第199回
『パンスト』と
今石作品への道(8)
(完結編)

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!

 ま、そーゆーわけでもう忘れたかもしれませんが『パンスト』#5Aの話……続きです。

 とりあえず前回は「シナリオがなくってもコンテはできる!」という事でした(冗談です)。
 で、続いて作画・演出の話です。これは個人的にはヤケに楽しかったんですが制作の方々、作画の方々には大変ご迷惑おかけしました。すいません。何しろ『戦国BASARA弐』と別作品のコンテなどでなかなかガイナックス入れなかったんです。それとキャラの線が少なく美術的にもシンプルで歪み全然OKなカートゥーン。テレコムで海外合作ばっかやってた自分にとってレイアウトでの嘘のつき方、シルエットをはっきり抜くポーズづけなど……いくらでも手を入れやすい(修正が簡単な)素材だったため、一旦チェックし始めるとほぼ全修どころかラフ描き直しまでいっちゃうんです。つまりカットのチェックがなかなか終わらないわけ。今石さんにも、

とか言ってたくらい。結果、『パンスト』#5Aは『迷い猫オーバーラン!』#1同様やや修正が多めな演出作品となりました。たとえばハナクソゴーストの鼻血はほぼ全カット自分の修正が入ってたり、あと芝居・アクションやセル分けの整理を細かくやって(ムダにA〜Gセルの7段に分けてあったりするのをシンプルにA、Bセルの2段にしたり……)動画枚数を少なくする努力をいつも以上にやりました。よって他のアクション話数より全然枚数はかかってないフィルムになってるんじゃないかと……(予想)。個人的に、

作るたび失敗と反省をくりかえす事でしかフィルム作りを学ぶ方法はない!

ってのが持論なので、自分の場合フィルムを作れば作るほど動画枚数が減ってってます。これが『獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇』や『この醜くも美しい世界』の頃は「7000枚使ったぜ!」をアニメーター演出ならではの武勇伝として自慢してました。2003〜04年の話、恥ずかしいです。でもあれから7〜8年……色々と失敗と反省をくりかえしつつ作画とつきあってきて早2011年。すでにフルCG(3D)のアニメシリーズが何本も放映されている昨今だからこそ、もうそろそろ手描き(作画)アニメーターや演出家は「何千〜何万枚使った」を語るのではなく、

これだけ動いてるのに3500枚しか使ってないんだ!

をこそ自慢するべきではないかと……。実際CGというバケモノに手描きで対抗しようと思うならば逆にもっと「止め」を重視するべきだと近年は切に思ってるわけです。だいたい枚数という手描きアニメならではの規制を自らに課した方が結果シャープなフィルムになってる事が多いし。
 ま、そんな感じの板垣チェックの中、横山(なつき)さんや石川(佳代子)さんらガイナックスの若手さんが頑張ってくださいました。冒頭のオスカーの鼻くそを「ブゥーーッ!」と吹き返えすストッキングが石川さんでオスカーとパンティの鼻SE○シーンは横山さん。自分が知ってるお2人はまだ動画の頃だったので、原画を見たのは初めて。いつの間にかいい原画マンに育ってるのでガイナックスの新人は侮れません。その他、さらに新人の三宮(昌太)君・中尾(祥子)さん・春藤(佳奈)さんらの原画も大変良かったです。特にラストの月の射○シーンの春藤さん(今回、お下劣シーンに限って女性アニメーターさんがすすんで取ってったのに驚きましたが)……楽し気に描いていただき幸せでした。あともちろんハナクソゴースト上のアクションを担当してくださった長谷川(哲也)さん、清水(空翔)さんも原画たくさん描いてくださってありがとうございました。俺のムチャぶりコンテに怯む事なくちゃんとアクションしてて大感謝です!
 そして作監の本村晃一様、演出チェック引っぱってしまい本当に申し訳ありませんでした。しかもカットによっては山のような演出修正用紙でそうとう作監しづらかったと思います。ちなみに本村さんは『BLACK CAT』『Devil May Cry』でもそれぞれ#1で原画描いてくださいました(実はもっと前の『GAD GUARD』の時——ゴンゾの頃からちょくちょくご一緒してますね)。今回もお世話になりました。
 忘れてはならないのは制作進行・瀬古(浩司)君(『ロザリオとバンパイア』#10(ガイナックス制作グロス話数)の制作進行でもありました)。今回自分の話数と一緒に放映された小林治さんコンテ・演出の#5B(10話)の脚本も瀬古君が書いてます。「ゲロ」というお題に対してサラリーマンの悲哀って話でまとめるセンスは瀬古君らしくて笑いました。それに治さんのコンテ・演出がまた最高! お茶の間でのおばあちゃんの芝居やゲロ吐きのシーン……あとあれだ! パンツを脱ぐパンティが可愛かったです。瀬古君のシナリオをベースにしつつ、シッカリと小林治作品に仕上げる手腕には脱帽しました。当然、治さんの#5Bは自分の#5Aとカッティングもアフレコもダビングもそれぞれ一緒の日だったので何回も観たんですが観るたび笑ってしまいました。本当に面白かったです。
 そう、あと思い出すのは台詞。これは前回(第198回)書きましたが、オスカーがハナクソゴーストになる経緯をガーターベルト(とブリーフ)が台詞で説明するシーンは今石さんの書いた部分。ところがそのご本人がラッシュ観て、

