第231回
アニメ制作と移動手段
皆さんは“アニメ監督”って本放映が近づくにつれて移動が増えるってご存知でしょうか?
出版社などでのホン読みから始まり、本編のカッティング(編集作業)はもちろん、アフレコ・ダビングといった音響作業、その他ヤバイ話数を多少小細工するためにV編に行ったり(第28回参照)もします。あと、イレギュラーで音楽打ちがあったり雑誌取材やイベントなども。意外に移動が多いのも監督なんです。もちろん制作さんが車を出してくださる場合もありますが、会社の制作進行車を個人の移動で何時間も使いものにならなくするのも気がひけるので、大抵は「歩き・自転車・バス・電車」です。そこで問題なのは、自分が
大変な方向音痴!
だという事です。当然目的地までの地図は制作さんからいただくんですが、そんなの俺の方向音痴にかかれば無駄な抵抗で。そもそも新宿の「西口」でアルタを探したり、実家の名古屋でも栄駅でナナちゃん人形を探してまわる(ナナちゃん人形は名古屋駅前にあるんです)くらいメチャクチャな地理感覚の自分に、行き先を記した紙っぺら1枚で辿り着くかってーの! それで迷子になった際、電話で救護を求めてると決まって返ってくるのが「青梅街道を」とか「環八通りに沿って」とか……
あ・の……車の運転しない人に
通り名や道路名言っても分からないんですが!
ってんですよ。「誰もが知ってる事前提」にした道案内したって永久に俺は着きませんから!
そうそう、だいぶ以前『グレパラ』のイベントにゲストで呼ばれた時も新宿駅からロフトプラスワンまで辿り着けず、
でした。気づくと自分、一度来たトコへの道を憶えようとしてないんです。あらゆる物事に対して「感じる」事は好きなんですが、「憶える」事は苦手なんですね、仕事同様。だから道歩いてると、初めての道であれば尚の事、まわりの建物や人々を見たりなどしつつ、コンテやシナリオの事だけでなく自分の身の回りで起こる様々な話題についていろいろ考え事してる間に、はい迷子です。
ところが最近、そんな自分にとっての強い味方が
タクシー!
なんです。ホント数年前まではタクシーに乗るという発想なんてなかったし、今もって金持ちでもない自分なので乗るといってもメインの移動は電車で駅に着いてからタクシーに乗るんです。何しろ監督が打ち合わせに遅刻するわけにはいきません! なので駅前からタクシーに乗り込んで
と制作さんからいただいた地図を運転手さんに渡せばOK。中には「すぐそこですよ」って呆れられる時もあるんですが「歩いて道に迷ってるわけにはいかんのです!」と地図を押しつけて初乗り料金で着いたりします。だから、自宅からフルタクシーなブルジョア移動ではなく、ただただ道に迷ってる時間がないだけで、帰りは特に次の打ち合わせなどがない限りはチンタラ駅を探して電車で帰るので、月のタクシー代が何十万とかになるもんではありません。でも、スタッフがまわりに常時いるスタジオワークがメインになってる現在、1人きりでものを考える時間は結構貴重なんです。よって、たとえ5〜10分でも道に迷う事なく目的地に着けるなら1000円くらい安いもんで、それくらい1人の時間が重要になるのもまた監督ってもんです。あ、でもタクシーは迷子にならないための手段ってだけでもなく、運転手さんとお話するのも楽しかったりしますね——眠い時ははた迷惑ですが。
「タクシードライバーの勤務形態」や「タクシー強盗の際のSOS信号」その他、家族のグチやらリストラの話、なかなかオツなものですよ。
(11.08.25)