アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その104 1978年の出来事

 1978年はアニメブームの年でした。中心は劇場版『宇宙戦艦ヤマト』の大ヒットを受けての『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』。これは前作とは違い2時間31分の新作で西崎義展さん総指揮の下、東映動画が制作に加わっています。これも空前の大ヒットとなり、またも社会現象を巻き起こしましたが、私の周囲は冷ややかにそれを見ていました。強大な敵を倒したと思えばその中からまた強力な敵が現れるという悪夢のような入れ子構造、顕わな散華の思想。作画的見どころはあるにも関わらず、ズォーダー大帝の高笑いが全ての印象を塗り潰してしまうのです。私にとって今も残っているのは阿久悠さん作詞、沢田研二さん歌唱による挿入歌にして普遍的名曲「ヤマトより愛をこめて」だけと言わざるを得ません。
 劇場アニメでもうひとつ注目は通称マモー編と呼ばれる劇場版『ルパン三世』です。スタッフやキャラクターデザインや作品のムードが変わっても『ルパン三世』というイメージは揺るがない、一種のブランド化が確立された契機と言えるのではないでしょうか。マモー編は今も根強い人気を誇っています。
 アニメブームは『ヤマト』のビジュアルに多大な貢献をした松本零士さんのブームでもありました。TVでは『宇宙海賊 キャプテンハーロック』『SF西遊記 スタージンガー』『銀河鉄道999』等が放送され、次の流れを作って行くことになります。
 TVアニメの注目作はこれらに加え、『無敵超人 ザンボット3』に次いで富野喜幸さん(当時)が総監督を務めた『無敵鋼人 ダイターン3』。主人公・破嵐万丈をはじめとする華麗なキャラクター展開と、貞光紳也さん演出回での金田伊功さんの暴走作画が印象的。最終回の何とも言えぬ味わいも忘れがたく残ります。そして長浜忠夫さんが総監督を務めた長浜ドラマティック・ロボット・アニメ第3弾に当たる、宇宙版ロミオとジュリエットと言うべき『闘将 ダイモス』。このゲストメカ・デザインで出渕裕さんがデビューしている点も注目です。また演出・出崎統さん、作画監督・杉野昭夫さん、美術・小林七郎さん、音楽・羽田健太郎さんと最強布陣の『宝島』もアニメ史に残る傑作。男の生きざまを見せつけた海賊シルバーの声を演じた若山弦蔵さんの名演技。作画も町田よしとさんの歌唱も素晴らしいOP曲「宝島」ED曲「小さな船乗り」は今も心の琴線を振るわせる名曲です。
 そしてこの年はやはり『未来少年コナン』の年として記憶されます。私は動画として参加しましたが、絵コンテを読んで事前に内容を掌握しているにも関わらず、これほど毎週の放送が楽しみだったアニメは他にありません。アニドウの次回上映会が『コナン』の放送日である火曜日と重なってしまった時に「来週の『未来少年コナン』の放送はお休みです。安心してご来場ください」と場内アナウンスして喝采を浴びたこともあります。また絵コンテそのものを見るのがこれほど楽しみだった作品もありません。宮崎駿さん直筆の絵コンテは今では書籍化されているので誰の目にも明らかと思いますが、とにかく緻密に描き込まれている上に欄外の注意書き等の書き込みも興味深く、100%宮崎さんのイメージの産物である絵コンテは、もしかすると実際の完成画面よりも濃密な魅力にあふれていると言っても過言ではないかもしれません。NHKで第1話の試写を拝見して以来『コナン』に心底魅せられた私たちはその後1年がかりで大特集本を作り上げました。『コナン』についてはまたそれについての回で述べることにしましょう。

 この年は2月の「未知との遭遇」、6月の「スター・ウォーズ」の劇場公開で日本中にSFブームが吹き荒れた年でもありました。1年以上前から狂騒状態にあった「スター・ウォーズ」が遂に国内公開となった時、もちろん感激はあったのですが、正直「えっ、こんなの?」的な思いが浮かんだのも偽りない事実です。全編息をもつかせぬと予想して挑んだ末、惑星タトゥイーンの静かなシーンで寝てしまったという話もあちこちで聞きました。種々雑多な宇宙人が行き交う街や酒場の目を奪う喧騒、モンスター・チェスの楽しさ、スター・デストロイヤーの想像を絶する巨大感等々それまで見たこともない画面は満載なのですが、それでも物足りなさは拭えなかったのです。話題のライトセーバーもこの時点ではまだ使いこなされておらず、アレンジの才能世界一である日本人の手になるシャリバン・クラッシュ(東映特撮「宇宙刑事シャリバン」の必殺技)の方が千倍はカッコいいと断言します。むしろ私的には「スター・ウォーズ」の直前に公開された深作欣二監督作の宇宙版八犬伝とも言うべき東映劇場作品「宇宙からのメッセージ」の方に魅力を感じてしまいました。「宇宙からのメッセージ」は後に設定を変えて7月から「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」としてTVシリーズ化されましたが、これも終盤の伊上勝脚本の真骨頂、天地人みっつの秘宝争奪戦突入以降の怒涛の盛り上がりと、マントを捌けば日本一の俳優、堀田真三さんのケレン味あふれる名演が記憶に焼きついています。東映特撮と言えば、かのスパイダーマンが巨大ロボットに搭乗する異色作「スパイダーマン」など、その異色ぶりとスパイダー・アクションのキレが後に本国でも評判を呼んだそうです。

 この年のアニドウの活動で特に注目すべきは長らく幻の作品となっていたハラス&バチェラーの長編『動物農場』を10月に上映したことが上げられます。アニメ関係の洋書を開けば必ず大きく載っている『動物農場』ですが、この時がおそらく日本での初公開。後年の三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーに先立つこと30数年になりますが、正直この時点では幻の長編に対する期待が大きすぎて私にはその真価を理解するには至らなかったのでした。

 またこの年の5月に徳間書店から「アニメージュ」が創刊になっています。初代編集長・尾形さんは創刊に先立ち多くの人を招いて意見を聞いたそうですが、アニドウからも並木さんと私、金春智子さんたちが招かれました。初めて相対した尾形さんは私の目には「アサヒ芸能」出身らしい精気にあふれて山っ気のある人に見えました。しかし押し出しの強さとともに、素人の私たちに対しても一人前に扱ってくれる腰の低さを兼ね備え、何としてもこの雑誌を成功させたいとの意欲が伝わってきました。意見を求められて私は、新しい作品ばかりでなく東映長編のような歴史的価値のある作品も扱って欲しい旨を伝えました。私の意見が認められたとは思っていませんが刊行された「アニメージュ」にはそうしたページも存在していて嬉しかったものです。

その105へつづく

(11.04.01)