『はじめ人間 ギャートルズ』DVD-BOXの仕事は、こちらからお願いしてやらせてもらった。『ギャートルズ』を、シリーズを通して観返してみたかったし、色々と確認したい事があったのだ。
確認したい事のひとつが、原作についてだった。「TVアニメ25年史」(徳間書店)の『ギャートルズ』の項を読むと、この作品の原作について「園山俊二の『はじめ人間 ゴン』と『ギャートルズ』が原作」とある。とある、なんてヒトゴトみたいに言っているが、その原稿を書いたのは僕だ。さらにさかのぼると「アニメージュ」1987年11月号で東京ムービーギャグアニメの特集があり、そこでも僕は「ギャートルズ」と「はじめ人間ゴン」が原作だと書いている。
自分が原稿を書いたのは間違いないが、何を下敷きにして、その記述をしたのか憶えていない。少なくともその時点で「はじめ人間 ゴン」は読んだことがなかったはずだ。「ギャートルズ」についても、ちょっと目を通したことがあるくらいだったと思う。
先行して書かれた書籍を、下敷きにして書いたのか。あるいは東京ムービーギャグアニメ特集でスタッフに取材をした時に、原作について教えてもらったのかもしれない。誰かに「ギャートルズ」の方には、ゴンやドテチンは出てこないと言われたような気もするが、記憶が曖昧だ。1970年代末に出た「テレビアニメ全集」(秋元文庫)をチェックしてみたところ、原作は「ギャートルズ」で、「はじめ人間ゴン」から主人公のゴンをもってきたと書いてある。うーん、ニュアンスが違うので、これを下敷きにしたわけではないようだ。いずれにしても問題なのは、自分で原作の内容を確認して原稿を書いたわけではない、という事だ。
その後、自分が関わっていないムック等で、原作は「ギャートルズ」と「はじめ人間ゴン」だ、と書かれたテキストを何度か目にした。そのうちの何割かは、僕の原稿を下敷きにして書かれたものなのだろう(「TVアニメ25年史」の解説はよく引用される)。もしも、僕の記述が間違っていたとしたら、引用された記事も全部間違っている事になってしまう。だから、『ギャートルズ』の原作について触れた文章を目にするたびに、ちょっと複雑な気持ちになっていた。それもあって、今回のDVD-BOX解説書の編集作業で『ギャートルズ』の原作について、明らかにしたいと思った。
当時のスタッフに話をうかがったり、実際に原作単行本を入手して読んだ。あるいは事務所のスタッフに、国会図書館などに行って、「ギャートルズ」や「はじめ人間ゴン」が連載されていた昔の雑誌を調べてもらった。
「ギャートルズ」は「週刊漫画サンデー」(実業之日本社)の1965年6月2日号から、10年に渡って連載された作品である。勿論、主人公は原始人で、舞台は原始時代。どこまでも地平線が続くビジュアルが印象的で「地平線漫画」と呼ばれていたそうだ。純然たる大人向きの作品であり、エッチな描写も多い。物語もビジュアルも、シンプルであり大胆。アバンギャルドですらある。中には、原始時代と現在が交差するといった内容の、意欲的なエピソードもある。アニメ『ギャートルズ』について話すときによく話題になる巨大なバームクーヘンのような肉、叫んだ文字が巨大な岩となって飛んでいくという描写も、マンガ「ギャートルズ」にある。ただし、ゴンやドテチンは登場していない。アニメ版でいうところのゴンのとうちゃんが主役だが、これは固定ではない。彼が登場しない話もあるのだ。
一方、「はじめ人間 ゴン」は、学習研究社の学習雑誌に連載されたものだ。1966年9月号に「1年の学習」でスタート。後に、他の学年の「学習」や「科学」でも連載されている。「ギャートルズ」の世界を踏襲しているが、こちらはゴンが主役で、ドテチンも登場。子ども向けの素朴な内容だ。キャラクターの配置は「はじめ人間 ゴン」の方が、アニメ『はじめ人間 ギャートルズ』に近いが、「ギャートルズ」のエピソードもアニメで使われている。だから、「ギャートルズ」と「はじめ人間ゴン」の両方が原作であるのは間違いない。
