板垣伸のいきあたりバッタリ!

第238回
『ベン・トー』の話(1)

皆さん、『ベン・トー』#01
「ネバれ、納豆オクラ丼ぶっかけチーズトッピング弁当440kcal」
観ていただけたでしょうか?

 #01は原作で言うところの第1巻・第1章ちょうどまるまるってとこです。とはいえ、シナリオにするにあたって、初見の方(原作未読な人)に分かりやすくするため、ところどころ整理しました。例えばスーパーに行く回数を減らしたりとか。なぜかと言うと……これは最終話のシナリオまで通して苦労した点なんですが、アサウラ先生の書かれる原作の台詞が面白くて、大変練られてて、そして長い(!)んです。つまり、その

台詞や会話の長さも面白さのひとつ!

で、尺がオーバーするとかいう理由だけで「じゃ、あちこち削って〜」とやると、とたんにその面白さが半減してしまうんです。だから原作の中から特に面白い部分を、シーンごとに厳選に厳選を重ねる難しさがホン読み(シナリオ打ち合わせ)の最後までつきまといました。どちらかと言うと、その面白いシーンとシーンを繋ぐために必要なシーンを、ライターさんや委員会の方たちと一緒に作っていく、って感じでしょうか。特に今回の#01は、少なくとも第1章を消化するスピードでないと初見の方は確実に退屈するだろうし、かといって原作ファンの方たちにも「アニメの『ベン・トー』を観た!」と喜んでもらわなくてはいけないわけですから。かつ、アニメならではの魅力のひとつである「アクション」はしっかり組み込みたい——で上がったのが#01のシナリオでした。
 次に#01のコンテでは自分自身でも驚いた事があります。この話、

槍水(仙)の上半身と下半身が一致する話!

だったんですね。つまり、主人公・佐藤(洋)の記憶に残ってる下半身が「氷結の魔女」で、目の前で話してる美少女——上半身が槍水先輩である、と。それがラストのバトルで「先輩が『氷結の魔女』だった!」と分かるシーンで、あの上半身と下半身が同一人物だと一致する話だったんですよね。これ、シナリオ段階では全然計算していなくって、コンテを上げた後「あー、俺、こんな構成にしてたんだ!」と気づいて自分がビックリしてました。#01を観ていただくと分かるんですが、前半佐藤の目の前にいる槍水ってほとんど下半身(太もも)はフレームに入ってなくて、フレーム的に入ったとしてもゴミ袋で隠れてたりするんです。これは無意識のままやってました。演出面的にはそこがポイントで、作画面でも太もものアクションが難しくって、レイアウト、ラフ原的にかなり俺の方で修正を入れさせてもらいました。あと黒ストッキングの質感には拘ってみてて、

という処理を、キャラデの平田(雄三)さんと自分がほぼ同時に出したアイデアでした。

あ、でも拘ったのは太ももだけではありません!(汗)

 アクションシーンで殴った時・蹴った時などに「タタキ」を入れてます。「タタキ」とは、昔はセルに向かって1枚1枚絵の具をランダム・大雑把に「ぶっぶっ」と吹きつけるなどして散らして迫力を出す手法で、昭和のTVシリーズで爆発や波しぶきなどで使われていて、人間の格闘アクションで使うのは最近あんまり見た記憶がなかったのです(そういう作品もあったんでしょうが……)。今回は「派手にタタキまくってください!」と撮影の山田和弘さんにお願いして、やりまくってます。山田さんは山本沙代監督の『ミチコとハッチン』の時ご一緒してて、その濃い仕事に感銘を受けてたもので、今回、笠間(寿高)制作Pより「撮影は旭プロダクションにしようと思ってる」と言われた時、迷わず「旭なら山田さんにお願いしたい!」と言って実現しました。だから「タタキ」ひとつとっても板垣のイメージどおり「汗のように散らす」をちゃんとやってくださってて感動です。1コマ1コマ観てもらうと分かるんですが、しっかり水滴風の「立体感のあるタタキ」になってますし、ちゃんとスローモーションにも対応してくれてます。

 それと、

動きのある光!

にもこだわってほしいとお伝えしてあります。「BG(背景)の上に貼りつく光はイヤ!」と。つまり「フレア(光って見せるための効果としてうつブラシ)は本来レンズの都合で目に見えるものだから、カメラワークで被写体とレンズとの角度が変わる以上、それに応じたフレアの動きがあるハズだ!」ってわけです。スーパーの天井から明かりをバックに跳ぶ槍水の手ブレPANのカットなどがそれでした。

 で、今回はここで時間切れ。次回はオープニング・エンディングなどについても。

(11.10.13)