第211回
やっぱいいですね、
『けいおん!』
最近『けいおん!』と『けいおん!!』を全話観直しました。改めて京都アニメーション様の仕事の素晴らしさを思い知りつつ、自分の新作のコンテを切っています。いや、べつに参考にするしないの話ではないし、真似しようと思ってできるわけありません。アニメーター(やその他のスタッフ)を丁寧に育成して作ってるアニメにそう易々と向こうを張れるはずもなく、むしろ京アニさんとは違った角度から作品づくりをするしかないんです、我々は。とか言ってもやっぱり、
あれがああしてこうなって、これがこうしてああなりました
ってカットを描けるアニメーターが揃ってるとこんなに豊かな演出ができるんだよなあ~と嬉しく思うのは事実。つまり「手をあげる」とか「あっちを向く」のみの2秒程度といった、「あれがああなる」の1カットならば多少腕の足らないアニメーターでも描けるし、たとえそれがうまく描けていなかったとしても演出・作監でフォローできます。ところが京アニさんともなると「あれがああしてこうなる」どころか「あれがああしてこうなって、これがこうしてああなりつつもそれはそこでそうなりそうになったけどやっぱりああなりました」まで10数秒の1カットがなんの躊躇もなくコンテになってフィルムにできてるんです。そのスタジオ力は本当に羨ましく思うし、アニメの本数が減ってきた現在、1990年代後半~2000年前半(2005~06年?)までの、アニメの本数がべらぼうに増える一方でそれを埋めるべく新人をガンガン上へ持ち上げた挙句の仇を我々業界全体で反省して京アニさんのように
ちゃんと一から丁寧にアニメーターを育てて、それを会社の財産にしましょうよ!
と言いたくもなったんです。実際1990年代以降の恩恵を自分も受けた側でした。アニメの本数が激烈に増えた時期でもなければ、自分程度が「演出始めて2~3年」でシリーズの監督をやらせてもらえるなんてあるはずないですから。でも俺が本当に幸せだったのは原画の教育だけはテレコムで(しかも友永和秀様に)みっちりシゴかれたってところで、監督になった今でも確実に役に立ってます(ありがとうございました、友永さん!)。本音を言うとテレコムにいた当時は、他の会社(スタジオ)では学生時代の同期の友人たちがみんな「入って半年で原画」になったり、中には「入ってすぐ演出助手で間もなく演出」(『遊☆戯☆王ファイブディーズ』の小野勝己君とか)になったりと派手に出世していく頃、自分は動画の端っこだったんですから、正直悔しかったし、焦りもしました。ところが今になってみると、出世は出遅れたものの「テレコム仕込みのアニメ技術」は先に出世していった同期たちに追いつくだけでなく、他社のアニメーターたちにも十分タメを張る事ができるしっかりとした土台だったんだと感じる毎日。つまり下積みはけして無駄じゃないんです。
ってわけで、今どーせどんどんアニメが減ってるんだから、逆に
丁寧に作品を作り込む事ができるチャンスが到来した!
と思って地道に新人を育成しつつ堅実な作品作りをしたいものです、と『けいおん!』観て思いました。
あと話はぶっ飛びますが、俺
アニメの美少女はアニメの仕事をして初めて好きになった
んですが、もしかしたら『けいおん!』はその中でも一番好きかも♡。ホント自分、小・中・高校とそりゃあ画描くのは好きだったんですが、女の子ってほとんど描いてこなかったんです。なぜって、これは姉貴の存在が大きかったと思うんですけど、単純に言うと「照れくさかった」んです。高校、もしかしたら専門学校の時ですら、なんていうか姉の前ではいつまでも「かわいい弟」でいたかったようで、たぶん
「伸も女の子に興味を持つようになったか……ウフフ」
みたいに、「(大人の)男になってきたな~」とか思われたくなかったんでしょうね……今思うと。笑ってくれて結構です、今では自分でもおかしいと思ってますから。
そんなわけでろくすっぽ女の子を描かずに上京して専門学校へ入学した時(1992年)、世は『美少女戦士セーラームーン』ブームが始まってて、アニメーターを目指す同級生たちは猫も杓子も美少女戦士を描いてました。俺、それにはどーしてものれなくて、杉野(昭夫さん)キャラや鉛筆デッサンばかり描いて学生生活を過ごしたわけ。そして入社したテレコムは当時海外との合作がメインだったため、自分が本格的美少女アニメを手がけたのはテレコムも辞めてから。たぶん『まほろまてぃっく』や『この醜くも美しい世界』、原画では『ちょびっツ』あたり? たしか「今年は美少女だ!」とか宣言して受けた仕事で、
やってたらドンドン楽しくなっていきました!
だいぶ以前、別の話題の時に書いたと思うんですが、やっぱりアニメーターって仕事は俳優(役者)と似てて、しかもこんなオッサンでも「美少女」になれるんです。そうして夢中で描いていくと、自然と
今、自分が描いてる女の子がとてもいとおしくなっていく不思議!
20年間あんなに照れくさくて描けなかった「女の子」というものが、仕事でやってみると面白くて面白くて。結局、アニメの美少女の魅力って、
演出・作画・声優と、クリエイターの叡智の塊
なんです。それが実写の女の子とは違う魅力を発するのは当然だと思うし、それを作り出す仕事が理屈抜きで好きみたいです、俺。
あと、なんか周りの人から聞いたんですが、別に板垣は「美少女アニメや萌えアニメ(……いまだにこう呼ぶの?)が嫌い!!」など言ったり書いたりした憶えはありません。板垣は美少女だろうが萌えだろうが美少年だろうがギャグだろうがとにかく
面白いものが大好き!!
なんです。確かに「ロボットものが苦手」とは言ったんですが、それはあくまで「苦手」であって面白ければそっちが勝ちます。もちろん『グレンラガン』は面白いでしょう! で、どっかのお偉い方とかは「アニメの女の子に入れ込むより現実の女の方が~云々」とか言いそうですが、俺はまったくそうは思わないんですよ。だって
アニメの美少女には現実の女の子とは違った魅力があると思ってるし、アニメの美少女が好きな人たちのほとんどは現実の女の子とは違ったものとして好きって言ってるんだと思う
んですが……。さらにその美少女を描くクリエイターの中にも「自分は仕事でこーゆーの描くけど、こんなアニメの美少女好きな奴ってどーなんだろうね~」な事平気で言うやつがたま~にいるのも残念でなりません。自分でその被写体に惚れもしないで画が描けるなんて絶対に考えられないし、「アニメの美少女を描くのがそんなに後ろめたいの?」と思ってしまいます。だって女の子たちの日常を丁寧に描く事で、今まで見た事もないくらい上質な青春ドラマが作れるなんてアニメだけでしょ?——と『けいおん!』を観てそう思いました。
追記 先週石橋正次版『あしたのジョー』がDVD化されてないと書きましたが、読者様からのメールで「最近DVD化されてた」事が判明しました。どうも失礼しました。情報をくださった藤枝様ありがとうございます、早速買います!
(11.03.31)