トムス・エンタテインメントに残されている、当時の番組企画書を見せてもらったのだが、それには「ギャートルズ」をアニメ化するが、放送時間は19時台に予定されている。そこで、子供版の「はじめ人間 ゴン」から主人公のゴンを借りてくる、といった内容の事が書かれていた(前述の「テレビアニメ全集」の記述も、この企画書を資料を元にして書かれたものであるようだ)。
当時、「ギャートルズ」は人気のあるマンガだった。それに対して「はじめ人間ゴン」は、学習雑誌での連載であったため、あまり世間に知られた存在ではなかった。「ギャートルズ」のアニメ化として上がった企画だったが、大人マンガを原作にファミリー向けアニメを作るのは難しい。そこで、ややマイナーな存在ではあるけれど、子ども向けに描かれた「はじめ人間 ゴン」を混ぜることになった。そういった経緯なのだろう。
『ギャートルズ』DVD-BOXの準備をしている頃に、東京ムービーの文芸だった山崎敬之さんの著書「テレビアニメ魂」(講談社現代新書)が発売された。山崎さんは、東京ムービーギャグアニメの特集でお話をうかがった方だ。この本でも「ギャートルズ」と「はじめ人間ゴン」が原作とされており、さらに元々は大人向けの「ギャートルズ」を映像化する企画だった事も書かれている(細かいデータ面などについては首をひねるところもあるが、かなり興味深い内容の本だ。是非ご一読を)。他のスタッフに話をうかがっても、そのあたりの事について矛盾は出なかった。
よっしゃあ。原作は「ギャートルズ」と「はじめ人間ゴン」だ。間違いない。安心して、DVD-BOX解説書の編集作業を進めていた。ところが、『はじめ人間 ギャートルズ』のサンプルビデオを観ていて、オープニングにとんでもない表示が出ているのに気がついた。「原作/園山俊二 連載/小学館の学習雑誌」と出ているのだ。ええ〜、なんだそれは!! 原作は学研じゃないの? 「週刊漫画サンデー」はどこにいったの? 慌てて、スタッフに国会図書館に調べに行ってもらった。
なんとびっくり。アニメ『はじめ人間 ギャートルズ』の放映が始まる直前、1974年の11月号から、小学館の学年誌「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」「小学五年生」で園山俊二の連載がスタートしているのだ。タイトルはアニメ版と同じ「はじめ人間 ギャートルズ」。そんな連載があったなんて、今まで全く知らなかった。ちなみに「小学一年生」の連載第1回目のみ、ペン画によるマンガではなく、セル画で仕上げられたものになっている。アニメのスタッフが作画したのだろう。内容は「はじめ人間 ゴン」と同じくゴンが主役だ。ヒロインのピーコ、動物キャラのヒネモグラの出番も多いようだ。「はじめ人間 ゴン」と「はじめ人間 ギャートルズ」を全て読んだわけではないので断言はできないが、多分、小学館版の方が、全体にアニメ版の印象に近いものなのだろう。
アニメ『ギャートルズ』の放映が始まる頃、すでに学習研究社での連載は終わっていた。そこでアニメとタイアップするかたちで改めて始まったのが、マンガ「はじめ人間 ギャートルズ」だ。読んでみると、この小学館版のエピソードも、アニメで使っているようだ。すると、マンガ「はじめ人間 ギャートルズ」も、アニメ『はじめ人間 ギャートルズ』の原作のひとつという事になる。
だから、厳密に書くとこうなる。アニメ『はじめ人間 ギャートルズ』は、園山俊二の「はじめ人間ゴン」「ギャートルズ」の映像化として企画され、「はじめ人間ゴン」「ギャートルズ」「はじめ人間 ギャートルズ」を原作として作られた。
今後『ギャートルズ』の解説を書く機会があったら、自信たっぷりに原作との関係について書くことができる。よかったよかった。
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