で描いたものに過ぎないアニメが好きなのか、アニメのどんなところに魅力を感じているのか。これは、そういった事と関連している問題でもある。
先日も演出家の友人と『プラスチックリトル』について話をして、ちょっとした議論になった。彼は、あの揺れをリアルに描こうとした結果、生まれた動きだろうと言う。それに対して僕は、いや、あの動きには描き手の理想が入っているのではないか、と反論した。どちらが正解かは分からない。
こうあってほしいと男性(まあ、男性だよね)が漠然と考えている、オッパイの理想像があって、それに近いものがアニメーションで提示されたから、「おおっ」と思ったのではないか。これは別の知人からの受け売りだけど、理想というのは、本来は心の中にしかないものだ。だけど、画や、彫刻といった手法を使い、その理想を表現して、他人に伝える事ができる。それが芸術だ。なるほどなあ。もし、あのカットが、描き手の中にあった理想をかたちにしたものだとすれば、それは芸術と呼んでよいもの、という事になる。
それもあって、描き手が、あの動きをリアルなものとして描いたのか、あるいは理想を反映させて描いたのか、ずっと気になっている。描いた本人に会う事があったら、是非、それについてうかがいたいものだ。
■第17回へ続く
(05.06.06)
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