第198回
『パンスト』と
今石作品への道(7)

 今石さんは男前です。「お話作りからやりたい」と俺が言うと、それに応えてくれるんですから。実際ホントにシナリオからやらせてくれるとは思ってなかっただけに嬉しくもあり、当然緊張も走りました。なぜこう自分を追い込んだのか? これは今石さんご本人にも言いましたが、

今石作品だからこそできるだけ毎回違ったかたちで関わりたい!

んです。だって、こちら側から「シナリオもやらせてください」と言う事によって、今石さんの方からは「じゃ、シナリオからやらせるかわりにガンガンにチェック入れるからね」と今石チェックが自動的に厳しくなるでしょ? そこが目的なんです。いちばん嫌なのは

友達の直しはつらいからね〜

でコンテを通される事ですから。まあ、今石さんはそのへんクールなので、友人・後輩関係なく

面白くないものは絶対に通さない!

って監督だという事はコンテの段階で充分わかってました。でも、シナリオのネタ出しからとなればもっと厳しい目でチェックされるはずだし、あわよくば面白い話を組み立てるコツなども盗めるかも? とか考えたんです。以下はシナリオ打ち——というか“ネタ打ち”。

今石(以下敬称略)「(シリーズ全体の配分として)ネタとしては“空中戦”をやってほしいかな……と」
板垣「俺は“鼻クソ”がやりたいな〜。だって1話は“ウンコ”だし」
今石「鼻クソか……鼻クソはやってないか〜」
板垣「じゃ、“鼻クソで始まって空中戦”へもっていければベストですかね?」
今石「う〜ん、そうね」

板垣「“空中戦”っつってお題で“ドッグファイト”じゃあまりに安易でしょ〜」
今石「そうね。俺もそれは考えたくないかなあ。……で、作業的にはどうしようかね?」
板垣「とりあえず『迷い猫』ん時みたいにイラストつきのプロットにまとめますよ」

 ってネタ打ちは終わり。『グレンラガン』の時もそうですが、今石さんとの打ち合わせはご自身からはあまり語られません。俺の方から一方的に駄話を振って8割方雑談で幕を閉じるのが常で、そうしながらも今石さんの目は

話長えなあ。とりあえずなんでもいいから面白いの持ってきたら?

と言ってるのでした。
 で、『戦国BASARA弐』#6のコンテ切りつつ書いた『パンスト』のプロットは、

案の定“全ボツ”で、今石さんよりザックリと、やってほしい事、ほしくない事……的なメモをいただきました。自分、甘くみてたんです、『パンスト』。そりゃそうです、主要キャラが少なく舞台設定が単純って事は皆考えるネタは同じ事が多く、俺が提出したネタは他の話数との被りが多発してたわけです。これは今石監督を中心にした『パンスト』のホン読みチーム(ギークフリート)に参加できなかった自分が悪いんです。
 で、次のプロット第2稿を上げる際は『戦国BASARA弐』やりながら何度か今石さんに電話をして、


板垣「天使の鼻クソってどうですか? 例えば天使の鼻クソをゴーストの鼻の中に突っ込むとクシャミが出るとか!」
今石「はあ〜、鼻の中のモノを鼻に戻すってのはいいね〜」
板垣「で、月にぶつかろうとする鼻クソゴーストをクシャミで弾き返すんですよ!」
今石「はぁはぁ」
板垣「下半身丸出しのパンティを下から見上げた乗客たちが鼻血ブー! で加速する」
今石「(笑)鼻血ロケットはいいんじゃない〜」
板垣「で、それを止められるのがパンティの鼻クソ、にしたいんですけど、ブリーフがパンティの鼻クソを拾い集めてたってのはダメ?」
今石「(笑)ブリーフならパンティのモノなんでも集めそうだからいいんじゃない〜」

とOKをもらいました。ここからが問題。つまりプロット第2稿とそれに対する今石メモをもとに、

板垣「ま、直にコンテにしちゃいますよ!」
今石「あ、そう。やる?」

て調子に乗っちゃったんです。そう、実は

『パンスト』#5Aには正式なシナリオがないんです!

