web animation magazine WEBアニメスタイル

 
COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第28回 『ゲキガンガー』と“アニメの夢”

 前にも書いたとおり、『ゲキガンガー3』は『機動戦艦ナデシコ』の劇中アニメである。『ナデシコ』と『ゲキガンガー』の関係が逆転したのが14話「『熱血アニメ』でいこう」だ。

 そのアイデアは僕が出した。『ナデシコ』で総集編を作る事になった時に「『ゲキガンガー』のキャラが『ナデシコ』を観ている事にしたらどうですか?」と提案したのだ。主従が逆転して『ゲキガンガー』が主となり、『ナデシコ』が劇中アニメになる。
 メモ程度のものだが、簡単なプロットを書いた。そのプロットには、海燕ジョーと国分寺ナナコがデートに行こうとしたときに、メカ怪獣が現れてデートがオジャンになる、といった展開も書いたように記憶している。そんな無茶なアイデアが通るとは思わなかった。「こんなのをやったら、すごいよね」といったノリで出した案だったので、実現したのには驚いた。それだけ『ナデシコ』という作品がイケイケであり、會川昇さんや佐藤竜雄監督の懐が広かったのだ。

 プロットがそのまま映像になるわけはなく、完成したフィルムは、佐藤監督をはじめとしたメインスタッフの手によってプロットの内容が整理され、いろいろと付け加えたものとなっている(その過程に僕は参加していない)。いちばん大きな変化は『ナデシコ』を観た国分寺博士が、エステバリスのディストーションフィールドを使った攻撃を参考にして、ゲキガンガーの必殺技であるゲキガンフレアーを作り出すという事だ。
 『ナデシコ』本編ではディストーションフィールドを使った攻撃は、2話でガイとアキトが編み出したもので、『ゲキガンガー』ファンのガイによって、その技はゲキガンフレアーと命名されている。この必殺技を最初に考えたのはガイとアキトなの? それとも国分寺博士なの? という、ちょっとしたパラドックスが生まれたわけだ。これは上手いなあ、と感心した。
 この話は「『ナデシコ』を観ている『ゲキガンガー』のキャラクター」を『ナデシコ』キャラが観ているというところで終わっている。プロットでは、さらに画面外から『ナデシコ』を観ている視聴者の手がのびてきて、TVを消して終わるというアイデアも入れてあったが、さすがにそれは無理だった。当たり前だ。
 番組が始まった途端に『ゲキガンガー』の大地アキラが「ちぇ。なんだ、総集編かよ」とTVに突っ込みを入れたり、『ナデシコ』を観て天空ケンが「結構リアルな戦闘シーンだな」と言うあたりなんて、面白すぎるくらい面白い。Aパート頭に『ゲキガンガー』のOP(ただし、この時は短縮版)をつけたり、EDでの作画スタッフのクレジット表記で『ナデシコ』と『ゲキガンガー』の主従が逆転し、『ナデシコ』の作画スタッフがサブ扱いになっているのも愉快だった。『ナデシコ』って、やり放題の作品だったんだなあ、と今になって思う。

 14話は元々総集編として作られた話なので、新作画はほとんどしない予定だったのだが、絵コンテ・演出を担当した羽原信義さんが燃えに燃えて『ゲキガンガー』パートを作ってくれた。カット数も作画枚数も決して多くはないけれど、熱いフィルムになっている。Bパート後半は「なんちゃって本格ロボットもの」ではなくて、本当に「70年代ロボットアニメ」のように観える。それは羽原さんの本気パワーのおかげだろう。
 キャラクター作画も『ゲッターロボ』や『グレンダイザー』の頃の小松原一男風。本当に、小松原さん本人も作画に参加している(OPのケン達の振り向き、走りなどを担当)。羽原さんの原画で、敵の攻撃を受けたゲキガンガーが一瞬にして三機に分離するカットなんか、惚れ惚れしてしまう。敵のアカラロボ(ビッグ アカラ スペシャル)がゲキガンソードを受けた瞬間にBGMが転調するあたりの曲づけにもシビれた。音響監督の田中英行さんも、楽しんで『ゲキガンガー』をやってくださっていたようだ。この話に限った事ではないけれど、小杉十郎太さん、飛田展男さんの怪演も光っている。
 『ナデシコ』本編中では、『ゲキガンガー』は画面端に時報が入っていたが(朝の再放送を録画したものを観ている設定だった)、14話は大晦日の早朝に放映された。そのためにオンエア時には、全編に本当の時報が入った。狙ったわけではないけれど、まるで「今回は『ゲキガンガー』が主だから、全編に時報が入った」ようだった。14話でいちばん濃いポイントはそこかもしれない。

 14話で、僕がこだわったのが「いいわね。アニメって夢があって」というナナコのセリフだった。『ゲキガンガー』の舞台が70年代であり、アニメブームが70年代末。『ナデシコ』が未来を舞台にした宇宙戦艦ものなら『ゲキガンガー』の天空ケンたちにとって、それは『宇宙戦艦ヤマト』のようなものではないか。
 昔は、よく「アニメには夢がある」なんて言われていた。実際に、アニメブームの頃には「夢とロマン」を売りにした作品が多かった。夢なんかとあまり縁のないハードな作品でも「アニメだから夢がある」みたいな扱いを受けていたような気がする。
 『ゲキガンガー』の作業をしていた頃、「アニメには夢がある」なんて言われた時代から、随分遠くまできてしまったなあと思っていて、その感慨をナナコのセリフに入れたのだ。そのセリフはプロットで書いたのだが、絵コンテに至る過程でなくなっていた。アフレコ時に、羽原さんにお願いして、そのセリフを復活させてもらった。オフゼリフになっているのは、後で追加したためだ。

 後に『ゲキガンガー』はOVAも作っているのだが、僕自身の思い入れは、この14話の方が強い。それは『ナデシコ』本編と絡み合っているためでもある。『ナデシコ』シリーズを通しても、前半のクライマックスであり、敵ロボットのコクピットに『ゲキガンガー』グッズが発見されたところで終わる13話、この14話、敵が『ゲキガンガー』マニアの集まりの木連である事が判明する15話。その3話の流れが好きだ。

 

■第29回へ続く

●商品情報
「機動戦艦ナデシコ DVD-BOX」
価格:45150円(税込)
仕様:10枚組(TVシリーズ全26話+劇場版+OVA『ゲキガンガー』+映像特典)
発売元:キングレコード
2006/03/24発売予定
[Amazon]

(06.03.20)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.