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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第90回 『エスパー魔美』再見 「ターニングポイント」

 魔美と高畑の名コンビぶりは、本作の魅力のひとつだ。超能力と行動力はあるが、思慮の足りない魔美と、他に特別な力はないが頭の回転がよく、博識な高畑。どちらかと言えば、高畑が魔美に振り回される事が多いのだが、彼は魔美の存在を受け止めており、彼女のよい部分を認めている。いつも的確なアドバイスを与え、時にやんわりと苦言を呈する。この“やんわり”というところが、彼のいいところだ。高畑和夫は思慮深い少年なのだ。
 高畑はユニークなキャラクターだ。今回観返して、魔美よりも高畑の方が面白いのではないかと思ったくらいだ。何気ないセリフに妙なおかしさがある。頭がよすぎる事や、思慮深過ぎる事が、彼の面白さに繋がっているのだ。DVD-BOX解説書のインタビューや、先日のアニメスタイルイベントのトークでも話題になったが、放映当時、スタッフからも「あんなに頭のいい中学生がいるわけがない」と突っ込みが入れられていたそうだ。中学生とは思えないほどに頭がよいが、それが嫌味にならないのは、彼の人のよさのためだろう。
 彼がユニークである点は、それだけではない。ケンカが弱いのに正義感が強く、運動神経はよくないのに野球が好き。自分が恋愛ベタである事や、ルックスがよくない事を自覚している。人並み外れて頭がよいのに、人間くさいところをたっぶりと持ち合わせているのだ。アニメ版の高畑が、原作よりも野暮ったさが増しているように感じるのは、演出のせいなのか、絵柄のせいなのか、声のせいなのか。きっと、その全部なのだろう(それで言うと、魔美も原作よりもノンキなキャラクターになっている印象がある)。
 超能力を持っている魔美がヒーローで、高畑が補佐役なら、ホームズとワトソンのような関係になりそうだが、2人の関係は常に対等だ。それが2人が名コンビである由縁だろう。超能力を持っている魔美に匹敵するくらい、高畑の頭脳は優れているとも言えるわけだ。そんな彼が「自分もエスパーだ」と言った事がある。88話「ターニングポイント」(脚本/桶谷顕 絵コンテ・演出/高柳哲司)である。
 「ターニングポイント」は魔美と高畑の関係を総括したという意味で、重要なエピソードだ。だが、物語としては、あまりドラマチックなものではない。それは高畑が主人公であったためであるのかもしれない。やはり彼は、主役よりも脇役で光る少年なのだ。
 高畑にアメリカへの交換留学の話が持ちかけられる。魔美は、高畑がいなくなるのは困ると考えるが、魔美の父親は、それは彼にとって人生のターニングポイントとなる事だろう、1年くらいは我慢をするべきだろうと言うのだった。一方、魔美は大学入試に失敗して自殺しようとしている青年に出逢う。普段なら高畑に相談するところだが、これからは高畑抜きでエスパーとして活動しようと考えていた彼女は、1人で青年を救おうとした。だが、彼に自殺をさせない方法を思いつかなかった魔美は、無茶な説得をしてしまい、ヤケになった青年は、彼女を道連れにしてガス自殺をしようとする。魔美はいつも助けを求める人の心の叫びを超能力でとらえており、彼女はそれを非常ベルと呼んでいるのだが、この話では、助けを求める魔美の非常ベルの音が、高畑の心に届く(魔美には、自分の心の中にあるイメージを他者に伝える超能力があり、これはその応用だろう)。高畑がガスが充満した部屋に駆けつけ、魔美と青年は助かるのだった。
 事件が一段落したところで、高畑は「魔美君は自分だけがエスパーだと思っているかもしれないけど、僕だってエスパーなんだ。君が苦しんでいる時に、君を救えるのは僕だけって事さ」と言う。勿論、そんなキザな事を言った後で、魔美に笑われてしまうのだが。彼が言ったのは、2人がそろってようやく一人前のエスパーだという意味なのだろう。さすがは高畑、自分達の事がよく分かっている。
 この話の中盤で、魔美の親友であるノンと幸子が、高畑の留学を止めさせようとする場面がある。「あんた、魔美をどう思ってんのよ。魔美みたいな子を置いて、1人でアメリカなんて行けるのかって事よ。魔美っていうのはね……」と途中まで言ったところで、ノンと幸子は言葉が詰まる。魔美の事をどう言葉で形容すればいいのか分からなくなってしまったのだ。ところが、問い詰められているはずの高畑が「魔美君って、純粋で無邪気だけど、ドジでおっちょこちょい。だから、1人にしておいたら、何をしでかすか心配で、ほっておけない子だろ」と、スラスラと魔美の人物評を語ってしまう。そんなセリフがすぐに出るくらい、普段から魔美の事を考えているのだ。また、それをスラスラと言ってしまうところが彼らしい。
 結局、高畑はアメリカへの留学を断ってしまうが、その理由を魔美には、はっきりとは言わない。その本心は、最後にモノローグで語られる。「留学の話を断ったのは、誰のためでもありません。僕自身のためと考えたからです。なにも留学なんてしなくても、今この時、様々な人達、様々な事件と出逢い、色々な体験ができるからです。……そう、魔美君と一緒に」。中盤でノン達に対して言ったように魔美の事が心配なのも本当だが、むしろ、他人のために働き続けたいと思ったのが、彼が日本に残った理由だった。それは彼にとって、留学よりも自分のためになる人生経験なのだ。そして、魔美への想いは心配だけではないのだろう。
 高畑が留学しなかった事で、このエピソードは、魔美の父親が言った意味でのターニングポイントにはならなかった。魔美達にとってのターニングポイントは、最終回まで持ち越される事になる。

■第91回に続く


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(06.12.08)

 
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