と苦笑ぎみの大笑いをしたので板垣も大笑い。一緒に大笑いして作品が作れるのも今石アニメ現場の魅力です。でもこの時思い出したのがまたしても『グレンラガン』6話(もちろん解放版!)のラスト近辺で女将がその後のストーリー展開上かなり重要な「螺旋王が〜云々」の話をしてるのに、後ろでエロく悶えるヨーコたちが気になってまったく頭に入ってこないカミナ……のシーンでした。もちろんこれはコンテ時、俺のアドリブだったんですが、よ〜く考えるとこれが自分のフィルムの欠点なのかもと思ったんです。つまり

「説明」=「間怠っこしい」と考える結果、
「説明不足」=「視聴者に対して不親切」

なフィルムになる事がしばしば……。自分としてはカッティング(編集)の際、説明的になり過ぎないギリギリを狙うんですが、たまに外れるんですね。今作ってる次のシリーズでは気をつけよう……。
 もう一つ台詞の話。ラストのパンティの台詞ですが、これは俺がコンテ時に考えた

パンティ「やっぱ、穴はどこでも気持ちいいわね♡」

が決定稿になってアフレコ台本までいってました。でも実は演打ち時から今石さんも自分も


今石「まあ、あとは最後の台詞だよな〜」
板垣「これね〜、なかなかイイのが思い浮かばなかったんですよね。でもこの話、テーマはこれでしょ?」
今石「テーマはそーだね……」
板垣「まあ〜たぶん後でも替えがきくとこだと思うので考えておきますよ」
今石「そうね〜」

とかのやりとりがあり「後で変更すること前提」で制作に入りました。で、実際アフレコ当日、地図を貰ったくせに駅に降りた瞬間迷子になって(板垣は迷子の常習犯です!)道を迷いつつも台詞の事ばっかり考えてるもので一向に音響スタジオに近づかず、結局制作さんに迎えにきてもらうかたちでやっとスタジオに辿り着いたトコでギリギリ出ました、ラストの台詞!

と苦労の末のパンティだったわけです。

 ま、そんなわけで全8回に渡って書いてきた「『パンスト』と今石作品への道」、いや〜、やっぱり今石洋之さんは偉大な方ですね。これからも適度に距離感を保ちつつ今石作品で遊ばせて——いえいえ、勉強させていただきたいと思います。適度に距離感っていうのは今石さんと仕事をする時の自分のテーマです。だって、歳もふたつ、みっつしか違わない天才クリエーターにいつもついてまわるより、その天才の目の届くトコで自分の監督作品を作って、たまに会った時「観たよ板垣君のヤツ〜、また俺のもやってよ」とか言われた方が嬉しいじゃないですか。だから、たぶんガイナックスに常駐したくない一番の理由はそこに今石さんがいるからなんです。すみません。板垣はこーゆーヤツで(とっくに知ってるか……)

常に今石さんにとって目障りなヤツでいたい

と思ってるんです。
 あと、お詫び。この連載における今石さんの似顔絵に対して、「何でいつも鼻ホジってるの? ヒドイ!」といろんな方(ご本人も含む)に言われます。誤解されてるようなので念のため……今石さんが板垣の目の前で鼻ホジった事は一度もありません! ただのイメージです(それがむしろ失礼なんだろうが)。これ、俺の学生時代の友人の一言に端を発します。その友人がある日言ったんです、「オレ、絵コンテに関しては天才だから、鼻ホジってもコンテが切れるんだ〜」と。ありますよね、こーゆー自信過剰発言をする学生時代。ちなみにこの友人はその後一度はアニメ業界に就職したものの現在ではリタイアして家業を手伝っております。……でもその友人の言葉はいつまでも残っており、

と擦り込まれているわけ、俺の頭には——だからでした。でもまあ、このコラムもそろそろ4年になるし『パンスト』#5Aで鼻ホジる絵を描くのも飽きたので今年からはやめようと思い立ちました!


(11.01.06)