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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第17回 お色気とダンディズム

 『プラスチックリトル』が「胸アニメ」の頂点ならば、「パンツアニメ」の最高峰が『AIKa』である。WEBアニメスタイルがリニューアルしてから、エッチな話題が続いているようだが、気にしないでいただきたい。
 『AIKa』も一線を越えてしまった作品だ。そして、90年代OVAが残した成果のひとつである。この作品がリリースされた頃、僕と友人の間で『プラスチックリトル』とセットで話題になる事が多かった。あまりにもパンツの描写が強烈で、最初に観た時に、それ以外が記憶に残らないという点で『プラスチックリトル』と似ているのだ。ただ、作品の方向性は随分と違う。
 これは1997年から1999年にリリースされたOVAシリーズ。ジャンルとしては「お色気アクション」だ。エロではなくて、お色気。僕らのお父さんの世代が観ていたような、映画とかドラマとか。TV番組で言うと「プレイガール」とか「11PM」とか、ああいう世界ね。全8本で、物語は4本目の「TRIAL 4 宇宙に咲く華」で一度完結している。番外編の「Special TRIAL」と残りの3本は、ファンの人気に応えて制作された続編である。監督は西島克彦、キャラクターデザイン・総作画監督は山内則康。脚本のメインは金巻兼一。スタジオファンタジアが企画・原作から担当した最初の作品でもある。
 西島&山内のコンビは、これ以前にも『女神天国』、以降にも『ナジカ電撃作戦』というパンツアニメを手がけているが、やはり決定版は『AIKa』だろう。山内さんは日本が誇る3大脚メーターの1人であり、その腕前は、沖浦啓之をもってして「女体作画の第一人者」と言わしめる程のものである(アニメの作画を語ろう「animator interview 沖浦啓之(3)」を参照)。


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 舞台は近未来。20年前に起きた大災害で、陸地の何割かが海中に沈んでしまった時代だ。海の底に沈んだ物品やデータを回収するサルベイジャーという職業があり、主人公の皇藍華は、K.K.コーポレーションに所属する第1級サルベイジャーである。藍華とパートナーであるりおんは、調子のいい18歳の女の子。謎の物質ラグの回収を引き受けた事から、藍華たちは、ルドルフ・ハーゲン率いる謎の一味と対立する事になる。メカアクションもあるし、格闘シーンもたっぷり。「007」か「チャーリーズ・エンジェル」か。物語自体は比較的マジメなものですよ。
 藍華は、スーツが似合う上品な女性。勿論、美人。設定年齢は26歳。飛行機の操縦テクニックや、格闘も超一流。どうやら、過去にヤバい仕事もしていたらしいが、そのあたりはよく分からない。さらに彼女には変身能力もあるが、これまた詳細は分からない(ムックによると、変身アイテムである金色のビスチュは、亡くなった両親の遺産であるらしい)。演じる佐久間レイの芝居も、艶っぽくてよろしい。アマノカズミの発展形とも言えようか。
 アニメーションとしても、気持ちよく仕上がっている。キャラデザインも、個々の画面もキッチリしている。

 で、問題はパンツである。藍華もりおんも、非常に短いスカートを履いていらっしゃる。ハーゲンの部下は、デルモ軍団(正式名称はデルモゲニィ)と呼ばれる若い女性たちなのだが、彼女たちのスカートも短い。アクションシーンでは、当然のように、パンツが見えまくる。やられた時には、カメラにパンツが写るようにして倒れる。だから、デルモ軍団が大勢倒れているカットでは、いくつもパンツが並ぶ事になる。いや、アクションシーンならまだしも、日常シーンでも見えまくる。椅子に座っても見える。椅子から立ち上がっても見える。いや、普通に立っているだけでも、カメラアングルを工夫して見せる。匠の技である。
 リリース中に、同人誌で山内さんに取材した事があるのだけれど、その時に聞いた話では、現場スタッフの間で「業界最多パンツを目指そう」などと話されていたとか。「1話が350カットあるのなら、そのうちの半分見せられるかな」「うーん、難しいけれど、やる価値はある」とか。素晴らしいチャレンジ精神である。ちなみに本作に登場するパンツは、全て白色。これは山内さんではなくて、西島監督のこだわりだそうだ。個々のパンツの描写もすごい。パンツというか、お尻の描き方がすごい。エッチなだけでなく、写実的。言われてみれば、お尻のあたりって、こんな風に肉がついているよなあ、なんて感心したり。それとは別に、パンツの縦ジワという超高等テクニックも使われているが、WEBアニメスタイルの品位に関わる問題なので、それについては詳説はすまい。

