第190回
出崎版『AIR』と旅
「何処から来て何処へ行くのか……それがわかっていたら
——それは本当の旅じゃない……」
と、いかにもザ・出崎作品! なモノローグで始まる劇場版『AIR』。出崎ファンならすでにご承知のとおり「旅」は全出崎作品一貫したテーマ。ま、旅の話はまた後にして、何しろ出だしのコレで主人公・国崎往人が旅人であり、そしてこの物語が往人の長い旅の中のほんの一部分でしかない事も同時に語りつつ町に降り立つと場面が飛んで振り返る神尾観鈴のアップ。オープニングテーマが流れてメインタイトル。弾んでINするボールすらも、これから起こる物語の予兆に感じられるくらい、このイントロ部分を観ただけであまりの詩的さ・素敵さについつい原稿書く手を止めて見入ってしまいました(注・この原稿も前回同様『AIR』のDVDを視聴しつつ書いています)。
で、往人と観鈴の出逢いと伝説パート(時代劇部分)の神奈姫と柳也のやりとりもインサートしつつ、ふたつのロマンスが同時に進行してゆく構成もまたお見事。ふたつの違う時代の物語を、海や風や雨などの自然描写だけでなく祭り・神社・能舞台といった時代を越えたアイテムで巧みに繋げて1本の映画にする技にはただただ感嘆するしかないでしょう! 何しろ観鈴の感情の流れがやけに可愛く描かれてて、ふと顔が赤くなってる自分に気づきます。そりゃ画面いっぱいの笑顔で「もっと彼氏らしくしてもイイのだよ!」とか言われると
耳まで真っ赤になるし! これ高校生の頃観てたらもっとドキドキしたに違いない。
恋愛の勝者は女以外にありえない!
っていう世間一般では当たり前の定説がヌケヌケと潔く描かれているのも出崎作品の魅力。旧『エースをねらえ!』の頃からこれも一貫してます。あと、ラストの泣かせシーン。「何を今さら」なくらいベタなんですが、そのベタすら超ベテラン監督の演出力をもってすればちゃんと泣けます。
改めて、この劇場版『AIR』は素晴らしく映画です。他の出崎作品のように、ボクシングだテニスだ手術だといった派手な部分(?)がない分だけ、純愛を描いた「純映画」だと思うんです。前回でも触れたように
人物の感情の流れを時間にのせて描くのが映画
なんですから、本来はアクションが少なければ少ないほど映画らしくなるとも言えるわけです。アクションシーンがいかにドラマの進行を妨げるかはコンテを切ってフィルムを繋いでみると分かりますが、これをあまり言い過ぎると板垣の存在価値が半分以下になってしまうのでこのくらいにしておきまして、次はさっき言いかけた
旅の話!
でもそれはまた来週って事にして、とりあえず
『Panty&Stocking with Garterbelt』第9話、観てください!
脚本・コンテ・演出やりました。
(10.10.28)