来年『機動戦艦ナデシコ』がDVD-BOX化される。1996年に放映が開始された作品だから、もう10年経つのか。ひゃあ。いつも同じ事を言っているような気がするが、時の流れとは早いものだ。僕は『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦艦ナデシコ』『少女革命ウテナ』『アキハバラ電脳組』の4作品には、それぞれ違ったスタンスで数年ずつ関わった。『エヴァ』のLDを構成しながら『ゲキガンガー』の設定を作ったり、『ウテナ』の広報をやりながら『アキハバラ』の企画書を手伝ったりしていた。それが僕の1990年代後半だ。
WEBアニメスタイルの読者はご存知だと思うが、『ゲキガンガー』は『機動戦艦ナデシコ』の劇中アニメである。『クレヨンしんちゃん』に『アクション仮面』があり、『飛べ!イサミ』に『バーチャル戦隊ガンバマン』があるように、『機動戦艦ナデシコ』には『ゲキガンガー』がある。正式タイトルは『ゲキガンガー3』、あるいは『熱血ロボ ゲキガンガー3』。『ナデシコ』作品世界内でかつて放映されていた70年代風熱血ロボットアニメで、すでに滅多に観られない作品となっている。サブキャラクターのダイゴウジ・ガイが『ゲキガンガー』のファンであったのがきっかけで、ドラマ中でそのタイトルが頻繁に話題になるようになり、やがて作品のテーマともリンクしていく。
僕がやったのは『ゲキガンガー3』の各ネーミングや、全39話のサブタイトルとあらすじ等。つまり、文芸的な設定を担当した。各話エンディングに「スタジオ雄」の名前でクレジットされている。僕に設定を発注したのは、ストーリーエディターの會川昇さんであり、『ゲキガンガー』の設定についてのディレクションも彼がやっている。『ゲキガンガー3』は最初は全52話の予定だったが、視聴率的に不振で27話でタイトルを『熱血ロボ ゲキガンガー3』に変更。内容的にもテコ入れがあったが、視聴率が上向きになる事はなく、39話で打ち切られた。主人公のテンカワ・アキトも、子供の頃にこのアニメが好きだったが、タイトルが変わった27話以降については存在すらも知らなかった。途中でタイトルが変わるのも、設定のオーダーを受けた段階で決まっていたと記憶している。
『ゲキガンガー』をやるにあたって、改めて昔のロボットアニメを観直した。いろいろなロボットアニメがLD化されていた頃だったので、次々にLD-BOXを買って観まくった。『大空魔竜ガイキング』はあまりにも面白かったので、全44話を2日で観てしまった。具体的に『ガイキング』からネタを採った部分はほとんどないはずだが、その乱暴ですらあるダイナミックな内容は『ゲキガンガー』の目標となった。ロボットアニメではないが、あまりにもメチャクチャな展開で腰が抜けそうになった『科学忍者隊ガッチャマンF』終盤も参考になった(『F』最終回の「ウルトラセブン」パロディの事ではない)。『ゲキガンガー』の作業は楽しかった。今よりも激務続きの時期だったから、実際にはヒーヒー言いながらやっていたのだと思うけど、思い出すのは楽しい事ばかりだ。今でも作画のメインだった羽原信義さんと会うと、必ず『ゲキガンガー』の話になる。
アニメスタイル向きのエピソードを披露しよう。放映開始前、『ナデシコ』3話のゲキガンガー・シーンを作画する事になった吉松孝博君から、事務所に電話がかかってきた。吉松君の用事は「荒木伸吾風と野田卓雄風に描き分けろと言われたんですけど、資料を貸してください」というものだった。『ナデシコ』に挿入された断片を観てもほとんど分からないと思うが、『ゲキガンガー』の個々の話は、70年代の色々なロボットアニメのエピソードをなぞっている。それで、例えばナイーダとかノエルみたいな話は作画も荒木伸吾風だとか、カンフーロボが出てくる話は金田風作画になっているという設定だったのだ。と書きながら思ったけど、それはもはや設定ではないよなあ。まあ、それはともかく、吉松君が作画する『ナデシコ』3話では、『ゲキガンガー』の26話「大爆発!くたばれキョアック星人」と27話「壮烈!!ゲキガンガー炎に消ゆ!!」が一部分挿入される事になっており、吉松君は作画打ち合わせで「26話は野田作監風に、27話は荒木作監風に描く」ように指示されたらしい。ゲキガンガーがアカラ様と戦っているのが26話で、海燕ジョーが死ぬところが27話だ。劇画タッチで描いたら、野田風と荒木風は描き分けられないだろうと思ったけれど、一応、資料を渡して、作画についてのアドバイスをした。27話については「『グレンダイザー』の荒木さんよりも『巨人の星』の時の方がマネしやすいぞ」と言ったのかもしれないけれど、最早記憶が曖昧だ。