 パンツ以外にもオールヌードなど、エッチなシチュエーションもある。だが、それらはパンツほどのインパクトはない。前述の取材で、胸には興味がないのですか、と山内さんにうかがったところ「ないです」ときっぱりとおっしゃった。「それは絵を見ればわかるでしょう」とも言われていた。確かに胸もきれいに描かれているが、下半身ほどのオーラは、そこから感じられない。やはり、描き手の情熱の問題なのだろう。
 「あれだけ出せば、卑猥さとかHさが消えるだろうっていうのは、分かってやったね。逆に、パンツが見える事がギャグになるんだよ。見えるたびに、みんなが笑ってくれるみたいな」と、山内さんは語ってくれた。実際にそのとおりで『AIKa』は、ものすごくエッチではあるけれど、いわゆるエロアニメではない。話の大筋と関係なく次々と登場するパンツに、ゲラゲラ笑ったり、ニヤニヤしながら観る作品なのだ。これだけやってくれると、いっそ清々しい。
 『AIKa』がエロではなく、お色気アニメになっているのには、他にもいくつか理由がある。山内さんの画に清潔感があるのも、そのひとつである。作品自体がキッチリ作られているから、というのもあるのだろう。それと、作り手が冷静なのだ。情熱の赴くままに暴走して、パンツを描きまくっているのではない。自分たちが何をやっているのか、よく分かっていて、描いている。パンツが好きだというのが恥ずかしい事であるのも、それを描く行為の照れくささも分かっている。
 分別のある大人が、冷静に作った作品だから、安心して観ていられる。スタッフの姿勢をセリフにすると、例えば、こんな感じ。「お気づきだと思いますが、私はパンツが好きなんですよ。いやあ、お恥ずかしい。おや、あなたもお好きなんですか。奇遇ですな。全く男ってやつは、仕方ないですなあ。ハッハハハ」。作っている人も、観ている人もパンツが好き。情けないけど、それを認めて笑ってしまおう。大人の男の開き直り。そこにはダンディズムすら感じられる。いや、冗談ではなくて。

 もうひとつ、『AIKa』を語る上で忘れてはいけないのは、デルモ軍団に対する、力の入り方である。彼女たちは基本的には、名もなき少女なのだけれど(途中から、個々に名前がつくようになる)、すっごく丁寧に描写されている。デルモ軍団にはチームがあり、白デルモ、青デルモ、ピンクデルモ、黒デルモ、さらにゴールデンデルモと、コスチュームの色でチームが分けられている。白デルモが指揮官クラスで、黒デルモが一般戦闘員。白デルモのエレガンスさも素敵なのだけれど、黒デルモの普通の女の子っぽさがよい。なんで、君たち、悪の組織なんかにいるの? と疑問に思うくらいに普通なのだ。彼女たちは、ある意味、主人公以上に華がある。キャストもヒロインクラスの声優を投入している。そんなデルモ軍団の少女たちが、藍華に軽くやられて、パンツを見せて倒れていくのだ。哀しいやら、面白いやら。
 「TRIAL 4 宇宙に咲く華」で首領のハーゲンが倒れ、「TRIAL 5 白銀のデルモ作戦」からはデルモ軍団は、藍華への復讐を始める。デルモたちが中心となって事件を起こすようになったわけだが、彼女たちは「TRIAL 4」までの方が魅力的だった。やっぱり、端役は端役であった方が輝くという事だろう。作り手がやられ役である彼女たちに思い入れし過ぎて、「TRIAL 5」以降は、ちょっと話が湿っぽくなってもいる。

 『AIKa』がリリースされた時には、同傾向の大人のアニメが作られるようになるかと思ったけど、そんな事はなかったなあ。「大人の鑑賞にも耐える」じゃなくて、「大人のため」がもっとあってもいいと思うのだけれど。
 

■第18回へ続く

(05.06.20)

 
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