アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その32 機関誌『(旧)1/24』誕生の頃

 私がアニ同の新人会員だった1971年当時、会長ではないものの実質的なリーダーとしてアニ同を引っ張っていたのは湯川高光さんでした。その湯川さんの提案でアニ同の機関誌を出そうということになりました。
 それまでアニ同では創立以来不定期に『アニメだより』という会報が発行されていました。時代を反映してガリ版(謄写版)刷りのもので、内容はアニ同内の連絡事項や記録、記事や感想文などで、これには私は入会時期の関係もあって全く関わっていません。
 湯川さんは『アニメだより』とは別に、会員皆が参加できるものを考えていたようです。コボタンの2階での月曜集会の席上で、有志が輪になって話し合いがもたれました。湯川さんは熱意の固まりのようなエネルギッシュな方でしたが、同時に、やる気のある者は拒まずという懐の広い方だったので、入会間もない私も場に加わっていました。機関誌を出すことには皆異議なし、さて、誌名を何にしようという段になり、同じく場に加わっていた並木さんから「1/24(にじゅうよんぶんのいち)は?」という意見が出ました。現在からすると意外に思えるでしょうが、並木さんはそれまで余り積極的に発言や行動をしないタイプだったのです。案外、この頃からアニメ心に火が点いてきたのかもしれません。
 それはともかく、フィルムのコマ数は1秒間に24コマ。その1コマ1コマに生命を吹き込むのがアニメーションの神髄です。「1/24」。その意味は説明不要で直感的に皆に伝わり、その場で誌名に決定しました。見事なネーミングだと思います。実際には表紙での座りを考えて『FILM1/24』が正式名称となりました。

 第1号は、毎年秋に各地のサークルが集合する全国総会を前にした1971年9月の発行になっています。
 この頃からガリ版はガリ版でも、ロウ引きの原紙に鉄筆というスタイルから少し進化して、鉄筆でなくボールペンで書くことができるボールペン原紙が使えるようになっていました。ヤスリ板という金属の台と鉄筆でガリ版用の版下を作るのは必然的に極少人数の作業になりますが、ボールペン原紙なら希望者に原紙を渡して自宅で書いてきてもらうことも可能です。鉛筆で薄く下書きをすることもできますから、絵を入れるのもガリ版よりは簡単です。
 それでも、頁に空白部分ができたり、依頼原稿で清書が必要だったり、表紙や全体の構成を考えたりと、編集作業はやはり必要でした。当初この作業の中心になっていたのは、アニ同の古参メンバー、藤田昇さんでした。江古田の藤田さんの部屋に私も含め数人で詰めてガリ版の版下を仕上げていくのは地味で根気のいることでしたが、色々な話をしながらの作業はいかにも同好会活動といった感がして楽しいものでした。藤田さんは飄々として捉えどころがない不思議な個性の持ち主で「宇宙人」などと呼ばれたりもしていましたが、アニメーションには熱心で、この(旧)『1/24』にもよく文章を書いていました。
 でき上がった版下はツテを通じて某労組で印刷してもらったりし、刷り上がりをまた数人でホチキスで綴じて仕上げました。ガリ版では両面印刷は面倒なので、片面に刷ってふたつ折りにする袋綴じが主でした。全て人力作業ですが、基本的にコボタンで配る冊数+αしか作らないので大変というほどではありませんでした。
 この(旧)『1/24』は1974年2月発行の12号まで続きました。編集方針というような大層なものはなく、集まった原稿をまとめて出すのが主で、頁数もまちまちの自由なものでした。私も上映会のリストをまとめたり、折々の作品や催しの感想を精力的に書いています。
 2年半程の間に印刷もガリ版から簡易印刷(簡易オフセット以前のもの)へと移り、コピーをそのまま版下に使えるようにもなりましたが、誌面での再現性は劣悪で、読めたものではなかったりしました。現在の同人誌文化の隆盛は印刷技術の進化の賜物であることがよく分かります。

 途中から藤田さんが多忙になってきて作業の場所がなくなると、当時私と手塚ファンクラブの活動で接点のあった森晴路さんの下宿先に転がり込んで場所を使わせてもらったりしました。森さんは友人と高井戸の一軒家を借りて住んでいたのですが、友人が引っ越し、ちょうど部屋が空いていたのです。この頃には並木さんと私が編集作業の中心になっていました。他に手伝ってくれる人も交え数人で寝食を共にしての作業は合宿のようで楽しかったのですが、森さんには本当に申し訳ないことをしたものです。
 ですが、この時に、複数の部屋を皆で使える便利さを覚えたのが、後々の並木さんたち4人の共同生活の場としての通称「あんばらや」を経て、アニドウの事務所兼『1/24』編集室である「ベルバラヤ」「デンバラヤ」へと繋がっていくのかと思われるのです。

その33へ続く

(08.06.13)