板垣伸のいきあたりバッタリ!

第266回
峰不二子を描いた男(後編)

90カットほどラフ原(そのうち半分はしっかり原画まで)描きました!

 あ、前回の続きで『LUPIN the Third 峰不二子という女』第5話の話です。小池健さんのキャラがカッコいいのでたくさん原画描きたかったし、コンテ切ってる際、結構具体的に作画プラン(例えば「ここはキャラ止めで炎だけで6枚リピートか」など)ができてたので

こりゃ、スケジュールが短いからこそ逆に自分がガシガシ原画描いた方が早い!

と思ったのでした。で、俺の描いたシーンは最初と真ん中とラスト。具体的には、

  • 冒頭、コテージのプールサイドでのルパンと不二子(全裸)のやりとりを丸々(サブタイ前すべて)
  • 中盤、崖っぷちを歩く次元のなかなか火が点かないライター〜ファラオの仮面が割れてルパン登場〜ルパン・次元発砲まで
  • ラスト、ピラミッドの外でのルパンVS次元と去る不二子のシーン丸々(最後まで)

以上のラフ原がメインで、レイアウト時一発原画で提出したカットも多数、といった感じです。まず、冒頭のコテージのシーンは前回も少し説明したとおり、ここは「ルパンのポーズと仕草」を楽しく描きました。指パッチンするルパンやタバコを踏み潰すルパンなど、個人的には『Devil May Cry』以来のハードボイルド脳を使って画を描いてました。コメディやアクションものの作品が振られる事が多いけど、基本ハードボイルドに憧れてる板垣です。だから不二子も全裸でルパンの目も気にせず胸も隠さずバスローブでも肩にかけるのみがカッコよし……と。ま、全裸で泳ぐまではシナリオにありましたが、シーンいっぱい隠す事なしにしたのは、コンテ時決めた事で山本沙代監督もこっちの方が好みらしいです。何せ、

と嬉々として語る監督ですから。あと、あのコテージのシーンは、ワインをグラスに注ぎ、そのグラスを手に取るとかを自然に見せるのがいちばん苦労しました。ちなみに最後の最後、ギリギリに上がった原画がワインのシーンです。

 1分1秒、1枚のムダなラフすら描く時間がないくらいの緊張感で原画を描くハメになったわけですが、それはそれで負け惜しみではなく結構いい画に上がる場合もあるというのが原画作業の面白いところなんです。速いスピードで引いた線が当然「勢いのある画」に繋がるからで、アクションに限らず日常芝居のカットでもそれは同じ。ひとつの芝居を描くのに「この画とあの画とその画」となるべく無駄のない原画プランを立てようと思えば思うほど、その動きのリアルスピードに近い時間で考えようとしないと画面が綺麗にまとまらないんです。これは大塚康生さんが仰る「3秒の動きは3秒で描け」の言葉に集約されてると思いますが、つまり変に描く時間があり過ぎると「ここもあそこも動かそう」と考えすぎてしまって「どこが見せたいカットなのか」を見失ってしまうというわけです。もっとも、根本的に画が足りない原画は論外ですが。
 ついでにここで付け加えると、次元をピラミッドへ連れていくジープのおじさんが大塚さんなのは俺の仕業です。コンテですでに大塚さんを描いてました! シナリオでは質屋の婆さんが手配した青年と書かれてたかな? ……すみません。正確なト書きは忘れましたが、コンテ打ち時に監督に「若い男か質屋の婆さん本人でもイイ」と言われたのは憶えてます。ただ、そこで俺が考えたのはまず「婆さん本人はいくらなんでも画にならない」。で「ジープに乗せて〜」とシナリオにあるし、そして何より今回のシリーズが「ルパン三世アニメ40周年」と銘打たれてるにも関わらず

大塚さんに触れないのはオカシイ!

という思いにかられて描いたんです。さらにここの大塚さんとジープのシーンは、自分の作監パートじゃなかったのですが、大塚さんの顔だけは「修正参考」を入れさせてもらいました。
 次に中盤の自分担当のパートですが、あの崖っぷちの炎上とファラオのシーンはやっぱり

火・炎の作画の楽しさ!

に尽きますね。この「火」というのもまた大塚さんから教わった内容を思い出しながら描くんです、毎回。大塚さんいわく、火というものは単純な形で表すと

であり、「あとは描いていくうちに自分なりの火ができる」との事でした。とりあえずこれを基本にして、焚き火の原画(動画)を描いて大塚さんに見せにいき

と言われてメチャクチャ嬉しかった新人の頃を思い出しつつ今回の「大炎上」の原画を描きました。ただ二原にまいた(自分で清書できなかった)カットは、やっぱりあまり上手くいってないものもいくつかあって、やや残念でしたが。まあこれも自分の力不足です、スミマセン。あと、ツタンカーメンが割れて登場するルパンは思い切り悪党ヅラで好きです。自分の世代のルパンといえば『新ルパン』の再放送からで(本放送時に産まれてはいたけれど、あまりにもガキの頃で、やっぱり記憶にあるのは小学生の時に観た再放送)、その夕方に繰り返される『新ルパン』再放送の間にたまに挟まれた『旧ルパン』再放送(特に前半)に対しての違和感——妙に大人のムードが漂う「カッコいい悪人」なルパンを再現したかったんです。つまり今で言うなら毎年恒例の『ルパン』スペシャルやコナン君と共演する優しいおじさんルパンしか知らない若いファンたちが、たまたま目にした時「なんか悪いルパン見た」と感じてもらいたいという、多少の悪意があったりして。
 あと自分担当パートの次、コウモリを落ち落とすルパン〜襲い来る短剣のトラップをかわすルパンのあたりは『戦国BASARA弐』や『ベン・トー』OPでもお世話になった東出太さんの原画で、さすがのカッコよさでした。そして、石像に発砲する次元のあたりも『ベン・トー』OPで佐藤VS二階堂のアクションを描いてくださった光田史亮さん。巧かったです!
 で、最後の自分の原画担当パート、ピラミッドの外のシーンです。バイクに跨った不二子の方にルパンの体が向いてないのがポイント。不二子が目の前にいるのに体は次元の方を向いて臨戦態勢……てとこで、ルパンの気持ちが次元に向いている事を表してます。そのルパンと次元の俯瞰の大ロングで朝日で長〜く伸びる影が離れる——描いててもの凄くテンションが上がってたシーンです。ここのシーンは半分以上清書までできたと思います。何せ美術設定のないシーンだったので、先にレイアウトを上げなければならず(シーンの色決めなどするのに美設がない場合、本番レイアウトを着彩ボードにするんです)、演打ち後、いちばん最初に描いたシーンでしたから。やっぱり、ルパンと次元以外何もない殺風景な場所のほうが『ルパン』のムードは出ますね。ルパンは立ってる場所で心情表現ができるんです。最近のキャラクターでそーゆーのってないでしょ? 今回のラストシーンはその意味でも、楽しく画作りできました! で、総括すると、

(12.05.17)