板垣伸のいきあたりバッタリ!

第210回
実写「あしたのジョー」(3)

このたびの震災で被害に遭われた皆様に心からお見舞い申し上げつつ、被災地の一日も早い復興を祈って筆を執ります(3月19日)


 前回のつづきで、実写「あしたのジョー」……といっても今回の2011年版ではなく、1970年版(昭和45年)実写「ジョー」の話を。スタッフ・キャストは以下のとおり、敬称略です。

スタッフ

監督/長谷部安春
脚本/馬場当
音楽/渡辺岳夫

キャスト

矢吹丈/石橋正次
力石徹/亀石征一郎
白木葉子/高樹蓉子
丹下段平/辰巳柳太郎

 これ、データ見ると昭和45年7月22日公開……って事はTV第1シリーズ版『ジョー』の放映開始3ヶ月後に上映されたんですね。もちろん自分が生まれる前。でも自分は観た事があるんです。レンタルビデオで! 残念な事にこの1970年版の実写は原作者の先生の評価があまり高くないらしく1988年のビデオ発売の後、LD、DVDにもなっておりません。なのでここからの解説・感想は20年前にレンタルビデオでたった一度だけ借りて2〜3回観ただけ(もちろんダビングなどしておりません!)、かなり「うろ覚え」によるものなので「おい、そこ違うぞ!」などのツッコミ等はご勘弁ください。
 と、前置きしたトコで、オープニング。もちろんアニメの「サンドバックにぃ〜」を使ってはいませんが、この映画の主題歌も悪くなかったと記憶してます。たしか、「俺は流れ者ぉ〜」的な歌詞でいかにも「あしたのジョー」だと思ったもんです。歌も主演の石橋正次さんが歌ってたような。そして、その石橋正次さんの矢吹丈、意外とよかったと思います。てゆーか、2011年版の山下(智久)さんのジョーよりも原作前半のヤンチャな暴れん坊な感じは出てたはず。原作のジョーってあくまで明るい奴なんですよね。山下版ジョーはどちらかというと原作後半のカーロス戦以降の徐々に口数が減っていったあたりのイメージに近いんです。ちなみに石橋さんと言えば特撮の

「アイアンキング」(1972年)の静弦太郎!

役で(つまりムチを振りまわす、変身しない方)、ジョーも静弦太郎とキャラ被ってました。亀石征一郎さんの力石徹は骨太な方の前半の力石はピッタリなんですが、2011年版の伊勢谷(友介)さんの力石みたいな本格的減量はできておらず、減量後の体はあまり撮ってなかったと憶えてます。新国劇の辰巳柳太郎御大扮する丹下段平はいかにも酒臭そうでよかったです。白木葉子は……すみません、あまり憶えていません。ま、そんなこんなで役者さん達はそれほど文句はなく、画面的になんとなく漂う「B級C級」感は否めないものの昭和40年リアルタイムを撮ってるぶん、「昭和も再現した」2011年版より得してるところもありました。あと信じられない事に2011年版と同じ力石の死までをたった84分で描ききってるんです。そのためダイジェスト感は強いもののコンパクトで観やすかったし、ラストのインパクトも強烈でした。これは俺がよく新人のコンテマンやライター(脚本家)さんに言うんです、

演出家・脚本家共通の最後にして
最大の武器はエンドマークだ!

と。つまりどんなフィルムにも終わりがくるでしょう? お客さん(視聴者)をストーリーの上り坂へ連れてって上って上って上って気持ちよいところでバンと終わらせる事で後は「感じて」もらうわけです。特に昔の映画はエンディングがないものがほとんど。本編の後「終」だの「完」だの出たらそのまま幕が下りるんです。だから古典と呼ばれる名作映画はラストの余韻の使い方が上手い作品ばかりです。例えば黒澤明監督の「天国と地獄」などエンドマークの勝利ですよね、どーみても。で1970年版実写「ジョー」のラストは、力石が死に、彷徨うジョーがヤクザに絡まれてボロボロにされて倒れる。その倒れたジョーの手のアップがググッと地面を握る——でエンドマーク! でした。いや、たぶんそうだったと思います。やや自信はない記憶ですが、だいたいそんな感じで最初に観たとき「なるほど!」と膝を打ったもんでした。画面は多少安っぽかったものの「ジョーの不屈の闘志とその先の生き様を予感させるラスト」という演出意図は十分分かっただけに妙に納得したんです。ただ演出面でいうと、ジョーと西が少年院で暗闇リンチされるシーンが黒ベタ画面に「ドカ!」「バキ!」「ズカッ!」などの擬音を文字で出す演出(原作漫画まんま)には只々閉口しましたが(汗)。その他の漫画やアニメのように「豚に乗って大脱走」のシーンが実写で表現できなかったのは分かりますが、だからといって小豚を逃がして教官や収容生達が翻弄されてる間に裏から脱走するジョーはケチ臭くて見てられませんでした。そんな中途半端に原作の「豚」ワードを取り上げて部分変更するくらいなら、2011年版のようにはなから脱走シーン自体カットしてしまえばよかったのに……等いろいろ賛否はありますが、俺は結構好きです、1970年度版! ぜひDVDかBD化してください。どこかのメーカー様!!  てな感じで、3回に渡った実写「ジョー」話ですが結論は

大好きな原作がいろんなかたちで映像化されるの、自分は大歓迎!

だという事でした。そして原作版の「あしたのジョー」はちょっとやそっとの映像化でその「味」を消し去られるほどヤワな原作ではないって事も。あと、1970年版は後半(ホセ・メンドーサ戦)までやってません。ぜひ、今回の2011年版は後半まで映像化して作ってほしいものです。もちろん今ならカーロスやホセは外国人の俳優さんで!


追記 以前触れた「現在制作中の監督作(シリーズ)」の話ですが、震災の影響もあり、発表の時期がずれこんで5月とかになりそうです。それまで何書こう……? また来週考えます。何せ「いきあたりバッタリ」ですから。

(11.03.24)