板垣伸のいきあたりバッタリ!

第217回
2000年代の出崎アニメ(1)

『劇場版 とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険』(2001・劇場)
『劇場版 とっとこハム太郎
 ハムハムハムージャ!幻のプリンセス』
(2002・劇場)
『劇場版 とっとこハム太郎
 ハムハムグランプリン オーロラ谷の奇跡』
(2003・劇場)
『劇場版 とっとこハム太郎
 ハム太郎とふしぎのオニの絵本塔』
(2004・劇場)
『AIR』(2005・劇場)
『雪の女王』(2005〜2006・TVシリーズ)
『CLANNAD』(2007・劇場)
『ULTRAVIOLET Code 044』(2008・TVシリーズ)
『源氏物語千年紀 Genji』(2009・TVシリーズ)

その他、KYOTO手塚治虫ワールドのみの公開作品として、
『ASTROBOY 鉄腕アトム特別編「アトム誕生の秘密」』(2003)
『ASTROBOY 鉄腕アトム特別編「イワンの惑星」』(2003)
『ASTROBOY 鉄腕アトム特別編
「輝ける地球 あなたは青く、美しい…」』
(2004)

 1990年代の作品歴よりどことなく綺麗に並んだ感じの2000年代。長編ばかりではありませんが劇場作品が6本もあるのが嬉しいですね。ちなみにここに出てる作品は、ついにすべてが出崎コンテです(『雪の女王』で2本ほど連名で別の方が描かれてますが、ほぼ出崎さんの手が加わっていると聞いてます)!
 まず『ハム太郎』シリーズ! 「出崎さんが『ハム太郎』やるらしいよ〜」という噂が業界を駆け巡った時は「『ガンバの冒険』のリメイクの勘違いなんじゃ!?」と疑ったりもしました(実際『ガンバ』のリメイクの噂を当時聞いた事がありましたから。結局噂までだったようですが)。でも話をいろいろ聞いてると、やっぱり「出崎『ハム太郎』」だったんです。そして観た時、第一の感想は——

この神様(出崎監督)を信じててよかった!!

と。本当になんでも作れる方です、出崎さんは。『白鯨伝説』の打ち切りで離れなくてよかったと心底思いました。まず楽しい! セリフとコンテがリズミカルに融合してて、子どもたちが元気に歌ってるようなアニメで「もうそろそろ60歳(当時)になろうって監督」が作ってるとは思えないほど若くエネルギッシュなフィルムでした。この時も「また3回PANとか入射光やってるよ〜」とか言ってる人が自分の周りにはいましたが、それって問題??? だって我々にとっては「まだやってる〜」かもしれないけど、子どもたちにとっては初めて見る手法なんですよ。だいぶ前、たしか『スペースコブラ』の頃、出崎さんは

画面上の効果のための技法というものは、それのみで独立したものではなく、あくまで2次的なものです

とコメントしてました。そのとおりだと思います。つまり心躍るような躍動感をフィルムで出すための3回PANであり、止め画の連続なんです。先に3回PANがあるんじゃないんです。そういった面からも出崎『ハム太郎』はよくできてるし、可愛くて大好きでDVDも全部買いました。で、劇場版『AIR』は前に語ったので飛ばします。
 『雪の女王』は『白鯨伝説』から実に6〜7年振りのTVシリーズで、しかも全36本。ドキドキしながら見守ってました。

なんとか全話コンテやりきってほしい!

……って。まさに不死鳥! 出崎監督はやり切りました! でも勘違いしないでください。別に全話コンテ達成だけが素晴らしいと言いたいのではなく、全話を監督がコンテを切る——しかも基本1話完結形態で——からこそ追えるキャラの感情線が、この作品の肝で、そこが素晴らしく映えるです。どーゆー事かというと「シナリオはあくまで道標であって先はどうなるのかわかんない!」という出崎コンテのスタイルと、出崎監督の最も好きな「旅」というモチーフが、この作品ではリンクしてるんです。だからこそ少女ゲルダと一緒に(もしくはゲルダになりきった)出崎さん自身が1歩1歩前進していき、途方もない旅をする事で「物語の先読み不能感」みたいな空気を醸し出してる気がします。自分はこれ毎週毎週リアルタイムで観てはおらず、あえてDVDで揃えてから一気に全話観ました。それはゲルダの……いや、出崎監督の長い長い旅をギュッとつなげて観たかったからで、そうする事で旅の始まりから終わりまで何も挟まず、俺も旅に同行できると思ったんです。で、ラスト、カイに再会できた時はゲルダと一緒に自分も感慨無量でした。その当時、自分も演出(監督)業をやってた分、同業者としての「本当にお疲れ様でした!」の感慨ものっかってたのは事実ですが。
 作画面ではオープニングの作監とエンディング・イラストは名コンビ・杉野昭夫様。本編はキャラクターデザインのみ参加のせいか、OP・EDを観た時は「まさにこれぞ本家!」的迫力・貫禄に満ちてて感動したもんです。本編の方では自分にとって元テレコムの先輩・八崎健二さんがローテーションの各話作監として入ってて、相変わらず可愛くてやさしい作画をなさってます。八崎さんは自分がテレコムに入ってすぐ制作した『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995・劇場)のキャラデ・作監をされてた大先輩ですが、俺個人は八崎さんと仕事でご一緒したのは動画の頃がメインで、自分が原画になっても八崎作監にはほとんど参加してないと記憶してます。ただテレコムみんなで参加した『名探偵コナン 14番目の標的』(1998・劇場)の八崎さんの原画コピー持ってます! あまりに無駄のないプロの原画でしたから(思えばテレコムには凄い先輩がたくさんいて、本当に学ぶ事が多かった)。
 話を出崎アニメに戻して劇場版『CLANNAD』。これは劇場版『AIR』同様、自分は原作のゲームって知りません。でも十分楽しめて十分泣けました。渚が死んだ後の朋也の回想構成とかは今さら新しくはないし、彼女が子どもを産んで死ぬ云々も特に目新しいドラマだとは思いません。でもその俺らの世代にとってステロタイプのドラマでも、若い観客たちには新しく映ると思うし、たとえ我々より上の世代に「こんな話、今さらやられても……」と思われようとも、

要は少女が死に周りの人たちが成長していくドラマでしょ! だったらこうに決まってんじゃん!

という出崎監督の真正面さが潔いんです。「原作に一字一句沿ってるか?」ではなく、出崎さんにとっては「1人の人間の死にまつわる少年たちの成長ドラマ」を描ききる事こそが重要で、それは成功してると思うんです。……ただところどころ飛び出す出崎さんのオヤジギャグには少々照れますね。

 で、『ULTRAVIOLET』と『Genji』は次回——。


(11.05.19)