制作中に吉松君にFAXで送ってもらって、その場面の原画を見たのだけど、ちゃんと26話のところは野田作監風というか、スタジオNo.1風になっていて感心した。27話の方はゴリゴリに線を太くした本格劇画タッチ。『グレンダイザー』ではなくて『巨人の星』だが、荒木風と言えば荒木風だ。『ナデシコ』3話はハッチャケ演出で名を馳せている大畑清隆さんが演出であり、大畑+吉松コンビのパワーで、ゲキガンガー・シーンは相当に濃いものとなっている。このシーンで吉松君がやった小ネタとしては「真っ二つになったゲキガンパンチは中身が空っぽ」「無限リピートで逃げる群衆」「アカラロボは手だけが別セルで、不自然に動く」がある。無限リピートは野田作監という事で、キャラクターがいちいち『タイガーマスク』風作画になっているところがなんとも濃い。手を別セルにした件については、後で「AセルとBセルの間に、空セルを3枚くらい入れて、もっと手を浮かせばよかった」と彼はコメントしていた。「ゲキガンパンチ」という文字が画面いっぱいに出て、それを突き破ってゲキガンパンチがカメラに向かって飛んでくるのは、アニメではなくて特撮ネタ。これは大畑さんのアイデアだろう。
吉松君がアニメーターとして優秀な事は知っていたが、こんなに芸達者だとは思っていなかった。実は彼が『ゲキガンガー』を描くと知った時に「え? 君が描くの。大丈夫!?」と、非常に失礼な事を言ってしまった。ごめんなさい。反省しています。彼が“特殊アニメーター”として他の作品でも変な作画をしているのを知るのは、その後の事だ。この3話で火が点いて、以降もゲキガンガー・シーンの悪ノリは続く事になる。
作画関係で一番濃い思い出は『機動戦艦ナデシコ』の打ち入りのときの事だ。羽原さんが、僕と顔を合わせた瞬間に「アクアマリンの回で、手つなぎをいれておきましたよ!」と言ったので、間髪入れず「指さしのカットは入らないんですか」と返した。羽原さんは「うーむ。なんとか入れます!」と言ってくれた。我ながら、惚れ惚れするほどのマニアぶりである。それは『ナデシコ』10話に挿入される『ゲキガンガー』33話「聖少女アクアマリンの微笑み」についての会話だった。
これについては、ちょっと説明がいるだろう。33話は美少女宇宙人が刺客となるナイーダやノエル系統の話で、ゲストキャラのアクアマリンは、デザインも荒木プロ風のものとなっている。話は遡るが、アニメージュの創刊1周年号に荒木伸吾特集があり、その中で「荒木アニメによくある構図」として、2人のキャラクターが手をつないで走っているカットと、正面を向いたキャラクターがカメラを指さすカットが挙げられていた。初期のアニメージュはマニアックな特集が多いが、中でもこの特集はインパクトの強いものだった。あの記事を記憶しているマニアは少なくないだろう。僕にとっては荒木作画の「手つなぎ」「指さし」は1セットなのだ。羽原さんとも「手つなぎ」「指さし」だけで話が通じた。以心伝心。周りにいた他のスタッフは何のことだかわからずに、キョトンとしていたけれど。
『ゲキガンガー』では、各話のカット数が少ないのをいい事に、色んなアニメーターに作画をお願いした。小松原一男、金田伊功、本橋秀之、越智一裕、黄瀬和哉、キクチミチタカ。後のOVA版では荒木伸吾、野田卓雄にも原画を描いてもらっている。実際にそれぞれの依頼をしたのは羽原さんだと思うが、荒木さんにだけは僕がお願いした。荒木さんは誰かから教えられていたらしく、僕が電話をしたときに、すでに前述のアクアマリンの事をご存知であり、『ゲキガンガー』への参加を快諾してくださった。荒木さんの希望で、荒木プロの姫野美智さんがゲストキャラのデザインも担当し、荒木さんと姫野さんが挿入されるイラストも描いてくださった。素晴らしい。小松原さん、荒木さん、野田さんといった大御所に依頼したのは、自分達で「××風」の作画をするよりは本人に頼んだ方がいいと、羽原さんが発想の転換をしたためだ。
こんな話をしていると、誰かに「いいね、あなた達は楽しそうで」と言われそうだが、実際に楽しかったのだから、言い返す事もできない。『ゲキガンガー3』の思い出話はまだ沢山ある。この続きは別の機会に。
●商品情報
「機動戦艦ナデシコ DVD-BOX」
価格:45150円(税込)
仕様:10枚組(TVシリーズ全26話+劇場版+OVA『ゲキガンガー』+映像特典)
発売元:キングレコード
2006/03/24発売予定
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