板垣伸のいきあたりバッタリ!

第265回
峰不二子を描いた男(前編)

 前回の続きで『ルパン』の話。つまり自分にとって『ルパン』はかなり思い入れのあるシリーズだという話が前回でした。で、

『LUPIN the Third 峰不二子という女』第5話「血濡れた三角」

です! 今回のお話は山本沙代監督から直接電話をいただきました。たしか『ベン・トー』が動き出して間もなくだったと思います。「次のシリーズでコンテ・演出で参加してほしい」との事で「タイトルは? 内容は?」と訊くと、なんと『ルパン三世』だというではありませんか! 羨ましい……。でも、もっと詳しく訊いたら、

だというのでした! それを聞いた瞬間、

『ミチコとハッチン』の山本沙代監督が描く「峰不二子」って間違いなく面白くなる!

と思い、即、

って、やる事にしました。さらに

と自分の希望を付け加えてOKをもらったんです。次元が大好きなんです、自分。

目立ちたがりの主人公の徹底したサポート役に見えて、実は一発の銃弾ですべてを終わらせる力を持ってて、付き合いもいい。男なら誰でも傍らにいてほしい相棒であり、一見他のキャラほど能動的に動かないぶん、表に出ていないドラマが潜んでいる——それが次元大介!

な感じで、あとなんといっても帽子の先から顎鬚までの見事なまでの三日月顔が素敵過ぎる、と。特に今作のキャラデ・小池健さんの描かれた次元は今までの『ルパン』シリーズの中で一、二を争う三日月顔で、おそらくパイロット・フィルムやマモー編以上に原作に近い三日月なんじゃないでしょうか? あと小池さんのキャラ、ルパンが実にいい顔してます! 個人的には今までのシリーズの中でいちばん好きなデザインです。なんていうか「殺気」が漂ってるんですよね、悪党ヅラ。「コイツなら本当に人を殺しかねない若さ」が漲ってて、ゴールデンタイムの2時間スペシャル版みたいな、優しいオジサンじゃないのがイイ! それらキャラ表のおかげでコンテのイメージがずいぶん膨らんだと思います。

とにかく一触即発の「殺気」に満ちたルパンと次元を描きたい!

と。監督からかなり「板垣さんにお任せします」と好きにやらせていただいたコンテで(ま、『ミチコとハッチン』の時もそうでしたが)ヤケに楽しかったです。でも、「次元、次元」言って描き始めたコンテのはずが、意外にもルパンと次元の銃撃戦とかより、冒頭のルパンと不二子のやりとりの方が気に入ってたりする不思議。それは単に「裸の不二子が」とかではなく、若い頃テレコムで大塚(康生)さんがよく解説してくださった

ルパンたちの崩れたポージング

を実際の『ルパン三世』シリーズで描けたという楽しさがあったからだと思います。例えば不二子がプールで泳いでいる時にプールサイドでウ◯コ座りしてるルパンとか、バラの花束を不二子に渡したあとのドヤ顔ルパンも片側に体重を傾けてます。思いの外喜んでくれなかった不二子を背にふて腐れてるルパンもイスの背もたれ側を前に(背もたれを股に挟んだ状態)して座ってたり……この背もたれを前にした座り方などは、大塚さんがくだけたポーズとしてよく例に出してました。思えばテレコムは、入社試験も原画試験も、デッサン力やパースペクティブ、まして画が綺麗に描けてるかなどより

いかに面白いポーズが描けてるか

がメインの価値基準だったようで、自分にはそれが染みついてるんです。それだからこそ、今回は本編作業もかなり積極的に原画を描きまくって

崩したポーズのカッコよさ

を追求したかったわけ。なにせそれが十分に活かせる素材……というよりそのカッコよさを描かなければ『ルパン三世』の世界にならないでしょ、と思ったからです。フライングで作画の話が飛び出しちゃいましたが、順を追ってって事で、演打ちの話に戻ります。コンテが上がり監督のチェック後、演出処理の打ち合わせです。山本沙代監督の要求レベルは非常に高いです。『ミチコとハッチン』の時もそうでしたが、とにかく質感にこだわるんですよね。俺なんかが監督する時こだわるのはキャラの動きと画面の立体感で、早い話ダメ原画が上がってきたらなら止めてボカシちゃえ、と。ところが今回の『峰不二子』は「ボケなし」「止め画Q.T.B(アクションの止めポーズを速いカメラワークでポン! と引く)」などは禁止! そしてとにかくありとあらゆるものに「質感のテクスチャーを貼り込む」というこだわりよう——。そのこだわりがあったればこそのオープニングであり第1話でした。特にあのオープニングは凄すぎでしょう! あのスケジュールで作ってちゃんと帳尻があってクオリティの高いモノが上がってる事自体がすでに天才なんだと思います。あれほどのフィルムを作る監督なので、自分の切ったコンテなどはボロボロに直されるかと思いきや、ほとんどそのままスルーでした。ありがたや。



こんな調子で山本沙代監督はこちらの考えた事を素直に喜んでくれるのでやりやすいんですね

で、次回は原画の話。

(12.05.10)