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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第93回 新アニメ雑誌のアイデア

 先日、新しく大人向けのアニメ雑誌を創刊したいという出版社の方の相談に乗った。僕自身が作りたいアニメ雑誌について話をしたのではなく、こんな雑誌を作ったらどうかと提案をさせてもらったわけだ。作る心配をしないでいいので、無責任に色々と話をした。こういう時は、話しているうちに普段考えてもいなかったアイデアが次々と出てくる。
 イケるかなと思ったのが、特集主義の雑誌。1号1特集で、毎号ひとつのテーマを掘り下げていく。一般雑誌で言えば「BRUTUS」のようなスタイル。今まで、そういった特集主義のアニメ雑誌はあまりなかった。毎号のテーマはある程度、絞った方がいい。テーマが漠然としたものだと、特集自体が薄味になってしまう。アニメソングの大御所やベテラン声優を1人取り上げて特集するのも面白い。クリエイターを取り上げるにしても、単に作品歴を追うのではなく、何か変わった切り口で。作品特集をやるなら、よほどの話題作か問題作。ひとつの特集に大勢の人の意見、色んな目線を入れるようにする。徹底的に掘り下げていく。たとえば創刊号のテーマは「ジブリアニメって本当に面白いの?」。皆が知っているジブリアニメについて改めて検証する。『もののけ姫』はあんなに難しい内容なのに、どうしてみんなが誉めるのか。『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』は何が優れていて、何か物足りないのか。といった事をマジメに記事にしていく。実現したら面白いと思う。ただし、この雑誌を作るには優秀な編集者が大勢必要だ。
 ふたつめが、アニメ版「本の雑誌」。「本の雑誌」には本好きの人が大勢参加して、本について色々と語っている。書評誌というよりは、本好きの人のための雑誌だと思う。それをアニメでやってみる。評論誌でもなく、研究誌でもなく、ファン雑誌。まったりとした感じで、ちょっと濃いめの記事を掲載する。大人のアニメファンが読んでいて楽しくなるような雑誌。特集よりも個々の記事、連載コラムに力を入れる。記事に関しては、大人のファンを対象にしたからこそ成立する企画もあるはずだ。コラムは、どんなメンバーを揃えるかが勝負だ。これは作るのはそんなに難しくないと思うけれど、売れるようになるまで時間がかかるだろう。少なくとも、最初の数号は赤字覚悟で出すしかない。
 それからもうひとつ。実現の可能性でいうと、これが一番低い。厳選された作品を、より洗練されたかたちで記事にする雑誌だ。“厳選”と“洗練”がポイント。取り上げるのは最新の作品でも、旧作でもいい。人気作を取り上げるのではなく、その雑誌がよいと判断したものを取り上げる。読者もこの雑誌が紹介するなら、観てみようと思う。当たり前の作り方のようだけど、そういったアニメ雑誌は、現在はないと思う(実はかつての「アニメージュ」や「ニュータイプ」にはそういった傾向が、多少はあった)。グルメ雑誌でいうと「dancyu」かな。普通のアニメ雑誌が「TOKYO1週間」とか「Tokyo Walker」のラーメン特集だとしたら、それに対して「dancyu」。単によい作品を取り上げるだけでなく、記事を通して「アニメのある豊かな人生」みたいなものを提案する。一般誌でも専門誌でも、あるいは情報誌でも、成功する雑誌って何らかの価値観を体現しているものだ。アニメスタイルが目指すのもそれに近いけれど、この企画の場合はアニメスタイルみたいに細部への興味や、マニアックな志向が全面に出るとまずい。そういったものは備えつつ、記事の背後に隠しておく。しっかりとした記事を、スマートに作るのだ。なぜなら過剰さは、大人の雑誌に相応しくないからだ。この企画が難しいのは、作り手がアニメファンとして成熟している事が要求される事。それから雑誌のルックスに派手さがないので、そんなには売れないだろうという事だ。最初に挙げた特集主義の企画とミックスすると上手くいくかもしれない。

 

■第94回に続く


(07.02.13)

 
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