アニメーション思い出がたり[五味洋子]

その71 『1/18』から『1/24』へ

 つい先日、驚いてしまう事がありました。11月22日(日)中野ブロードウェイ内で開催された「資料性博覧会01」(まんだらけマニア館主催)という、漫画・アニメ・特撮・TOY等の資料系同人誌展示即売会のパンフレットの中に、まんだらけ中野店マニア館の國澤博司さんによる「ファンジンからムック、そして資料系同人誌へ」という文章があり、その参考資料のひとつに私(=富沢洋子)がかつて作った手書き時代の『FILM1/24』復刊1〜4号の写真が掲載されていたのです。これらはごく小部数しか作っていませんので手にした人も少ないはずで、どこから出てきたものか、思わぬ出会いにとても驚きました。まんだらけに問い合わせてみたところ、過去に同店に入荷したものの写真とのことで、写真で見る限り状態も良く、今まで長い間持っていてくれた人がどこかにいたのだなあと感慨を深くしました。
 この「資料性博覧会01」のパンフレットについては全16ページ中の後半6ページが斯界の草分けの1人である中島紳介さんへのインタビュー「PUFF〜怪獣倶楽部の頃」になっており、独立した読み物としても時代の証言としてとても貴重なものです。できうればこうした草創期の証言はもっと多くの人によって残しておいてもらえたらと心から思います。

 さて、話を1970年代に戻しましょう。私がほぼ独力で作っていたアニドウの情報紙『FILM1/18』第27号(1975年9月14日発行)はワラ半紙1枚だったバックナンバーと違って、全国大会特別増大ページ号と銘打って簡易オフセット14ページ仕立ての小冊子になっています。といっても全国大会(この頃は全国総会という言い方は定着していなかったようで、総会と大会の表記が混在しています)についての号ではなく、会場で各地のサークル参加者にも配布するための特別号という意味です。
 巻頭はアニドウ8月上映会「漫画王フライシャーの復活」のアフターレポートです。フライシャーといえば2009年現在、ジブリ美術館ライブラリー作品としてフライシャー兄弟の最後にして最高の長編アニメ『バッタ君町に行く』がニュープリント公開されること、またフライシャー兄弟の1人マックスの息子であり、「海底二万哩」等の歴史的映画監督であるリチャード・フライシャーの著書「マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者」の邦訳版出版(作品社刊)等によって再評価の機運が見られ、なにやら時を超えたシンクロニシティを感じたりもします。『バッタ君』に限らず、フライシャー兄弟の都会的センスや音楽性、シュールでナンセンスな独特の世界や、そのチャレンジ精神、アニメーターのパワーを感じる作画等々の魅力に当時からずっと私たちはとりこになっていたのでした。私も気合いを入れてたっぷり2ページ半、熱筆を奮っています。
 第27号後半は9ページを使って、7月の月例上映会等で集めたアニドウの活動に対するアンケート結果を載せています。総数116枚の内、直接手渡し44枚、郵送72枚という数字に時代を感じたりします。もちろんネットも何もない時代です。内容は月例上映会やアニドウ自体について、PAFについて等。棒グラフや円グラフを使って集計結果をまとめていますが、思えばこの10数年後、私は小学校のPTAの広報部副部長として全く同様に校内広報誌にアンケート結果をまとめているのです。ただツールがワープロに変わっただけで。全く人の営みとは時を経ても変化しないものです。
 設問のひとつに「アニメの専門誌を企画していますが?」という項目があり、それに対する答は、買う(79人)、手伝いたい(10)、買わない(5)。「いくらなら買いますか?」には最多が300円で23人、500円が13人、最高は3000円が2人もいます。もちろんアニメ専門誌など影も形もない頃のことですが、大手出版社からの最初のアニメ商業誌「アニメージュ」が徳間書店から創刊されるのはこの3年後、値段が580円というのは案外いい線を行っていたのではないかと思われます。そしてこの設問は少し後の「ファントーシュ」創刊へ向けての布石でもあったのでした。
 第27号最後のページには大きく『1/24』復刊のお知らせを載せています。『1/18』の印刷の悪さや送料節約のためのまとめ郵送による情報伝達の遅さに対する反省から、発行を月1回にして増ページと印刷の向上を目指し、名称を『1/18』からアニドウの正機関誌『FILM1/24』へと改めての再スタートの宣言です。嵐の時代の幕開けは目前に迫っていたのでした。
 また中のニュースのコーナーには、本国アメリカのディズニーランドの東洋版オリエンタル・ランド(後の東京ディズニーランド)が構想中であること、またアメリカで開発されたシーザーと呼ばれるコンピューターでアニメを制作するシステムのことが載っています。このシーザーは30分ものアニメ1本を3週間で彩色まで完成させるシステムで、必要な人数はわずか2、3人。しかしまだ技術上の問題もあり、1台3億円と高価なので実用化は先だが、遠からず実際のアニメ制作も可能になるとのこと。「アニメーターはどうなるのかなあ」という私のつぶやきでコーナーは終わっていますが、21世紀の今まさにその段階を迎えているわけで、時代もまた確実に動いていたのでした。

その72へ続く

(09.12.11)