アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その48 1972年のTVアニメ

 前回の原稿で一旦は1972年のTVアニメについても触れようとしたのですが、結局止めてしまいました。それは、この年にエポックメイキングな作品や、書き留めておきたい作品が多出しているのに気づいたからです。
 1972年は、以前にも触れた『海のトリトン』『デビルマン』『赤胴鈴之助』等に加え、10月からタツノコプロの『科学忍者隊ガッチャマン』、12月には東映動画の『マジンガーZ』が放送開始されているのです。
 『トリトン』については以前にも書きましたが、後の富野喜幸(現・由悠季)監督作品の萌芽を感じさせるものであり、女性視聴者を中心とした声優人気の沸騰は後のアニメブームを予感させるものとして重要な作品です。またプロデューサー西崎義展さんは、後に『宇宙戦艦ヤマト』でアニメブームの立役者となる人物です。

 『デビルマン』は、永井豪さんの初のTVアニメ化作品。しかもこの作品の放送枠は土曜の夜8時半というゴールデンタイム。現在では考えられないこの放送時間は、キー局NET(現・テレビ朝日)が裏番組であるTBSの高視聴率番組、ドリフターズの「8時だヨ!全員集合」に対抗して土曜の夜8時からを当時流行の変身ヒーロー枠とし、8時から実写特撮「人造人間キカイダー」、8時半から『デビルマン』を放送し、直前の7時半放送の「仮面ライダー」からの視聴者までを取り込もうとした苦心の放送枠だったのでした。ドリフが小中学生を中心に受けていたのに対し、この変身ヒーロー枠は制作スタッフの暴走気味の意欲によってやや上の年齢層にも好評で、私自身も大いに楽しみました。
 『デビルマン』はなんと言っても小松原一男さんが作画を担当したオープニング、エンディングが秀逸で、見事に決まった構図、『タイガーマスク』を経たダイナミックでカッコいいアクション、つけPANやオーバーラップ等の撮影技術の高さ、ヒーローソングとして必要にして充分な主題歌・副主題歌の歌詞と歌唱と全てを備えています。
 デビルマンは、行動動機がヒロイン・ミキへの一目惚れであり、ミキを守ることが絶対の行動原理となっている点で異色のヒーロー像となっています。キー局では編成の関係で放送されなかった最終39話での、ミキの不動明=デビルマンへの愛が全てを超越してしまうセリフもまた感動的です。このようにキー局と地方局との放送形態が違うのも『デビルマン』の特徴で、放送時間も地方局では30分、キー局では26分となっており、キー局では初回放送では予告編もわずか15秒程なのに対し、地方局では2分弱と、通常とはだいぶ違っています。おかげでキー局視聴者は再放送まで正規のエンディングも最終話も見られなかったという不満がありました。
 また、この放送期間中の8月から12月は、以前の回でも書いた東映動画のロックアウト期間に重なっており、制作は基本的に下請けにバラ出し。そのため、作画的にかなりの乱れが見受けられるのですが、それがまた『デビルマン』という作品の破天荒さや嵐吹き荒ぶ時代性までも強調しているのは、怪我の功名というべきでしょうか。現在ではとても許されないような描写も続出しており、これもまた時代を映すものとなっています。

 一方、東京ムービー(制作協力Aプロダクション)の『赤胴鈴之助』は、今見ると、東映動画出身の楠部大吉郎さん(作画監修)のどっしりしたキャラクターと、監修補佐として主に女性や子供を担当した、やはり東映動画出身の小田部羊一さんの愛らしく上品な絵が共に『赤胴』の世界を作り上げていて感慨深いものです。
 中でも見どころは、宮崎駿さんが正規の演出家ではないイレギュラーなコンテ担当として特別参加した第26話「やったぞ!赤胴真空斬り」、第27話「大暴れ!真空斬り」の漫画映画的楽しさが必見です。26話では青銅鬼という球体関節の鎧(元祖モビルスーツ?)をまとった敵と対決する話で、空を飛び、体の各所から武器を出す青銅鬼は漫画映画的魅力に溢れ、27話ではなんと江戸での鈴之助のガールフレンドそっくりなお姫さまを登場させ、鈴之助に捕われの姫君救出劇を演じさせるという、宮崎漫画映画の系譜からいっても見逃せない一編となっています。ここで出てくるリベットだらけのコウモリ型飛行機械も宮崎メカの魅力にあふれ、実に楽しい作品です。東京ムービーでは10月から、これも秀逸な作画が印象的な『ど根性ガエル』も始まっていますが、こちらはまた別の機会に触れるとしましょう。

 タツノコプロの『科学忍者隊ガッチャマン』は10月の放送開始。リアルな頭身のキャラクター設計と、卓抜なデッサン力に支えられたシャープなアクション、精緻なメカニック描写と硬質な美術による世界は、タツノコのシリアスSFアクションアニメの原点にして最高峰とも称されています。殊に爆発カットで画面一杯に展開する大胆な特殊効果はタツノコならではのもので、担当者のセンスと高度な技量によるそれは、特効の分野を大きく進化させた特筆すべきものです。初期の回に見る、実写特撮の手法を取り入れた合成画面の実験精神にも驚かされます。宮本貞雄、二宮常雄、須田正己、湖川友謙、中村光毅、朝沼清良等々の優れた人材の名を意識したのもこの作品によってです。『ガッチャマン』は好評を得て丸2年続きましたが、佐々木功が声を演じたコンドルのジョーを中心に据えてのラストのハードな展開は深く心に残りました。
 もうひとつ『ガッチャマン』にまつわる思い出といえば、宣材としてよく使われた植物怪獣ダイネッコの絵です。緑色の巨体がガッチャマンたちに襲いかかるパースの利いた絵は大迫力で、放送当時アニドウで私が担当して作っていた情報紙「FILM1/18」でもその絵を使ったほどだったのですが、このダイネッコ、エンディングには止め絵で出てくるものの本編には遂に登場せず、残念に思ったものです。

 1972年の掉尾を飾って12月から開始されたのが『マジンガーZ』です。2008年秋に東京で開催されたアニメーションサークルの全国総会のテーマは「歌う総会」でしたが、中に主題歌で綴るTVアニメの歴史というプログラムがあり、そこで『マジンガーZ』が登場した時の会場全体から沸き上がったざわめきは忘れられません。こんなに昔の作品だったのかという驚きと共に、遂に我らの時代のアニメが来たという喜びも大きかったような気がします。今見ると絵もデザインも古いのに、どこか時代を超越した活力を感じるのです。私は原作者の永井豪さんを永遠の少年心を持つ方と敬愛しているのですが、『マジンガー』にも、初の人間搭乗型巨大ロボットとしての位置づけだけでなく、そんな永遠性を感じます。ちょっと不良っぽい主人公・兜甲児の、見上げて憧れるだけでなく自分自身をを投影して一体となれる魅力、特に芹川有吾演出回に顕著なおてんばヒロインさやかとの丁々発止のやり取り、数々の必殺技を繰り出すマジンガーの驚異の強さと、パワーアップする敵に対し空飛ぶ翼ジェットスクランダー開発で対抗する盛り上がり。そして悲劇のパートナーロボット・ミネルバXのエピソード等に見る作品内自由度の高さ。力強いテーマ曲をはじめとする主題歌集は後に動画マンとして徹夜する際に欠かせないものともなりました。『マジンガー』はほぼ丸2年続き、後継の『グレートマジンガー』にその座を譲りますが、その前後、数々の劇場版が作られました。それらについてはまた後の話としましょう。

その49へ続く

(09.01.23)