第257回
『ベン・トー』の話(13)
やっぱり、酷い原画を目にしたら直したくなってしまうんです。
それはおそらく、すぐ「分かってしまう」からでしょう
だいぶ前にこの連載で書いたとおり、板垣はテレコムで友永和秀さん(今さらここで言うまでもないけど念のため、『カリオストロの城』のカーチェイスを描かれたアニメ界の巨匠)に原画を教えていただいた幸せ者です。友永さんの原画指導は非常に丁寧で、とにかく自分を横に立たせて1時間でも2時間でも
と修正に修正を重ねてくださいました。キャラクターの一挙手一投足からタイミング、さらにカッコいいレイアウト、本当に細部にわたって直して直して、たまに原画追加してまた直します。例えば俺が10枚の原画でそのカットを組み立てて持っていくと、友永さんが「あの画も足りない、この画も入れろ!」と30枚以上のカットにして返されるわけ。そして返される際は、自分の原画と友永さんの修正原画の違いを1枚1枚説明してくださるんです。しかもただ「原画をいっぱい描け!」と苦労を強いるだけでなく「この尺の芝居ならこの画とこの画の2枚で充分もつぞ!」「こういうのは止めでいける!」「このカットとこのカットは同ポジ(同一レイアウト)にすれば云々」と力の抜きどころもちゃんと教えてくださいました。あと何よりも、コンテの画ありきでも、原画マンの腕で「こーすればもっと面白くできるんだよ!」と。
つまんねーのをコンテのせいにするのは、原画マンとしてやるだけの事やってからだ!
という姿勢も友永さんから学んだんだと思います。あと原画マンとして独り立ち(友永さんについてたのは1年ほど)してからも、テレコムだと、描いた原画をクイック・アクション・レコーダー(原画や動画を取り込んでタイムシートにあわせて簡易再生する機械。現在はPCでやります)でなんとなく確認してると、たまたまのぞいた大塚康生さん(これまた日本アニメ界の重鎮!)に
と、不意打ちのように原画を教えていただけたりもするわけ。テレコム辞めてフリーになった時、いろんな方から「なんて羨ましい奴!」と言われたし、自分自身でも幸せ者だと思います。ところがこれ、アニメーターなら「幸せ」と言えるんですが、こと演出となると一概に「幸せ」とも言えず——いや、はっきり
不幸です!
だって、どの原画を見ても「あ、これはここがダメ」「こっちはこの画が足りない!」「おい、これだと失敗するぞ絶対!」と簡単に分かるんですから。以前とある新人演出さんが「板垣さんはどんな原画でも欠点って即座に分かるんですか?」とやや挑発的に質問された時、「誰よりも巧くとはいかないまでも、0〜40点のダメ原画を最低でも60〜70点までは持ち上げる自信はあるかな」と言ったくらい、あっちこっち見えるんです、それぞれの原画の欠点が。で、それを全部直してると完全にスケジュール崩壊、ついには作監入れる時間がなくなるわけです。でも、原画の仕組みも欠点も何も分からない演出さんは、そこにある原画がよい出来か悪い出来か、はたまた失敗か分からずに「作監様お任せっ!」にできるんです。
これって、どっちが幸せに見えます?
——というわけで、『ベン・トー』#10のアクションチェックは大変だった、と。アサウラ先生のブログでも書かれてますが、この#10、BD&DVD用にアクションシーン20カット以上原画描き直しを自分でやりました。
(12.03.08)