その75 続・1975年のアニメ
前回タイトルを上げた作品の半数以上が「メカもの」と呼ばれる巨大ロボットアニメです。1970年代中盤はロボットアニメの大ブームだったのです。
ロボットアニメは玩具メーカーの主導によることが多かったのですが、影の立役者はトレスマシンだったのではないかと思います。カーボンを使うトレスマシンの普及によってアニメーターの描いた線はそのままセルに転写できるようになっていましたが、機械の性能上、描線が途切れたりかすれたりすることが多かったのです。しかしそれは逆に画面に奔放な勢いと荒々しい活力を与えるという効果もあり、ロボットものには特に有効に見えました。
その頃、ロボットアニメに多く参加していた作画プロのひとつに中村プロダクションがあります。中村一夫さんが中心の会社です。ここは、ど太い線で殴り描いたかのような荒々しいタッチで有名でした。中村プロの線は実に特徴的で、予告の1枚を見ただけで次回は中村プロの作画担当だと分かるほどでした。トレスマシンが導入されて以後のアニメの線の極北と言ってもいいでしょう。
その中村プロの中村一夫さんがキャラクターデザインを担当し、同プロが作画の中心になったのが東映動画の『鋼鉄ジーグ』でした。これは玩具が先行してあったのですが、磁石の力で合体するという新機軸が盛り込まれてあり、後の『マグネロボ ガ・キーン』『超人戦隊バラタック』へと続くマグネロボシリーズの一番手です。
当時の中村プロには一種の武勇伝に属するような逸話も多く、『ジーグ』ではその社風が乗り移ったかのような凄まじい画面が展開して行きました。しかもその一種の泥臭さが、日本の先住民族が敵として登場する土俗的な内容と奇妙にマッチして印象深い話数もいくつもあります。
中村プロは今も健在で、様々な作品のスタッフタイトルにその名を見出すことができますが、時代も変わり、現在はむしろ繊細で美麗な描線が見られます。現在の同社に勤める若い人たちは自社の歴史を知っているのかどうか。とにかく歴史と記憶に残る作画プロのひとつです。
この時期のロボットアニメで頭角を現したメカ作画の筆頭といえば、昨年惜しくも急逝された金田伊功さんでしょう。金田さんはこの1975年にはスタジオNo.1で東映動画の『ゲッターロボ』と続編『ゲッターロボG』に携わっています。合体変形ロボットの元祖である『ゲッターロボ』で、シャープでニヒルな味わいさえ漂う画風の名アニメーター野田卓雄さんの下で研鑽を積んだ金田さんは、次第に自らの資質を開花させ、さらにハードになった『ゲッターロボG』の世界の中で確実にステップアップしていったのでした。『G』の最終39話と38話の2本をNo.1が連続して担当するなどということは金田さんの存在なくしては不可能だったはずです。ここでもトレスマシンが果たした役割は大きく、金田さんの独特な線は従来のハンドトレスでは絶対に拾うことも再現することもできなかったでしょう。
野田さんのNo.1には田代和男さんをはじめアニドウの会員たちが何人も働いていて、野田さんからアニドウにカンパをいただくこともあり、その頃、東大泉に住んでいた私も何回も遊びに行ったことがありますが、とても雰囲気のいい会社でした。
金田さんとメカ作画の双璧だったのが友永和秀さんです。白土武さんのタイガープロで『宇宙戦艦ヤマト』等を手がけ、業界に名を馳せていた友永さんはこの頃、さらなる飛躍を求めて小松原一男さんのいるオープロに移籍してきました。金田さんも友永さんも壮絶なアクションやエフェクトばかりでなくコミカルな動きも得意と共通していました。私生活でも仲のいい2人の力量は互角、喩えて言うなら金田さんが天翔ける龍、友永さんが地を統べる虎といったふうでしょうか。
友永さんと小松原さんのオープロ強力タッグの代表作のひとつが『UFOロボ グレンダイザー』です。『グレンダイザー』の母体となったのは東映まんがまつりで7月に公開された中編『宇宙円盤大戦争』です。現在は知る人ぞ知る的なマイナー作品になっていますが、主人公デュークフリードと敵方のヤーバン星王女テロンナの悲恋に反戦の志を込め、名演出家・芹川有吾さんが得意のメロドラマ全開で描き出した傑作です。『グレンダイザー』では主人公とロボットの設定を生かした上で、小松原さんがTV向きにデザインをリニューアルしました。宇宙の王子であるデュークフリードは映画版よりも甘いマスクに哀愁漂うムードに仕上げられ、特に女性視聴者の人気を博しました。デュークには、ひかるというヒロインがいましたが、映画版を踏襲してか、宇宙からの美少女が彼の周囲を彩っていました。勝間田具治さんの雄々しくも情感豊かな演出も冴え、「大空に輝く愛の花」のナイーダ、「はるかなる故里の星」の敵方の王女ルビーナとの悲恋のロマン、『雪に消えた少女キリカ』のコマンダーキリカ等々、今も忘れることはできません。
彼女たちゲストの美少女キャラをデザインしたのが荒木伸吾さんです。東映動画ではゲストキャラはその回を担当する作画監督がデザインすることが多かったのですが、荒木さんのデザインした美少女は飛び抜けて魅力的でした。荒木さんは今も現役第一線で活躍しておられ、荒木プロの姫野美智さんのアシストを得て生み出された幾多の美少女たちは今も根強い人気を持ち、フィギュア等になって生き続けています。
そんな美少女揃いの『グレンダイザー』の中でも特別な存在なのが、デュークの生き別れの妹として鮮烈な登場をしたグレース・マリア・フリード、通称マリアちゃんです。先行する荒木さんデザインの人気キャラ、『魔女っ子メグちゃん』の流れを汲むおてんばでコケティッシュな外見にメグちゃんと同じ吉田理保子さんの溌剌とした声。マリアちゃんの登場は新鮮な風となり、『グレンダイザー』では脇役に甘んじていた『マジンガーZ』の兜甲児との名コンビぶりも見せました。私の実弟、故・富沢雅彦はこのマリアちゃんの熱烈なファンで、主宰する同人誌『PUFF(パフ)』の封筒にはマリアちゃんのおきゃんな顔があしらわれていたほどです。
私自身も『FILM1/24』誌上で芸術的な作品を多く取り上げていたせいもあってかロボットものを評価していないようなイメージがあったらしいのですが、実はロボットものは大好きなのです。
その76へつづく
(10.02.12)