板垣伸のいきあたりバッタリ!

第262回
アニメとゼロ

『ベン・トー』の話も全12話分済んだので今回はまた脱線——

というのもついこないだ、毎度おなじみ大好きなBOOKOFFでとてもよい買い物をしたからです。 なんと

もちろん、1963(昭和38年)〜1966年放映「国産初の1話30分本格的連続アニメシリーズ」のモノクロ版『鉄腕アトム』です。原作者・手塚治虫先生自身が制作・演出・脚本・コンテ・原画……もちろん始めの方の話数がメインですが、いまだかつて連載を何本も抱えた人気絶頂(当時)のマンガ家でここまでアニメを作った人はいませんし、これからも出ないのは間違いないでしょう! 亡くなられて後年、アニメの人がいくらあーだーこーだ言ったところで、少なくとも今現在まで手塚先生を超えるクリエイターを自分は知りません。ま、手塚先生の話はまた別の機会を設けるとして、今回の目的は別! もうすでにアニメ様や他のアニメライターさんらが話題に挙げてるので今さら恐縮なんですが、あの有名な

第34話「ミドロが沼の巻」

1本を観たさにBOXを買ったのです! そう、その「あまりの出来に手塚先生自身が完成フィルムを破棄したのでは?」という噂の「幻のアトム」! 「手塚先生が破棄」——は根も葉もない単なる噂話でしょうが、2002年のDVD-BOX発売の際、アメリカで放映されたフィルムが発見され日本語版の音声テープを組み合わせて復元されるまで、「ミドロが沼の巻」は長らく行方不明だったというのは本当らしいです。
 ご存じない方に簡単に説明すると

藤子・F・不二雄、藤子不二雄(A)、石ノ森章太郎、つのだじろう、鈴木伸一が原画を描いた『鉄腕アトム』が「ミドロが沼の巻」

なんです、早い話。1963年にトキワ荘出身のマンガ家らが設立したアニメ制作会社であるスタジオ・ゼロに手塚先生がグロス出しした1本で、当時の人気マンガ家の先生らが一原画マンとして参加している——正にドリームチームによる作品でしょう。もちろん「ミドロが沼の巻」の存在はトキワ荘オタクの俺が知らないハズもなく、ずっと観たかったのですが、2002年に発売されたDVD-BOXは「ミドロが沼の巻」1本の狙い撃ちで買うには高すぎ(定価¥28,200)で見送ってたんです(しかも手塚作品の中で『アトム』は最も苦手な部類……)。で、『ベン・トー』も終わったし「自分へのご褒美」的買い物でやっと観る事ができました。

それはもう大興奮!

データ・ファイル(DVD-BOXの特典ブックレット)には各シーンごとの原画マンの割り振りが載ってて、本編には藤子(A)先生・つのだ先生らのオーディオ・コメンタリーも収録されてて、さらに映像特典で座談会も入ってます。特に自分などは解説に頼らずとも子供の頃から大好きな藤子A先生のところは一発で分かりました。アトムの顔がご自身が当時描かれてたマンガ(「シルバークロス」や「ビッグ・1」など)とソックリですから。さらに藤子F先生のシーンは、その他大勢のモブキャラの顔とポーズがそれだし、石ノ森先生のアクションもそのまま石ノ森マンガのアクションを彷彿させてて凄い勢いです!
 ただ、それらテクニカルな事よりも、それぞれ連載を抱えた超多忙な先生方が、昼間自身のマンガを描いて夜中徹夜でアニメの原画を描いてたという「遊び感覚」がいいんです。だってマンガの稼ぎに比べたらアニメなんて儲かる仕事じゃないハズだし、藤子不二雄(A)+藤子・F・不二雄共著「二人で少年漫画ばかり描いてきた」(日本図書センター刊)にも「苦しくて楽しかった“会社ごっこ”」とスタジオ・ゼロの事について書かれてるわけで、おそらく単純に「僕らもアニメ描いてみようか!」っていたって軽い動機だったんでしょう(憶測)。それが証拠に(?)その時すでにアニメのプロだった鈴木伸一さん以外のマンガ家先生たちは「ミドロが沼の巻」1本でアニメに懲りて実制作からは手を引き、漫画部でマンガを描く事でスタジオ・ゼロの維持費にあてる事となるわけで、何しろあの世代の先生方の「旺盛な遊び心と好奇心」には本当に頭が下がるし、そこが大好きな俺です。やっぱ「アニメ会社に就職に来る」俺ら世代のアニメーターは、金や名誉じゃなく、ただただ素朴に

画が動くって楽しくて面白い!

って思って行動した手塚先生や藤子先生らから学ぶ事は多いですね。

——とすみません、時間です……。

(12.04.12)