web animation magazine WEBアニメスタイル

 
COLUMN
板垣伸のいきあたりバッタリ! 第123回
黒澤明とどん底

 前回のような具合で黒澤明の映画が大好きな板垣です。ま、でも一番観たのは上京して中野坂上の学生寮にいた時ですね。本当に1〜2日おきに立て続けに近所のビデオレンタルに通って借りまくりました。……と言っても黒澤映画は全30本。50数年映画撮ってたわりには少ない方で(マキノ正博監督などは生涯で200本以上撮ってるし、山田洋次監督だって“寅さん”だけで50本近く撮りつつ他にもいっぱい撮ってるんですから)、ひととおり観るのは簡単でした。ひととおり観た後、お気に入りを何十回か繰り返し借りたりしたんです、「羅生門」「七人の侍」「用心棒」など。特に「羅生門」は少なくとも100回近くは観たんじゃないでしょうか。三船敏郎の力強さ、京マチ子のエロ……いや、美しさ、そしてカメラマン・宮川一夫の完璧なまでの画作り。芥川龍之介の短編(薮の中)を90分の映画に仕上げた黒澤明と橋本忍の脚本力とか、もうすでに数えきれないほどの映画評論家の方たちが本にしてるので、今さら俺が書く気もありません。
 じゃあ――

 なぜ、先週今週とクロサワ、クロサワ、黒澤言ってるのか?

 それは、以前新人の原画マンの指導をしていた時とかによく

「何か、この作品ノらないんですよ」
「テンションが下がってて……」
「描くのがツラい!」

 と言っては

「どーしたらいいんですか?」

 ――って相談されました。たぶんまじめに「テンションが……」なんでしょうから、俺もまじめに答えるのは、いつも同じ事。

「人間なんだからどーしてもノらない時、テンション上がらない時はある。だけどこれで飯食ってるプロが、上手く描けないとかカット数上がらないのを、テンションのせいにするのはやめなさい。ノらないならさっさと帰って、好きなアニメや映画でも観てテンション上げて明日にのぞむように。この仕事するくらいなら誰でも1本や2本はあるでしょ、どんなに落ち込んだテンションからも救ってくれる、好きなアニメや映画が!」

 それが、黒澤映画だってだけです、板垣の場合。
 でも、念のため言っておきますが、俺は黒澤映画を世間ほど過大評価はしてません。それどころか30本のうち半分以上は失敗作だと思ってます。台詞もストレート過ぎて臭い(「醜聞」のラスト、「星が〜」とか)し、どの映画もテーマを語る……というよりハッキリ、“説教”でしょ?
 ただ、その失敗作も多い全30本のフィルモグラフィーから、50数年におよぶ監督生活……というより黒澤監督の人生が見えてくるんです。

 映画の半分が黒澤明本人でできている――それが黒澤映画!

 で、映画に限らず、そーゆーものが好きなんです、俺。ドラマが面白いとか、画作りとかより

 “魂”が伝わってくる!

 ものが。だって、映画を観れば絶対分かります。

 黒澤明は誰よりも映画を愛している!!

 って事。その愛だの魂だのが創作意欲がどん底な時の俺を救ってくれるんでしょうね。



 そう、どん底な時……



(09.06.18)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.