板垣伸のいきあたりバッタリ!

第250回
『ベン・トー』の話(9)

(#07の話、続き)とにかく#07はヤスカワショウゴさんのシナリオありきでしょう! 何より「サービス回」である以上、女の子キャラを水着にするのが目的なんですが、マっちゃん(松葉菊)が務めるスーパー(ラルフストア)の系列店(?)に「むっちゃハワイやんパーク」があって、そのチケットを一同に配るところから実に自然に全員水着にしてくれました。二つ名の由来ネタも無理なく入れてくれて、沢桔姉妹(オルトロス)も登場。バトルもやって食事シーンも入れて——すべてがとてもよいバランスでまとめられ、かつ「むっちゃハワイやんパーク」に代表される「ロコもっこり〜」や「オムッぱい〜」などのネーミングセンスもGJ! たぶんいちばん皆が笑ったホン読み(シナリオ打ち)でした。やっぱり皆が笑顔で作ったシナリオは、シナリオ自体が勝手に「面白くなろうとする」もんなんです。実際プロデューサーさんらも「アサウラ先生の世界観を踏まえたオリジナルとして非常によくできてる」と喜ばれてたし、アサウラ先生ご自身もアフレコ時大笑いしてました。で、面白いシナリオができたら次は面白いコンテ。#07のコンテ・演出は中野英明さん。「『探偵オペラ ミルキィホームズ』で面白いのを作った演出がいる!」とシリーズ構成のふでやす(かずゆき)君が紹介してくれた演出さんで、確かに「大当たり!」でした。自分が連れてきたスタッフがいい仕事をした時も嬉しいものですが、初めて組んだスタッフがいい仕事を見せてくれた時はそれ以上に嬉しいもので、中野さんのコンテを見た時もそうでした。自分のコンテと違って落ち着いててFIX(カメラが動かないショット)が多いのが印象的。室内シーンも逃げないアングル(やたらとキャラの足をフレームで切ったりとか、なんでもあおったりとかしないで、しっかり床まで入れる)をおさえてくるし、キャラの芝居も丁寧に追ってました。おそらくこれらは板垣の方から出した発注に対する中野さんの答えなのでしょうし、これもまた正解。いいタイミングなので……というかすでに「今さら?」感も否めませんが、今作『ベン・トー』コンテ発注内容を挙げてみます。

  • 大粒の汗のスライドや、顔・頭にタテ線などの「漫符」表現はいっさい禁止。
  • イメージBG(背景)も禁止。
  • 流背(流線タッチの背景)・ボケ背(空間色のグラデ背景)などは、よほど寄りでない限りは禁止。
  • アブノーマル色もごくごく特殊なカットを除き基本なし。

 以上の画面作り上の縛りはつけさせてもらいます! つまり画的にはリアリティの方を優先させる事で「半額弁当を取り合う話」にしたいのです。原作を読んでいただくと分かると思うのですが、主人公たちの戦いはあくまで半額弁当争奪戦なんであって、相手を倒すのも「弁当を奪うのに邪魔だから」なんです。決して相手を倒すだけを目的にしてるんではありません! 例えば今挙げた画面処理で

とか、

などとかの90年代的マンガ風アニメ描写を乱発すると、この作品における「バトルのリアリティ」の置きどころが分からなくなってしまい、痛さも感じなければ、疲れも感じなくなります。つまりは「苦労して勝ち獲った半額弁当」自体になんの感動もなくなるわけです。今作はバトルで完結するのではなく

バトルの末に手に入れた半額弁当を「女の子たちと一緒に食べる」という男の子の夢まで見せてあげる事!

が最大のコンセプトであって、これは原作も同じ。担当編集さんやプロデューサーさんからも「そこは絶対外さないで!」と釘を刺されたトコだし、そんな事言われるまでもなく、それを外すくらいならこの原作をやる意味すらなくなると自分は端から思ってました。だからこそ、バトルは「シャープにして歯切れよく!」をモットーに、尺を抑えるまでしてでも「女の子との食事シーン」だけは確保してほしいんです!(以下略)

 つまりは単純にまとめると、「リアルなアクション、リアルな質感重視」って事です。これに関しては一部のスタッフから多少疎まれたりしたし、ラッシュ(フィルムの上がり)観て俺が怒鳴ったりもしました。でも「これをやらないと『ベン・トー』ならではの感動をお客さん(視聴者の皆さん)に伝えられない」と説得してコンテ発注〜演出打ちをやってたんで、結構骨が折れました。
 で、#07の中野さんもその他の演出さんたち同様、それらの禁止事項だらけのコンテ発注に対して、とても真摯に取り組んでくれたわけです。真摯すぎてノートパソコンを叩く白粉のメガネを全面ハイライト(白ベタ塗りで目が見えない描写)にする程度の表現はOKだったのに、瞳をしっかり描いててくれたくらい真面目でした。あと、電車内での「大富豪(大貧民)」のシーンとかカードのやりとりも真剣に考えてたし、アバンの「ハワイみたいなトコなんでしょうか」のくだりやAパート頭……白粉のターヘル・アナトミア(これもヤスカワさんのネタです)についてブツブツ語ってるくだりに佐藤のセリフ(やモノローグ)がかぶってるあたりとかも、結構いろいろコンテ時に仕込んでくれてもいたので、基本そのまま使わせてもらいました。あと、いちばん笑ったのはやっぱイルカの着ぐるみ半額神がシュールすぎだった事。コンテの画ですでにとても残念なデザインで最高! 周りのスタッフたちにもあまりにも好評で

 と、中野さんが描いたのをまんま使ってます。本編のコンテもバトルシーンを一部修正・追加をした程度(プールサイド側の噴出口で加速するあたりとか)で、ほとんど中野さんのフィルムとして仕上がっているのではないでしょうか。俺は大満足でした。作監の宮下雄次君・浜津武広さんのお2人には水着デザインまでしていただいたり、本当にお疲れさまでした。
 そして#08。これも印象的にはオリジナルに近いのでしょうか。前半のセガサターンを追って5階から飛ぶ〜「翼」の朗読〜入院は原作でも相当笑わせていただきました。で、沢桔姉妹(オルトロス)登場。#05、#06同様「槍水を立てる」ために、沢桔姉妹の標的がハッキリ「氷結の魔女」に向かってるのを分からせる事を目的としてホン読みを進めました。「ナースに扮装して病院に潜入して間違って佐藤に接触(ハートマーク)」はこちらから提案したんですが、姉妹のボケ・ツッコミのやりとりはチェックが厳しかったですね〜。でも、可愛い姉妹なので、話し合っててどこか和むホン読みだったと思います。山田由香さんが頑張ってシナリオをまとめてくださいました。山田さんはこちら側の要望を非常に巧く組み込んでくださるので、改稿するたびに面白くなっていくんです。シナリオの改稿も作画のリテイクと似たところがあって、「言って直せる方だからこそ改稿を願い出る」のであって、直せない方ならいち早く受け取ってこっちで直すはずなんです。ところが山田さんはちゃんと直してくださるので、何稿も改稿させてしまい申し訳ありません(汗)。その甲斐あって、とても可愛いシナリオに仕上がり、次はコンテ。#08のコンテは——

(12.01.19)