凄いのは俺じゃなくて今石さんです。その作品の監督でもメインスタッフでもない人に、“直コンテ”を許してくれるんですから。板垣を信用してくれてるのか、はたまたどんな酷いコンテでも直しきる自信があったのか……(たぶん後者ですね)。
 とりあえずぶっつけいきあたりバッタリにコンテを切って、また第1稿をボツにして第2稿を今石さんに提出した段階で、確か

2分オーバー!

でした。もうこっちとしては「やるだけの事はやりました! あとは煮るなり焼くなりお好きにお任せします、今石監督っ!」って心境で本当に申し訳なかったです。普通の尺(A・Bパート合わせた本編尺)でこそ2分オーバーは削る事ができますが、今回は半パート(Aパートのみ10分前後)でひとつの話を片付けなきゃならない上での2分オーバーですから、今石さんからすると「板垣のヤローッ!」でしょう。……ごめんなさい。お互いの間で共有するシナリオがない以上、「こりゃ、ほとんど直されるかな〜?」と思いつつ演打ち(コンテ決定稿を元に演出処理の打ち合わせ)に臨みました。ところが、監督チェック後のコンテ——つまり決定稿に目を通してみると、意外とかなり自分の描いたのを使ってくれてました。やっぱ、コンテチェックも巧いんです、今石さんは! その辺の普通の監督みたいに「シナリオと違う!」とか「俺、こういう画嫌い!」みたいな事で修正したりはしないんです。今石さんの場合、シナリオと違ってようが自身と違うタッチの演出だろうが面白ければ通すし、逆にある程度面白くなる要素があるネタをコンテマンが描いてた場合は「こうしたらもっと面白くなる!」ともう一押ししてくれるんです。『グレンラガン』の時もそうでした。だから今石さんからコンテにチェックを入れられて怒るどころかむしろやる気になるコンテマンの方が多いんだと思うんです。ちなみに今石さんが『パンスト』#5Aに手を入れた部分は大きくふたつ。

●鼻クソで空を飛んで飛行船に向かうオスカーと一同の件
●ガーターベルトの「鼻クソに蹴つまずいて死んだゴーストだ!」と解説する件

でした。これで2分が縮まり40カット前後削る事ができた上、後半の展開はそのまま使えてます。鼻クソとガスで空を飛ぶのには脱帽しました。板垣の描いたバージョンはストッキングが先に飛行船上のパーティに乗っかって、後から時間差でパンティが飛行船に向かうかたちだったんです。それは今石さんより「鼻クソゴーストが街にどんな影響を及ぼすのかを描いてほしい」と要望があったから、「パンティが朝目覚める街が大変な事になってた!」を描いた結果だったんですが、事と次第によっては自らの前言撤回も辞さないという姿勢もまたよしなんです(ダメな監督ほど「あの時ああ言った」「こう言った、言わない!」で揉めるんですよね……)。問うべき点は目の前にあるコンテが「面白いか面白くないか!?」の1点だけなんですから。
 もうひとつの、ガーターベルトが「鼻クソに蹴つまずいて〜」と解説する件も板垣バージョンではゴーストが回想するシーンとして入ってたんです。こちらの方は『パンスト』の世界観に対して自分の認識不足でした。「ゴーストになる行程は別にどーでもいい」とは思えないほど、「ゴーストってなんなの?」とききこみすぎたんですね、俺が。
 ま、このたった2点の変更点であれだけの効果が出せたんですから、「さすが今石さん! カッコイイ!」でした。でも演打ちの時、珍しく今石さんから本音がボソッと飛び出しました。

同じ事をカッティング時やアフレコ時も言ってたので本当に焦ってたんでしょうね、演打ちの日までにコンテチェックが間に合うかどーか。それに対して板垣は笑顔で答えました。


 と、時間なので今年はここまで。本当は『パンスト』編は年内で終わりたかったんですがムリでした。年明け1回目(第199回の[8])で完結します。ではよいお年を!!

(10.12.24)