第244回
『ベン・トー』と手描アニメ
何か、前々回から引っぱってた#04用のOPの話ですが、現状の仕事量的に巧くまとめる時間が取れなかったので(書きたい事が多い)、もう少し落ち着いたとこでじっくり書くとして、今回は別の角度から見た『ベン・トー』の話。というのも、今現在コンテ作業はとっくに終わって、ラフ原の修正を手伝ったり原画描いたりしてるため、頭にあるのはコンテより「作画」の事ばかり。だから、
『ベン・トー』の手描きアニメの話!
だいぶ前、この連載で「これからはCGアニメだ!」的な事書いて周りの人からドン引きされてしまった板垣ですが、今もってその考えはほとんど変わってません。CGの勉強してCGアニメを作りたいと本気で思ってたし、今でもそれは現在進行形です。でも改めて断っておきますが、俺自身アニメーターである以上「手描きのアニメ」は大好きですよ。ただ実際問題ハイビジョンに耐えられる商品を作ろうとするとCGの方が圧倒的に仕上がりが綺麗なのは事実だし、2〜3年前、某メーカーさんからも「その方がありがたいです」と言われた事があります。じゃあ「何で手描きでアニメ作るの?」と訊かれれば答えは簡単で、手描きの方が「まだ制作費が安くすむ」からです。そう、自分ら手描きアニメーターが誇りを持ってる動きやら線のやわらかさに価値を見出してるのは、アニメ制作現場のスタッフだけなんです、早い話。そこまで理解した上で「じゃ、次はいよいよCGか」と考えてた矢先、話が来たのが『ベン・トー』なんです。実は『ベン・トー』の話をいただいた時も、同じ事を梶田Pに話したんです。ところがとりあえず『ベン・トー』の原作を読んでたところ、「CGアニメの勉強はまた今度〜」と先送りする事を決めました。なぜなら、
この『ベン・トー』は、手描きアニメに適している
と思ったからです。つまり、自分が常々考えてる「手描きアニメの素晴らしさ」的要素がすべて揃ってたのが『ベン・トー』ってわけ。
自分が考える「手描きのアニメが実写でCGより勝ってるとこ」は、
美少女(萌え?)とアクションと食事
の3点にしぼられるんですが、全部ありますよね、『ベン・トー』に。
まず「美少女」は「美少年」に置き換えても成立します。これはあくまで条件つきの利点かもしれませんが、手描きのアニメキャラは実写ほど生っぽくなく、CGほど機械的でもなく、お客さんの要望に応じた情報量のみでキャラを作れるし、体は止めて胸だけ揺らしたりもできるわけでしょ。実写やCGはこの「部分的に動かす」が即「違和感」につながるんですが、手描きのアニメはそれらが自然に表現できます(ただ、条件つきと言ったのは、実写の生っぽい女の方が好きって人も当然いるはずだからです)。
で、「アクション」ですが、俺個人としては実写やCGよりもだんぜん手描きの方が有利。だってタイミングが自由自在な上、そのタイミングに合わせてポーズが組めて、さらには部分的にデフォルメも可能。それに対して実写のアクションは1コマ1コマの情報量は高いものの、やはり役者さんができるできないの限界があるし、タイミングも、できて早回しや中抜きくらい。CGは実写より多少融通がきくでしょうが、やはり舞台とキャラをしっかり立体で作らなきゃ何も始まりません。やっぱりアクションは手描きの方がやりやすいです。
そして「食事」。これは「実写の方がリアルで美味しそうじゃないか?」と仰る方も多いかと思いますが、これまた、その情報量の面ではもちろん敵いませんし、美味しそうに食べる芝居が巧い役者さんもいるとは思います。
でもそれは、普段目に映る当たり前の光景としてしか認識されないんです、実写だとすでに。じゃCGは、と言えば、まだ自分の目の行き届く範囲では美味しそうな感じのするCGは見たことがありまあせん(いずれそういうのにお目にかかったら、考え直します)。ところがこれが手描きだと、アニメーターが各々ちゃんと実感を込めて描く事に成功すれば、
あ、確かに豚の角煮を箸で割るとこんな弾力あるある!
と、お客さんの脳内再生によって実写よりも「美味しさ」を伝える事ができるんです、たぶん。
以上の3つが、俺にとっての「手描きアニメ」で、最終的に手で画を描いて芝居を作るアニメのよさはそれに尽きるのではないでしょうか。そして、3つの内、ひとつふたつが入ってる企画はたくさんあるけど、3つすべてがあるのは『ベン・トー』だけだと思ったので、今、頑張ってます!
(11.12.01)